マナーうんちく話569≪泥より出でて、泥に染まらず≫
長引くコロナで講演の仕事がめっきり少なくなり、百姓仕事に精を出せる時間が長くなったおかげで、季節の移ろいを繊細に感じることができます。
特に中山間地域での農作業においては、二十四節気や七二候に敏感になります。
ところで3月は和風月名では「弥生」と表現しますが、陽光の和らぎ、草木の芽吹き、命の息吹が感じられる頃です。
我が家の庭先では、ほんの数日までなかった花が咲いたり、今まで見かけなかった鳥がやってきたりで、いくつ年を重ねても、春の到来には心が弾みます。
ただし「ヒヨドリ」には心が痛みます。
30羽から40羽の大群がやってきて、キャベツ、ブロッコリー、ホウレンソウ、白菜などの葉物野菜を食い荒らします。
今年は特に被害が大きく、ほぼあきらめムードです。
人間の都合ばかりで地球は動いていないということでしょうか・・・。
そして「雛飾り」が一気に春の気分を盛り上げてくれますね。
今年はコロナのせいで雛祭りが縮小され残念ですが、できる範囲で楽しみたいものです。
雛祭りは五節句の内、2番目の節句で「上巳の節句」です。
旧暦では桃の花が咲く頃の節句ですから「桃の節句」とも言いますが、実は桃にも多くの言い伝えがあります。
例えば現在は価値観が変わりましたのでそれぞれだと思いますが、桃は一つの枝に多くの花をつけるので子宝に恵まれると信じられ、重宝されてきました。
また桃には邪気を払う効果があるといわれています。
桃は弥生時代にはすでに日本に存在しており、その昔、神話で有名なイザナギノミコトが、亡くなった妻が恋しくなり、「黄泉(よみ)の国」(神話では死者が住む世界)に召された妻を迎えに行くわけですが、そこで鬼に出会い追いかけられます。
その際にイザナギノミコトが、桃の花を鬼に投げて追い払ったという言い伝えがあります。
加えて中国では、桃の実は「不老長寿」の果物とされていたようです。
私が住んでいる「晴れの国岡山」は果物王国であり、特に私の地域では、桃の栽培が盛んで、毎年友人・知人から多くの桃をいただきます。
桃の花を、女子の健康や安産や長寿を願って飾る理由が頷けますが、是非桃とともに、雛飾りに活けていただきたい花があります。
「菜の花」です。
菜の花は、ちょうど今が旬ですが、我が家の畑では正月頃から収穫しています。
食べてよし、活けてよしで大変重宝しています。
菜の花を活ける理由ですが、桃の花とは違って、悲しい物語が込められています。
以前「マナーうんちく話」でもふれましたが、菜の花は「菜種油」が取れます。
通常神仏の灯明にはローソクを使用しますが、物が乏しかった昔は、ローソクは貴重品で高価です。
だからローソクの変わりに灯明として、菜の花を、雛飾りにお供えして、亡くなった小さな子どもを偲んだわけです。
乳幼児の死亡率が大変高く、生まれた子供が無事に育つか否かは、神様だけが知っているので、子どもは「神の子」といわれた時代の話です。
今では黄緑の鮮やかな菜の花と、桃色の桃の花のコントラストを楽しまれたらいいと思います。
ちなみに日本のもてなしの礎を築いた千利休の命日は「菜の花忌」と呼ばれます。
桃の節句を機に、華やかな気分で春を思いきり満喫したいところですが、コロナも3年目に入ります。
コロナ対策、余寒対策、花粉対策に加え、3月は年度の締めくくりです。
来年度の準備もあるでしょう。
さらに「春は嵐とともにやってくる」といわれます。
体調管理を心がけ、養生に励んでくださいね。