マナーうんちく話2214《水と縁が深いのに「水無月」。日本独特の風情を感じる6月の和風月名》

平松幹夫

平松幹夫

テーマ:歳時記のマナー

日差しが急に強まり、クールな感覚が恋しくなる季節の到来です。
熱中症予防でこまめな水分補給が話題になり久しくなりますが、暑い季節に水が恋しくなるのは、身体の7割が水分でできている人間の本能でしょう。
さらに地球の4分の3が水分で覆われている現状からすると、水を求める行為はごく自然な振る舞いだと思います。
そしてこの命の源になる水を単に口から飲むだけでなく、触れたり、見たり、あるいは水がさらさら流れる音を聞くだけでも、暑さで疲れた体を癒すことができます。
昔から多くの人の気持ちを和らげて来た噴水もしかりです。

ところで和風月名では6月は「水無月」と呼ばれます。
梅雨の季節で、一年で最も水との関りが深い月なのに「水無月」とはおかしいのでは?と思う人も多いと思いますが、これにはいろいろな意味が込められています。
ひとつは漢字が表すようにまさに「水のない月」です。
梅雨で多くの雨が降りすぎて、天から水が無くなる月ということです。
ちなみに旧暦と新暦では一月以上の隔たりがあり、旧暦の6月は現在の6月下旬から8月上旬頃で、その年や地域により多少異なりますが、梅雨が空けている頃で、日照りが続き、水が涸れる時期になります。
もう一つの意味は「水の月」という意味があります。
水無月の「無」には「・・・の」という意味があるので、水無月は水の月という意味になるわけです。田植えをする月なので、田んぼに水を張る月という意味です。
5月の「早苗月」と同じように、米作りと関係が深い名前が付けられたのでしょう。
このように米を主食にしている日本人にとって、6月はとても大切な月ということです。
梅雨時の豊富な水が日本の大地を潤し、多くの農作物を育てたわけですね。
狭い土地でより多くの収穫を目指して、畑に水を引き、田んぼを作り、そこに早苗を植えた先人の素晴らしい知恵には頭が下がる思いです。
田植えが済んだ田んぼが生き生きと輝いているのは、自然と真摯に向き合い、米作りに精を出してきた先人の思いや知恵が詰まっているからでしょう。
まさにこの時期ならではの趣を感じて頂きたいものです。

また6月に降る雨は「五月雨(さみだれ・さつきあめ)」と呼ばれます。
梅雨時の雨は、春雨や秋雨と異なり、今も昔も激しかったのでしょう。
松尾芭蕉の《五月雨を 集めて早し 最上川》は教科書にも登場したほど有名な句ですが、杉山杉風(すぎやまさんぷう)の句に《空も地も ひとつになりぬ さつきあめ》があります。
日本には情緒あふれる雨の名前が非常に多く存在しますが、この句に詠まれている雨は、今風に表現すれば局地的大雨、つまりゲリラ豪雨でしょうか。

そしてこの季節は「紫陽花」や「露草」など、水が大好きな花が沢山あります。
中でも、初夏を彩る代表的な花として「あやめ」「しょうぶ」「かきつばた」がありますが、いずれも姿が同じなので見分けがつきにくいです。
特に「あやめ」と「しょうぶ」はともに「菖蒲」という漢字なのでなおさらですね。
《いずれ菖蒲か杜若》という言葉は、源頼政が詠んだ句が由来ですが、どちらも美しく、優劣がつきにくい意味で使用されます。
「紫陽花」は江戸時代に長崎にやってきたシーボルトが、お滝さんと呼ばれる女性と仲良くなり、女の子をもうけるわけですが、やがて国外追放となり、お滝さんや子どもと別れる羽目になります。
本国に帰ったシーボルトは、大好きだった紫陽花に、お滝さんにちなんで「オタクサ」と名付けてヨーロッパに紹介しました。

さらに「マナーうんちく話」で登場した、6月を代表する和菓子に「水無月」があります。
氷を食べると夏バテをしないという言い伝えがあるので、氷に見立てた「ういろう」の上に、邪気を払うと考えられていた小豆を載せたお菓子です。
既製品が多く出回っていますから、少し冷やして、ひんやりとした触感をお楽しみください。6月の終わりから7月にかけて各地で行われる「夏越の祓い」の必需品で、無病息災を祈って食べられます。

最近「暑熱順化」という言葉をよく聞くようになりました。
本格的な暑さの前に、徐々に体を暑さに慣れさせ、熱中症予防に努めるということでしょう。
江戸時代の暑気払いの方法の一つに、真夏に熱い甘酒を飲み、汗を沢山かいて、橋の上で、風に当たって涼を取ったという話を何かの本で読んだ記憶がありますが、無理のない範囲で、汗をしっかりかくことは昔も今も良いことだと思います。

ただ日本は「四季の国」です。
寒い冬から急に暑い夏になるのではなく、冬の後には暑くも寒くもない快適な春があります。そして徐々に暑い夏になるわけですね。
加えて日本には、季節により衣装を変えるという「衣替え」という文化があり、平安の時代から脈々と続いています。
先人は季節の折り目を、衣装を変えることでただしたわけです。
季節に寄り添い、暮らしにメリハリをつけることにより熱中症予防を心がけていたのでしょう。
衣服のみならず、家具や調度品なども季節に合わせ替えていたわけですから四季の国ならではの風情を感じることができますね。
こうして身も心も夏に同化することで、暑い夏らしい暮らしを楽しむことができるのではないでしょうか。

最後に、暑さに慣れておくことは重要ですが、栄養補給も大切です。
特にこの時期の野菜は、夏の恵みを存分に受け、逞しく育っているので、上手に旬のものを取り入れて、体力増強を図るのもお勧めです。
6月は「姿よし、香りよし、味もよし」と3拍子揃った「アユ」の季節です。
天然のアユは水苔類を食べるので、香りが非常に良いのが特徴で「香魚」と呼ばれる所以です。
アユの塩焼きを、先ず背ビレと尾ビレを取り除き、頭から丸かじりするのも粋な食べ方だと思いますが、養殖の場合は皿に盛り、作法通り食べられるのがお勧めです。
「マナーうんちく話561」を参考にして下さいね。
6月は総じて、初夏を彩る日本独特の趣があるものが多い季節です。
この時期ならではの風情を感じながら、身も心も爽やかにお過ごしください。

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平松幹夫
専門家

平松幹夫(マナー講師)

人づくり・まちづくり・未来づくりプロジェクト ハッピーライフ創造塾

「マルチマナー講師」と「生きがいづくりのプロ」という二本柱の講演で大活躍。「心の豊かさ」を理念に、実践に即応した講演・講座・コラムを通じ、感動・感激・喜びを提供。豊かでハッピーな人生に好転させます。

平松幹夫プロは'山陽新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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