【ストーカートラブル】加害者に「連絡したら違約金」の合意書を作らせることはできる?

若井亮

若井亮

テーマ:ストーカートラブル

この記事は、2026年10月時点の法令(ストーカー行為等の規制等に関する法律〔令和7年12月30日施行の改正を反映〕、民法、刑法、民事執行法、民事訴訟法、民事保全法)と、合意書をめぐる一般的な実務の運用をもとにしています。実際に取れる手段は、被害の内容や手続の段階によって変わります。


「もう連絡してこないと約束させたい。破ったらお金を払う、という形にすれば止まるのではないか」。つきまといや執拗な連絡に悩む方から、こうしたご相談をいただくことがあります。警察に相談するかどうか迷っている段階の方もいれば、すでに警察から警告を受けた相手に、民事上の約束もさせておきたいと考える方もいます。

 結論から言うと、加害者との間で「連絡したら違約金を支払う」という合意書を作ること自体は可能です。ただし、合意書は相手が自分の意思で署名して初めて成り立つものであり、こちらが一方的に「作らせる」ことはできません。また、署名を求める過程で無理をすると、身の安全が損なわれたり、合意の効力を後から争われたりするおそれもあります。

 この記事では、加害者が合意書に応じる場面、自分で書かせようとするときの注意点、弁護士を通じてまとめる流れ、相手が応じない場合の手段を整理します。合意書に入れる条項の具体的な書き方は【ストーカートラブル】示談に入れる条件|接触禁止・転居・違約金で詳しく扱っていますので、あわせてご覧ください。

合意書は「作らせる」ものではなく「合意してもらう」もの


相手の署名がなければ合意書は成り立たない

 合意書は、当事者双方の意思が合致して成立する契約です(民法522条1項)。被害を受けている側の要求がどれほど正当なものであっても、加害者が内容に同意して署名しない限り、合意書としての効力は生じません。裁判所や警察が、民間の合意書に署名するよう加害者に命じる仕組みもありません。

 弁護士ドットコムには、警察署で「今後は会わない、関わらない」という趣旨の書面への署名を求められ、断ったところ帰ってよいと言われたという相談が寄せられています。警察の場で求められる書面であっても、署名するかどうかは本人に委ねられているということです。当事者同士で作る合意書であれば、なおさら相手の任意の協力が前提になります。

「連絡したら違約金」という約束は法律上認められている

 一方で、相手が同意すれば、「連絡や接近をしない」「違反した場合は違約金を支払う」という内容の合意書を作ることに法律上の問題はありません。民法は、約束に違反した場合の損害賠償の額をあらかじめ定めておくことを認めており、違約金はその賠償額の予定と推定されます(民法420条1項、3項)。

 ただし、違反の内容に比べて著しく高額な違約金は、公序良俗に反するとして一部が無効とされることがあります(民法90条)。不倫の示談書などを例に、1回の接触につき数百万円といった違約金を定めても、条項どおりの請求は認められにくいと説明している法律事務所も少なくありません。違約金は「高くするほど効く」ものではなく、「相手が署名でき、後で実際に請求できる」水準で決めることが大切です。

加害者が合意書に応じるのはどんなときか

 加害者が合意書に署名するかどうかは、相手にとって署名する理由があるかどうかに大きく左右されます。状況ごとのおおよその傾向は次のとおりです。

状況加害者側の事情合意の見通し
捜査を受けている、または起訴されている示談の成立が処分や量刑で考慮される加害者側から示談を求めてくることが多い
警察の警告や禁止命令を受けている事を大きくしたくないと考えることがある相手の受け止め方によって分かれる
損害賠償を請求されている裁判を避けたいと考えることがある金銭の解決とあわせてまとめやすい
警察が関与せず、相手が非を認めていない署名しても得るものが少ない応じてもらえないことが多い


 刑事事件として手続が進んでいる場面では、加害者側の弁護人から示談の申入れがあり、その中で接触禁止や違約金の条項を話し合うという流れが一般的です。申入れを受けた場合の考え方は加害者側から示談を持ちかけられた|応じる前に確認することで解説しています。

