マナーうんちく話521≪お心肥し≫
ミュシュランガイドやユネスコでも高い評価を受ける和食ですが、今の日本人で和食の精神文化や作法に精通している人はほとんど見かけません。
美しい箸使いや器の扱い方を、家庭で、親が子に教えることも少なくなった気がします。
特に食卓でのマナーは、子どもがまだ幼いころから身につくよう、親がしっかり教えることが理想ですが、それも難しい気がします。
日本にも「ティファニーのテーブル・マナーズ教本」のようなものがあればいいのですが・・・。
大正時代の初め頃に、女子師範学校や高等女学校で使用した「女子普通作法教科書」には、美しい箸使いが詳しく掲載されています。
忌むべき食べ様の心得が説かれ、かなり窮屈な雰囲気が漂う感がありますが、当時の人が食事にいかに真摯に向き合っていたかを伺うことができます。
今を生きる人が、この姿勢を見習うだけでも大きな効果が期待できるでしょう。
また「日常の心得」には掃除や手水の作法が、衣服に関しては「たたみ方」まで教え込まれていたようです。
今のように大量生産、大量消費の時代ではないので、物を大切に扱うことを教えたのでしょう。
「言葉遣い」に関しては「口上」の内容まで踏み込んでおり、立ち居振る舞いは立ち方、歩き方、座り方、門戸の出入りまで触れています。
「訪問」に関しても主人の心得や、客としての心得が、慶事、弔事、見舞いに分けて説かれています。
「授受の方法」では、刃物や花瓶に触れていますが、現在のライフスタイルとは少しずれている気がします。
驚いたのは扇子の受け渡しに触れていた点です。
高等女学校での作法の授業は、多分に良妻賢母教育的内容だったと思いますが、戦前の尋常小学校や国民学校や高等女学校等で、かなり高度なマナー教育が実施されております。
だからこそ、学校を卒業して大人になり、親になっても、自分が凛として輝くことができたのでしょう。
それにしても職場や家庭や地域で周囲に教え、伝承できるということが素晴らしいですね。
社会人になるまでに、人を思いやる心が熟成されるということはいいことですね。
今、小さい頃から英語教育や金融教育などの必要性が叫ばれていますが、先ずはいかに思いやりのある子を社会に排出ことができるかが、高等教育の在り方だと私は思います。
先日中学校でマナーに関する講話を担当しましたが、200名近い生徒が、実に熱心に耳を傾けていただき、話の内容もしっかり理解していただきました。
素直な心で聴いていただけるので、呑み込みも早いということです。
その点、新卒の社会人に向けた研修会では、いわば箸の上げ下げに干渉するようで、難しい点が多々あります。
学校を終えて、社会人になるまでには、必要最低限の作法は身に着けておくのが望ましいと考えます。
その点、戦前の高等小学校や高等女学校でのマナー教育は、実に的を射ていたと思います。
是非参考にして頂きたいものです。