まなーうんちく話798《月々に 月見る月は 多けれど・・・。》
何年も見慣れた光景ですが、今年も緑のそよ風を受け、鯉のぼりが空を泳ぎ始めました。
それにつれ店頭では「柏餅」を見かけるようにもなりましたね。
平和で子どもを大切にし、四季と豊かな食文化を有する国ならではの光景だと思います。
ところで米を主食にする日本人にとって「餅」は日本古来の伝統食品です。
もち米を蒸して、臼で粘り気が出るまで搗いて、好みの大きさや形に整えるわけですが、今なお正月のみならず、四季折々の節句や祭事で食されている縁起の良い食べ物です。
保存がきくので、今では災害時の非常食にもなっていますが、本来は「ハレの日」のたべものです。
また冠婚葬祭時に供される餅には独特の作法や地域独特の食べ方もあるようです。
子どもが誕生した時の「お喰いはじめ」をはじめ、上巳の節句、端午の節句、七五三、成人式など人生の節目には餅があります。
すこやかに成長したお祝いや感謝、幸せに年を重ねる喜び、その象徴が餅だといえるでしょう。
ただ高齢者が正月に雑煮をのどに詰まらせる事故は、相変わらず多発しています。
では、そこまで危険を冒して、なぜ餅を食べるのか?
稲作や米を大事に扱う日本人独特の文化が、根強く存在しているということです。
ちなみに歳神様が宿る正月の「鏡餅」、桃の節句の「菱餅」をはじめ、花見の季節に大人気の「桜餅」、仲秋の名月の「お月見団子」、お彼岸の「牡丹餅」などはすでに《マナーうんちく話》でも詳しく触れております。
今回は端午の節句にちなんで「柏餅」にふれておきます。
柏餅は米粉で作った餅に小豆餡を入れて二つ折りにし、柏の葉で包んで蒸して作りますが、大きな葉っぱでしたら一枚を二つに折って使用し、小さな葉の場合は2枚使用します。
ちなみに柏はもともと日本各地に自生する落葉樹で、新しい葉が出ないと古い葉が落ちないので昔から神聖な樹とされていました。
「葉譲の木」ともいわれています。
また古い葉が親で、新しい葉が子とみなし、常に絶え間がないから、家が繁栄するということで、めでたい樹でもあったわけです
3月の上巳の節句(桃の節句)に「菱餅」を食べるのは邪気を払う目的があったようですが、5月5日の端午の節句に「柏餅」をいただくのは、家族繁栄や子の立身出世の願いが込められているわけですね。
他の餅と同じように、柏餅の歴史も古く、今から約400年前、徳川家光の時代からではないかといわれています。
江戸時代には多くの食文化が花開きましたが、弥生3月に入れば萌え出たヨモギから「草餅」を作り、桜の花が咲く頃は「桜餅」、そして5月の節句には多くの主婦が「柏餅」をつくったようです。
複数の主婦が集まり、楽しいおしゃべりをしながら柏餅を作ったのでしょうね。
我が家では毎年手作りの餅を楽しんでいますが、牡丹餅、桜餅、柏餅などを家庭で作る文化は失せてしまいましたね。
餅に限らず、日本の伝統的な食文化が次第に影を薄めていくのは残念なことだと思います。
単に手作りの料理がなくなるのではなく、そこからコミュニケーションが絶えるということですから、もったいない限りです。
四季が明確に分かれている日本では、四季折々にいろいろな食べ物が登場します。
餅もそうで、それぞれの餅には形、色、味付けなどに様々な意味や願いが込められており、それが何百年も絶えることなく、今に受け継がれているのですから、今からでもぜひ家庭でも普及したらいいですね。
このようなことを通じ、物や自然を大切にし、思いやりの心が育まれると考えます。
旬にこだわり、素材の持ち味を巧みに生かし、それに物語を付けているのは素晴らしい文化です。
後世に残さなくてはいけません。