元恋人が職場へ電話・押しかけ|会社を巻き込む嫌がらせへの対応
この記事は、2026年10月時点の民法、民事訴訟法、刑法、いわゆる携帯電話不正利用防止法(携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律)と、主な携帯電話会社が公表している手続案内の一般的な内容をもとに作成しています。同法は令和8年5月に改正法が成立・公布され、公布の日から1年以内に施行される予定です(本記事の執筆時点では未施行)。刑法改正により、2025年6月1日から懲役刑と禁錮刑は拘禁刑に一本化されており、本記事の法定刑もこれに沿って記載しています。料金の内訳や解約の条件は携帯電話会社や契約プランによって異なるため、実際の対応にあたっては、ご契約先の最新の案内と請求明細をご確認ください。
「交際中に、携帯を持てない彼のために自分の名義で契約した。別れた後も彼が使い続けていて、料金は自分の口座から引き落とされている」「元交際相手の名義のスマホを使っていたら、別れた途端に『これまでの携帯代を全部払え』と言われた」。男女間のトラブルのご相談では、名義を貸した側からも、名義を借りた側からも、このようなお話を伺います。
携帯電話の名義については「料金を払う義務を負うのは名義人」という説明が広く見られます。その説明自体は誤りではありません。ただ、それは携帯電話会社との関係の話であり、名義人と実際に使っていた人との間で、誰がどこまで負担するのかは、交際中にどのような約束をしていたか、どの費目の、いつの分なのかによって変わります。携帯電話会社への支払いと、元交際相手どうしの清算とを分けて考えないまま話し合うと、金額をめぐる対立が長引きがちです。
この記事では、別れた後に携帯代の支払いを求めた、あるいは求められた場面に絞り、請求の中身の分け方、名義を貸した側と借りた側それぞれの考え方、名義の貸し借りそのものに含まれる問題、清算を終えるまでの進め方を説明します。回線の解約や家族割の抜け方といった手続の順序は【男女トラブル】スマホの家族割やサブスクを共有している|別れた後の解約の順序で扱っていますので、あわせてご覧ください。
「携帯代」の中身を分けて考える
携帯電話会社との関係と、二人の間の関係は別のもの
携帯電話の契約は、携帯電話会社と名義人(契約者)との間で結ばれています。実際に回線を使っていたのが交際相手であっても、携帯電話会社に対して料金を支払う義務を負うのは名義人です。名義人が「使っていたのは相手だから」と伝えても、携帯電話会社からの請求が止まるわけではありません。
一方で、名義人と実際に使っていた人との間では、「料金は使う人が払う」「しばらくはこちらが払ってあげる」といった約束が交わされていることが多く、その約束の内容が清算の基準になります。**携帯電話会社に誰が払うかと、二人の間で最終的に誰が負担するかは、別の問題として整理する**ことが出発点です。
請求額を費目ごとに分ける
「携帯代」として求められる金額には、性質の違う費用がまとめて含まれていることがあります。費目ごとに分けると、それぞれの考え方の違いが見えやすくなります。
| 費目 | 清算のときに確かめたいこと |
|---|---|
| 月々の基本料・通話料・通信料 | どの期間の分か。交際中の分か、別れた後の分か |
| 端末の分割代金 | 端末を誰のものとして買ったのか。今その端末を誰が持っているのか |
| キャリア決済(携帯料金とまとめて支払う買い物) | 誰が、何を買ったのか。名義人の了解があったのか |
| 解約金・手数料 | 解約を決めたのは誰か。その理由は何か |
| 延滞による遅延損害金や再手続の費用 | 支払いが遅れた原因がどちらにあったのか |
相手から示された総額だけを見て判断するのではなく、利用明細をもとに、費目と期間を一つずつ確かめていくことで、争う必要のない部分と、話し合うべき部分を切り分けることができます。
名義を貸した側が支払いを求めるとき
「料金は相手が払う」という約束があった場合
交際相手から頼まれて名義人となり、「料金は自分が払う」と約束されていたのであれば、名義人が携帯電話会社に支払った分は、相手のために立て替えたものとして、相手に返還を求める根拠になり得ます。相手から頼まれて事務を引き受け、そのために費用を支出した場合には、その費用の償還を求めることができるという考え方です(民法650条1項)。
毎月の料金を相手から振り込んでもらっていた記録や、「携帯代はちゃんと払うから」といったメッセージは、こうした約束があったことを示す材料になります。別れた後に相手が支払いをやめた場合でも、約束をしていた期間の分は、引き続き請求の対象として考えられます。