 反対に、相手が自分の行為をつきまといだと認めていない段階では、合意書を示しても「なぜお金を払う約束をしなければならないのか」と反発を招くことがあります。その場合は、合意書にこだわるより、警察の警告や禁止命令など、相手の同意を必要としない手段を先に検討するほうが現実的です。

自分で書かせようとするときの注意点


署名を求めるために直接会わない

 つきまといをしている相手と会って署名を求めることは、それ自体が危険を伴います。話し合いをきっかけに「まだ関係が続いている」と受け止められ、かえって接触が増えることもあります。郵送やメッセージであっても、こちらから連絡すること自体が、相手に「連絡してもよい」という誤ったサインになりかねません。

強く迫ると、合意の効力や自分の立場が問題になることがある

 怒りや恐怖から、「署名しないなら会社や家族に言う」「書かなければただでは済まない」といった言葉で署名を迫ってしまうと、後から相手に「脅されて書いた」と主張され、強迫による意思表示として合意を取り消されるおそれがあります(民法96条1項)。さらに、言葉の内容や迫り方によっては、こちらが強要罪(刑法223条)や、金銭の要求を伴う場合には恐喝罪(刑法249条)に問われる可能性も否定できません。強く迫られて書いた書面がどう扱われるかは【男女トラブル】別れ際に書いた誓約書を撤回したい|強く迫られて書いた書面も参考になります。

相手が知らない情報を書面に書かない

 ストーカー事案では、転居先や新しい勤務先など、相手がまだ知らない情報を合意書を通じて知らせてしまわないよう注意が必要です。連絡先を代理人の事務所とする方法がとられることもあります。被害者の情報を伏せたまま書面を作る方法は被害者の氏名が伏せられている事件で示談書をどう作るかで解説しています。

警察で書く「誓約書」と当事者間の合意書は別のもの

 警察が相手を呼び出して注意する際に、「今後連絡しません」といった書面を相手に書かせることがあります。この書面は、相手に自分の行為を自覚させ、警察が対応の経過を記録しておくためのもので、通常は違約金の定めは置かれません。被害者と加害者の間の民事上の約束として、違約金を請求する根拠にしたい場合は、別に当事者間で合意書を交わす必要があります。

弁護士を通じて合意書をまとめる流れ

 相手と直接やり取りせずに合意書をまとめたい場合は、弁護士を代理人とする方法があります。おおまかな流れは次のとおりです。

  1. 弁護士から相手に、代理人に就いたことと、今後の連絡は弁護士を通すよう求める書面を送ります。
  2. これまでの被害の内容を整理し、禁止したい行為や違約金などの条件を相手に示します。
  3. 相手の反応を見ながら、禁止の範囲や金額などの条件を調整します。
  4. 合意がまとまれば、双方が署名押印して合意書を交わします。
  5. 必要に応じて、公正証書や裁判所の手続を使い、約束を実行しやすい形に整えます。


 弁護士が窓口になることで、被害者本人が相手と顔を合わせたり、自分の連絡先を伝えたりせずに交渉を進められます。相手にも弁護士がついた場合のやり取りは【ストーカートラブル】相手に弁護士がついた|相手方の代理人との話し方で、弁護士に依頼することで何が変わるかは【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味で解説しています。

 なお、弁護士の介入をきっかけに相手が感情的になることもあるため、交渉と並行して警察への相談も続けておくことが大切です。

約束を実行しやすい形にしておく

 当事者の間で交わした合意書だけでは、違約金が支払われなくても、すぐに強制執行をすることはできず、改めて訴訟で請求する必要があります。そのため、金銭の支払について強制執行できる形にする公正証書(民事執行法22条5号)や、簡易裁判所で合意内容を和解調書にしてもらう訴え提起前の和解(民事訴訟法275条)を組み合わせることがあります。ただし、違約金は違反があって初めて発生するため、公正証書で執行するにも違反の事実を文書で示す必要があります(民事執行法27条1項)。公正証書の使い方は分割払いの示談書|期限の利益喪失条項と公正証書も参考になります。

違約金の条項は「範囲」と「数え方」が要になる

 「連絡したら違約金」という一文だけでは、いざ違反があったときに使いにくい書面になることがあります。合意書を作る段階で、少なくとも次の点は決めておきたいところです。

