マナーうんちく話342≪マナー美人⑨「旅館のマナー」≫
若い世代には関心が薄いかもしれませんが、かつて日本では12月に入ると「忠臣蔵」で盛り上がったものです。
江戸中期に発生した元禄赤穂事件を題材にした物語で、恐らく日本ではもっとも有名な歴史上の大事件ではないでしょうか。
それを物語るように戦前、戦後にかけ多くの映画が上映されており、国民的人気を誇っていましたが、実はその事件の発端は「礼儀作法」に関することにあったようです。
江戸幕府が勅使(朝廷の使者)を迎え接待するわけですが、接待役には公家礼法と武家礼法の知識が必要で大変だったと思います。
形式を重んじた礼儀作法という点では今の比ではないでしょう。
ちなみに公家社会や武家階級での儀礼、制度、法令などの先例や慣例などを「有職故実」と言いますが、「公家故実」と「武家故実」にわかれ、まさに日本文化の神髄だと考えます。
そして今でも日本人の精神面に非常に大きな影響を及ぼしていることも確かです。
勅使の饗応役(接待役)を命じられた赤穂藩主浅野内匠頭(あさのたくみのかみ)にとって、うまく行けば大変名誉なことですが、失敗すれば潔く責めを負わなければなりません。
従って見方を変えれば最高の晴れ舞台になるかもしれませんね。
結果はうまくいかなくて、武士としての面目を失墜させることになりました。
「教え方が悪かったから・・・」となるわけで、恨みを晴らすことになるわけです。
1702年(元禄15年)12月14日未明に、赤穂藩の浪人47人が、吉良家を襲撃した事件は、当時の人はさぞかしびっくりしたと思います。
なにしろ江戸幕府が開設されて以来、大変平和な時代が長く続いていただけに、驚きも大きかったことでしょう。
日本中を揺るがせた大事件の発端が礼儀作法にあったということは確かで、もてなしの仕方・挨拶の仕方、食事の仕方など改めて大切にしなければいけないというよい例だと思います。
そしてこの大事件は明治に入ってからも小説、映画、歌謡曲、テレビ、ラジオ等でも話題が尽きることはなかったようですね。
300年前の事件が、映画では50本以上に及ぶ作品が上映され、またNHKの大河ドラマでも何度も取り上げられています。
ではなぜそんなに人気が良かったのか?
私は日本人特有の「和する心」と「潔さ(いさぎよさ)」が受けたのだと思います。
忠臣蔵の主人公は英雄ではありません。
一人一人は弱い立場の人間です。
しかし全員が和する心を発揮して、つまり心を一つにして合体し、大きな力となって目的を果たしたという点です。
しかしハッピーエンドでは終われません。
なぜなら違法行為をしたからです。
苦労に苦労を重ね目的を果たしたわけですが、違法行為である以上責任をとらねばなりません。
名誉を守るために潔く切腹したわけです。
ではなぜ?こんな素晴らしい物語が影を潜めたのか・・・。
思うに、保身の為や出世のために忖度ばかりに気を取られている人には、大変都合が悪い話だったからではないでしょうか・・・。
加えて私利私欲に走り、平気でうそをついたり、データを改ざんしたり、都合の悪いことは隠したりする人にとっても、大石蔵之介のような立派なリーダーや、忠義の為には自らの命を投げ出すという人の存在は煙たく感じたのでしょうね。
「無理が通れば道理引っ込む」という諺ありますが、それにしても、最近は忖度ばかり横行して、潔い人や正義を貫く人は少なくなりましたね。
せこい人が増えた気がしますが如何でしようか。
コロナ対策やオリンピックを見ていて痛感します。
仇討ちとか、自ら命を絶つという行為は賛同できませんが、教えられることが多い忠臣蔵物語が影を潜めたことは寂しい限りです。