交際中は「払ってあげていた」場合
反対に、交際中は名義人が好意で料金を負担していた場合には、その支払いは相手への贈与と評価される余地があります。書面によらない贈与は各当事者が解除できますが、すでに履行が終わった部分は解除できないとされています(民法550条)。別れたことをきっかけに「あの携帯代は貸していただけだ」と言い直しても、それだけで過去の分の返還を求められるとは限りません。贈与と貸付けの区別については別れた途端「これまでの金を返せ」と言われた|贈与と貸付の違いで詳しく解説しています。
もっとも、贈与として負担していたのは交際中の分に限られるのが通常で、別れた後も当然に負担し続ける約束まであったと評価されることは多くありません。**過去の分と、別れた後の分とでは、考え方が分かれる**点に注意が必要です。
別れた後も使われている分と、キャリア決済
別れた後、名義人が利用をやめてほしいと伝えたにもかかわらず、相手が回線を使い続けている場合、その期間の料金は、名義人の負担で相手が利益を得ている状態といえます。約束にもとづく請求のほか、不当利得の返還(民法703条、704条)として求めることが考えられます。
また、名義人の了解なくキャリア決済で買い物がされていた場合には、その代金について損害賠償(民法709条)を求めることも考えられます。キャリア決済は利用上限の設定や停止の手続ができることが多いため、別れた時点で、まずは名義人の側で上限を下げるか、利用を止めておくと、それ以上の負担が増えるのを防げます。
端末そのものの扱い
名義人が自分の端末として分割購入し、相手に使わせていただけであれば、端末は名義人のものとして返還を求めることができます。他方で、交際中に相手へのプレゼントとして購入した端末であれば、相手のものとして扱われ、後から返してもらうことは難しくなります。購入時のやり取りや、分割代金を誰が負担してきたかが判断の材料になります。貸した物の返還を求めるときの進め方は恋人に貸した車・ブランド品を返してほしい|返還を求めるときの考え方と進め方で扱っています。
名義を借りた側が「払え」と言われたとき
請求の根拠になっている期間と費目を確かめる
相手名義の回線を使っていた側が支払いを求められたときは、まず、請求の根拠となる利用明細の写しを示してもらうよう求めます。名義人自身の回線の料金や、家族割でまとめられた他の回線の料金が混ざっていることもあります。
また、別れた後にご自身が回線を使わなくなっていたのに、名義人が解約をしないまま料金が発生し続けていた期間がある場合、その期間の分まで当然にご自身の負担になるとは限りません。端末を名義人に返したのか、いつ利用をやめたのかを、やり取りの記録とあわせて整理しておくことが大切です。
解約金や違約金は誰の負担になるか
解約金や端末の残債の一括請求などは、解約をした時期や理由によって、どちらが負担すべきかの考え方が変わります。ご自身が料金の支払いを怠ったために回線が止められ、解約に至った場合には、その結果生じた費用の負担を求められることは考えられます。一方で、名義人が別れたことを理由に自ら解約を選んだ場合に、その解約金を当然にご自身が負担しなければならないとまではいえず、交際中にどのような約束をしていたかが問われます。
交際中に名義人が負担していた料金
交際中に名義人が「払っておくから」と言って料金を負担していた場合、その支払いは贈与にあたる可能性があり、別れた後に全額の返還を求められても、そのまま応じる必要があるとは限りません。交際中のお金の考え方は交際中に立て替えた生活費・プレゼント代は返してもらえる?も参考になります。交際期間が長かったことそれ自体が結論を左右するわけではない点は、【男女トラブル】交際期間の長さは金銭の清算に影響するのかで整理しています。
「信用情報に傷がついた」と言われた場合
料金の未払いが続いて回線が強制解約になると、携帯電話会社の間で交換されている不払者の情報に名義人が登録され、一定の期間、新たな契約が難しくなることがあります。名義人から、このことへの償いを求められる場面もあります。ご自身の支払いの遅れが原因であれば、その経緯を踏まえた話し合いは避けられませんが、損害として金額で評価できる範囲は限られることが多く、求められた額をそのまま受け入れる前に、内容を確かめることが大切です。
名義の貸し借りそのものに含まれる問題
携帯電話不正利用防止法の定め
