マナーうんちく話2213《徳利はどこから注ぐの?「お酌」の文化と作法》

平松幹夫

平松幹夫

テーマ:人間関係を良好にするマナー

●貝原益軒が教えてくれた日本酒の味わい方
日本には世界でも珍しい酒の飲み方の一つである、酒を温めて飲む、つまり燗をしてのむ習慣があります。
いつの時代からでしょうか?
「マナーうんちく話」でも登場しましたが、江戸時代に貝原益軒が書いた、日本における健康読本の元祖ともいえる「養生訓」がきっかけだといわれています。
なにしろ健康読本のベストセラーに「酒はぬる燗が身体にいい」と書かれていたわけですからインパクトは強く、これを機会に燗をする道具が生まれ、猪口や徳利などが流行したのでしょう。
片方に注ぎ口が付く、鳶のくちばしのような「鳶口(とびぐち)」の細身の徳利もそうです。

●良好な人間関係を築くために杯のやり取りをする文化や作法の誕生
庶民でも酒が気軽に口にしやすくなり、小さな杯が出回るようになると、互いに親しくなることを目的とした「杯のやり取り」の風習が生まれてきます。
世界でも珍しい文化だと思いますが、やり方次第では相手に対し無礼になるので、酒の注ぎ方や注がれ方などの作法が誕生したのだと考えます。

●結局徳利はどこから酒を注ぐの?
室町時代になると小笠原流礼法や伊勢流礼法が生まれ、今の作法が確立されてくるわけですが、何百年も経由してくると、本来の意味が歪められることもあり、間違って伝えられていることも多々あります。
「マナーうんちく話」でも触れましたが、「畳のふちを踏むな」などの理由は、その典型的な例だと思います。
《徳利の注ぎ方》しかりです。
私自身も徳利とは非常に長い付き合いで、注いだり、注がれたりしますが、あえて徳利の鳶口を使用してはいけないという人も結構います。
戦国時代に鳶口に毒をもって暗殺する方法が流行したからとか、鳶口を使用するとせっかくの縁が切れるからなどの理由があるそうです。
ちなみにマナーには「なぜこうするの?」という合理的理由が存在します。
酒の注ぎ方のマナーであれば、美しく注いで、美味しく、楽しく頂くことに尽きると思います。
従って徳利で酒を注ぐときには、注ぎ手が注ぎ易い様にすればいいわけですからどの部分を使用してもいいと考えます。
ただ徳利の「鳶口」は、酒を注ぎやすくするために、わざわざ手間暇かけて、そのようにしているわけですから、私はそこから注ぎます。
ちなみに「鳶口」のある徳利は江戸時代になってからで、戦国時代には存在しなかったと思います。

●お酌をするときの美しい作法
あえて言えば、お酌をするときには「一杯如何ですか」とか「お酌します」とか事前に一言掛ければいいですね。加えて美しく、飲みやすく注ぐ視点から言えば、相手の杯に概ね7分目から8分目を目安にして下さい。なお徳利は両手で持つのが望ましいです。
〇お酌を受ける時の美しい作法
どうですか?と問われたら、感謝の気持ちで「恐れ入ります」とか「頂戴いたします」といって、両手で受け、軽く口に付けて下さい。
〇お酌を辞退するときの美しい作法
酒は強い人と弱い人の個人差が大きい飲み物です。
すすめられたらいくらでも飲める人もいれば、もうこれ以上は無理と、すすめられた酒を断りたくなることも多々あります。私も後者の方です。
そんな時にお似合いの洒落た言葉があります。
遊びごとに疎いことや、酒をあまりたしなまない意味がある「不調法」という便利な言葉があります。
「もう飲めません」とか「もう結構です」もいいですが、「どうも不調法で・・・」といって、杯の上に軽く手を添えればいいでしょう。

〇注ぎ手は斟酌するゆとりを
縁もたけなわになれば、酒も進みます。互いにすっかり打ち解け、酒を酌み交わすシーンも増えますが、お酌をする立場の人は相手のことも考慮することが大切です。相手によりますが、酒が強くない人に無理にすすめないよう心掛けて下さい。
相手の事情を汲み取り、手加減したり控えたりすることを「斟酌」といいますが、この精神は大切にしたいものです。
悪徳政治家に忖度するのとはわけが違います。

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平松幹夫
専門家

平松幹夫(マナー講師)

人づくり・まちづくり・未来づくりプロジェクト ハッピーライフ創造塾

「マルチマナー講師」と「生きがいづくりのプロ」という二本柱の講演で大活躍。「心の豊かさ」を理念に、実践に即応した講演・講座・コラムを通じ、感動・感激・喜びを提供。豊かでハッピーな人生に好転させます。

平松幹夫プロは山陽新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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