  • 禁止する連絡の手段(電話、メッセージ、SNS、手紙、別のアカウントや第三者を通じた連絡など)。
  • 1日に何通も届いた場合に、何回の違反と数えるか。
  • 違約金を支払えば連絡してよいという意味ではないことの明記。
  • やむを得ない連絡が必要な場合の窓口(代理人弁護士など)。


 また、違約金は賠償額の予定と推定されるため、転居費用や治療費なども別に求めたい場合は、その旨を明記しておく必要があります(民法420条3項)。条項ごとの書き方と限界は、冒頭でご紹介した記事で詳しく解説しています。

相手が合意書に応じないときに取れる手段

 相手が署名を拒んだとしても、それで打つ手がなくなるわけではありません。相手の同意がなくても、次のような手段で接触を止めることを目指せます。

手段内容根拠
警告警察が相手に、つきまとい等をやめるよう警告する。令和7年12月30日施行の改正で、被害者の申出がなくても警察の職権で出せるようになったストーカー行為等の規制等に関する法律4条
禁止命令公安委員会が相手に、つきまとい等をしてはならないと命じる。違反すれば刑事罰の対象になる同法5条、19条、20条
接近禁止の仮処分裁判所が、相手に接近や連絡を禁じる決定を出す民事保全法23条2項
損害賠償請求つきまといによって受けた精神的苦痛などについて賠償を求める民法709条、710条


 とりわけ禁止命令は、違反した場合に刑事罰が科される点で、当事者間の合意書よりも強い抑止力が期待できます。禁止命令の申出の方法は【ストーカートラブル】禁止命令を出してもらうには|申出の方法と出るまでの期間で、裁判所の手続は【ストーカートラブル】接近禁止の仮処分にかかる費用と期間の目安|担保・審尋・決定後の手続までで解説しています。合意書は公的な手段の代わりではなく、これらと組み合わせて安全を固めるためのものと考えておくと、判断に迷いにくくなります。

よくあるご質問


合意書を交わしたら、警察には相談できなくなりますか

 合意書を交わしたことで、警察への相談や被害届の提出ができなくなるわけではありません。合意書の中で被害届を取り下げる、処罰を求めないといった約束を求められることもありますが、その内容に同意するかどうかは慎重に判断したいところです。また、ストーカー行為罪は告訴がなくても起訴できる罪とされています(ストーカー行為等の規制等に関する法律18条)。

相手が未成年の場合も、合意書を作れますか

 18歳未満の未成年者が契約をするには、原則として親権者などの法定代理人の同意が必要で、同意のない契約は後から取り消されることがあります(民法5条1項、2項)。相手が未成年の場合は、親権者の同意を得る、または親権者にも合意書に加わってもらうといった形を検討することになります。

合意書を交わした後に相手から連絡が来たら、どうすればよいですか

 まずはご自身の安全を確保し、危険を感じる場合は110番通報をためらわないでください。そのうえで、連絡の日時・手段・内容を記録し、メッセージや着信履歴は削除せずに保存しておきます。違約金の請求と警察への相談は、どちらか一方を選ぶものではなく、並行して進めることができます。違反があった後の進め方は【ストーカートラブル】示談した後に相手が約束を破った|違約金と刑事手続の両面で解説しています。

まとめ


  • 加害者と「連絡したら違約金を支払う」という合意書を作ることは可能ですが、相手が自分の意思で署名することが前提です。
  • 加害者が合意書に応じやすいのは、刑事手続が進んでいる場合や損害賠償を請求されている場合など、相手にも合意する理由がある場面です。
  • 署名を求めて直接会うことや、強い言葉で迫ることは、身の安全や合意の効力の面で問題が生じるおそれがあります。
  • 弁護士を窓口にすれば、相手と顔を合わせず、連絡先を伏せたまま合意書をまとめることを目指せます。
  • 違約金は、禁止する行為の範囲や違反の数え方を具体的に定め、過大な金額にしないことが大切です。
  • 相手が応じない場合でも、警告・禁止命令・仮処分・損害賠償請求といった、相手の同意を必要としない手段があります。


 合意書を作るべきかどうか、作るならどの段階でどのような条件を示すかは、相手の態度や警察の関与の状況によって変わります。相手との直接のやり取りを避けたい方や、合意書を示した後の相手の反応が心配な方は、書面を送る前の段階でご相談ください。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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