携帯電話の契約者は、自分が契約者となっている回線の端末やSIMカードを他人に譲渡しようとするときは、あらかじめ携帯電話会社の承諾を得なければならないとされています。ただし、親族や生計を同じくしている人に譲渡する場合は除かれています(携帯電話不正利用防止法7条1項)。承諾なく譲渡された場合、携帯電話会社はその回線のサービスの提供を拒むことができます(同法11条3号)。
この定めに反した場合に刑罰の対象となるのは、業として有償で譲渡したときとされています(同法20条1項、2年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、またはその併科)。交際相手に使わせていたというだけで、直ちに処罰の対象になるわけではありません。ただし、名義を借りた側が、その端末をさらに別の人に渡すと、自分が契約者となっていない端末を他人に譲渡したものとして処罰の対象になり得ます(同法21条1項、50万円以下の罰金)。**名義を借りた側が、端末を第三者に渡したり売ったりしないことは、清算の話し合いとは別に守っておきたい点です。**
同棲していた相手であれば「生計を同じくしている者」にあたる場合もありますが、別れて生活が別になった後は事情が変わります。名義の扱いを早めに整理しておくことが、二人のいずれにとっても負担を減らすことにつながります。
契約のときに第三者に渡すことを隠していた場合
第三者に無断で譲渡する意図を隠して自分の名義で携帯電話機の購入などを申し込む行為について、詐欺罪にいう欺く行為にあたるとし、詐欺未遂罪の成立を認めた裁判例があります(東京高裁平成24年12月13日判決)。この事案は第三者への転売が問題となったもので、交際相手のために名義人となった場面がすべて同じように扱われるわけではありません。もっとも、名義を貸すことは法的にまったく問題がない行為とまではいえないという位置づけで理解しておくのが適切です。名義を貸す行為の刑事上の評価については、「口座を売っただけ」「名義を貸しただけ」は軽いのかで解説しています。
「警察に言う」と言われたとき
清算の話し合いの中で、相手から「払わないなら名義貸しのことを警察に言う」「勝手に使われたと被害届を出す」と告げられることがあります。このような場合も、慌てて相手の示す金額をそのまま払うのではなく、どの費目のどの期間の分が問題とされているのかを確かめることが先決です。
反対に、支払いを求める側が、相手の勤務先や家族に知らせると告げて支払いを迫ると、請求に理由があっても、求め方によっては恐喝などが問題になり得ます。正当な請求と恐喝の境目は「金を返せ」と強く迫った|正当な債権回収と恐喝の境界で扱っています。
清算を終えるまでの進め方
これ以上負担が増えない状態をつくる
清算の話し合いと並行して、料金がこれ以上増えないようにしておくことが大切です。名義人の側では、解約や利用の停止を行う日を相手に伝え、相手が新しい回線を用意するための期間を設けておくと、対立を避けやすくなります。名義を借りた側では、新しい回線の確保と、電話番号にひもづいた認証の切り替えを早めに済ませておきます。手続の具体的な順序は、冒頭でご紹介した記事をご覧ください。
金額を確定し、書面に残す
清算は、次のような順序で進めると、話し合いが感情的な方向に流れにくくなります。
- 利用明細を取り寄せ、費目と期間ごとに一覧にする。
- 交際中の約束(誰が払うことになっていたか)を、やり取りの記録から確かめる。
- 別れた時期、端末を返した時期、利用をやめた時期を確定させる。
- 費目ごとに、どちらの負担とするかを決め、支払う金額を確定させる。
- 支払いの方法と期限、端末の返還の有無を決める。
- 合意した内容を書面にまとめ、清算条項を入れる。
合意書には、支払う金額と方法に加えて、この合意で二人の間の金銭関係が終わったことを確認する清算条項を入れておくと、後から別の名目で請求されることを防ぎやすくなります。清算条項の働きは清算条項の意味|後から追加請求されないためにを、一括で支払えない場合の取り決めは一括で払えない場合|分割合意で確認すべき条項をご覧ください。
相手が話し合いに応じない場合
相手が連絡に応じない場合でも、請求する側は、内容証明郵便などで請求の内容と期限を伝えたうえで、裁判所の手続を検討することができます。60万円以下の金銭の支払いを求める場合には、原則として1回の期日で審理を終える少額訴訟という手続も用意されています(民事訴訟法368条1項)。連絡が取れないまま清算を進める方法は【男女トラブル】相手が話し合いに応じない|連絡が取れないまま清算する方法で整理しています。
