マナーうんちく話544≪薔薇で攻めるか、それとも恋文か?≫
「始め」と「終わり」、そして「けじめ」を大切にする日本では、結婚式や各種宴会には締めの挨拶がつきものです。
今はコロナで減少しましたが、宴会は概ね2時間くらいで終了し、ここでいったん締めて、その後二次会、三次会という流れが一般的でしたね。
また締めには「中締め」と「本締め」があります。
宴会に出席した人の中にはいろいろな人がいます。
早く帰りたい人もいれば、まだまだ楽しみたい人もいます。
そこで中締めを行うわけですが、目的はまさに、中だるみしないようにいったん区切りをつけることと、出席者が帰りやすくするためです。
中締めの後はしばらく歓談し、いよいよ全体の解散、つまりお開きになるということです。
ここで万歳三唱することもありますが、手締めで終えることも多々あります。
令和5年は活気がよみがえり、宴会等も増加するのではと思います。
それにつれ日本の伝統行事「手締め」も復活してほしいものです。
●手締めの目的
打ち合わせや商談などで、そろそろこの辺で手を打ちましょうか?などといいますが、そもそも「手を打つ」とは商談が成立したり、交渉事が決着したり、話し合いが和解したり、願い事が成就した証です。
つまり、和解や契約が成立したことを喜んで、両者がともに拍手するわけです。
●非常に長い歴史を有す手締めの由来
日本はかつて「大和の国」と呼ばれていました。
「大いなる和の国」ということです。
そして日本のしきたりは「和の心」から生まれ、それが日常生活の中で根付き、世界に誇る素晴らしい文化が形成されたということですね。
こうした精神性は古事記などの神話からもうかがえます。
天照大神から出雲の国を譲るよう依頼された大国主命は、話し合いの結果、手を打って了承したという話が古事記の中にあります。
今でも神を拝する時には、両手の手のひらを合わせて音を鳴らします。
国を奪うには武力を行使するのが一般的ですが、天照大神、大国主命、大國主命の長男らは武力ではなく話し合いで円満に解決したわけで、この時以来日本には「和する精神」が宿ったともいわれています。
手締めにはその伝統精神が生きているわけです。
●手締めの種類
〇一丁締め
略式で、時間がない時や周囲に配慮しなければいけない時に行います。
「イヨーオ」という発生とともに、一回だけ手を打ちます。
終わりの拍手はしません。
〇一本締めと三本締め
「シャシャシャン、シャシャシャン、シャシャシャン、シャン」(3・3・3・1)と打つのが一本締めで、それを3回行うのが三本締めです。
忘年会や歓送迎会など身内のみの集いには一本締め、結婚式などのフォーマルな宴会、公式な会、いろいろな人が集う会では三本締めがお勧めです。
ちなみに手締めは宴会を取り仕切った人が、お陰様で滞りなく終わりましたと、参列者にお礼の気持ちを込めて行うものですから、来賓がすることはありません。
通常は締めの挨拶はその組織で2番目の人物が行うことが多いのですが、先ず参加へのお礼、そして自己紹介、続いて「参加者の健康と益々の活躍、加えて組織のさらなる発展を祈念して手締めを行うことを述べ、お手を拝借します・・・」でいいでしょう。
挨拶の内容は会の目的に合わせて下さい。
●掛け声にはそれなりの意味がある
お祭りでお神輿を担ぐときには「ワッショイ」という掛け声をかけますが、これには「和を背負う」という意味があります。
そして手拍子を打つときには音頭を取る人が「お手を拝借、イヨーオ」といいますが、これは全員の歩調を合わせることと、「祝おう」という意味があります。
また手を打つ際に、3回の拍手を3回打った後に「シャン」と一回打つのにも理由があります。
3回を3セットにした場合、手を打つ回数の合計は「九」です。
それに一回加えると、「九」が「丸」になります。
つまり全て丸く収めるということです。
掛け声にせよ、手を打つ回数にせよ、「和の国」日本を象徴している意味が込められているのですね。
●最後に
ホテルでバンケットマネージャーも経験し、多くの「万歳三唱」「手締め」「鏡開き」などに触れましたが、いずれも感動を覚えるシーンで、感慨深いものがあります。
後世に残したい文化だと思っています。
ところで魏志倭人伝の頃には、貴人に対して手を打って跪いて、相手を敬う気持ちを表現したといわれています。
また現在でも神社に参拝する際、拍手を打って音を鳴らします。
音を鳴らすのは神への感謝や、喜びを表現したり、願い事をかなえるため、邪気を払う意味があります。
また西洋の挨拶は「握手」ですが、これは利き腕を差し出し、武器を保有していないことの表現だといわれていますが、拍手にも手を打つことにより武器を持っていないことを意味する説があります。
古今東西、人はみんな争いを避け、仲良く暮らしたいという願望はあるのではないでしょうか。
1月の和風月名は「睦月」です。
老いも若きも皆、正月早々喧嘩しないで、仲睦ましく暮らそうよ!という意味です。
何百年も何千年も風雪に耐え、伝統行事や作法が脈々と継承されているのは、ひとえにみんな仲良く、平和に暮らしたいからです。
宴会のお開き前に手締めの合図があれば、このような意味を思い出していただき、恥ずかしからずに元気よく参加して下さいね。
新年会にせよ、結婚式にせよ、その会に出席している以上は、みんなその会を盛り上げるという責任があると思います。
今年も「マナーうんちく話」をよろしくお願いします。