別れた相手との金銭の話し合いは、交際中の出来事や別れの経緯に話が戻りやすく、本人同士では進まないことがあります。弁護士が代理人になると、相手との連絡は弁護士が窓口となり、明細の確認から合意書の作成までを一つの流れで進めることができます。代理人を立てる意味については弁護士に窓口を移すという選択|代理人通知が効く場面・効かない場面をご覧ください。
避けておきたい対応
清算を急ぐあまり、次のような対応をとると、かえって状況が難しくなることがあります。
- 名義人が予告なく回線を止め、相手の連絡手段を突然失わせること。相手の態度が硬くなり、清算の話し合いが進みにくくなります。
- 名義を借りた側が、約束していた料金の支払いを、別れたことを理由に一方的に止めること。名義人の未払いとなり、相手の請求が強まる原因になります。
- 借りていた端末を、名義人に無断で第三者に渡したり売ったりすること。刑事上の問題になり得ます。
- 相手が示した総額を確かめないまま、全額を支払う内容の書面に署名すること。贈与にあたる分まで含まれていることがあります。
- 返事がないからといって、電話やメッセージを繰り返したり、自宅を訪ねたりすること。用件が正当でも、態様によっては問題になり得ます。
正当な用件での連絡がどこから問題になるかは、【刑事事件】元交際相手に荷物やお金の清算で連絡したい|正当な用件でもストーカーと言われる場面で詳しく扱っています。
よくあるご質問
何年も前の携帯代を、今になって請求されました。払わなければいけませんか。
お金の支払いを求める権利は、権利を行使できることを知った時から5年間行使しないと、時効によって消滅するとされています(民法166条1項1号)。毎月の料金の立替分であれば、月ごとに時効を考えることになります。ただし、時効は主張しなければ効果が生じず(同法145条)、途中で支払いを約束したり一部を支払ったりすると、時効がやり直しになることもあります。請求の種類ごとの時効の期間は、男女トラブルの時効早見表|請求の種類別に何年で消えるかで整理しています。
相手名義の回線の料金を、私のカードから払う設定にしていました。私が携帯電話会社に支払う義務を負うのですか。
支払方法としてご自身のカードや口座を登録していたとしても、携帯電話会社に対して料金を支払う義務を負うのは、通常は契約者である名義人です。ご自身のカードからの支払いを止めることはできますが、名義人の側で支払方法の変更が済まないうちに止めると、相手の回線が止まり、もめごとが大きくなることがあります。止める日をあらかじめ伝え、これまでにご自身が支払った分をどう扱うかは、清算の話し合いの中で整理するのが穏当です。
相手が私名義のスマホを返してくれず、使い続けています。どうすればよいですか。
名義人であれば、回線の利用停止や解約の手続は、ご自身の判断で行うことができます。端末がご自身のものであれば、回線を止めたうえで、端末の返還を求めることになります。止めるまでの間に生じた料金や、キャリア決済で無断に購入された分は、清算の対象として請求を検討します。相手に返還や支払いを求める際は、書面やメッセージで期限を示し、記録を残しておくことをおすすめします。
まとめ
- 携帯電話会社に料金を支払う義務を負うのは名義人であり、実際に使っていた人との間の負担は、交際中の約束の内容によって決まります。
- 請求額は、基本料・通話料、端末代金、キャリア決済、解約金、遅延損害金などの費目と期間に分けて確かめます。
- 相手のために名義人となり料金を立て替えていた場合は、その費用の返還を求める根拠になり得ます(民法650条1項)。
- 交際中に好意で負担していた料金は贈与と評価される余地があり、履行が終わった部分は解除できないとされています(民法550条)。
- 別れた後も無断で使われている分や、了解のないキャリア決済の分は、不当利得や損害賠償として求めることが考えられます(民法703条、704条、709条)。
- 端末を携帯電話会社の承諾なく他人に譲渡することは原則として認められておらず(携帯電話不正利用防止法7条1項)、自分が契約者でない端末をさらに他人へ譲渡すると処罰の対象になり得ます(同法21条1項)。
- 清算の内容は、支払方法と清算条項を含めた合意書にまとめ、後からの追加請求を防ぎます。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。名義を貸した携帯の料金を元交際相手が払ってくれない、別れた後に携帯代の全額を求められて金額が妥当か分からない、相手と直接やり取りをせずに清算を終えたいといったご事情があれば、経緯と明細を伺ったうえで、取り得る方法を一緒に整理します。
名義を貸した側の方も、名義を借りていた側の方も、一人で抱え込まず、早めにご相談ください。


