マナーうんちく話2042《どう思う?結婚式の祝儀のキャッシュレス化》

平松幹夫

平松幹夫

テーマ:祝い事のマナー

1964年に東京オリンピックを契機にホテルラッシュになり、「結婚式はホテルで・・・」が定着すると、従来のように挙式・披露宴の手伝いやご馳走を持ち寄る必要がなくなり、改めて結婚祝いを「お金」で贈るようになったわけです。

さらにバブル期になると、招待客の懐も温かくなり、祝儀も友人なら3万円が相場になって、それが現在も続いている気がします。

そして今、デジタル化が加速されるようになってきたことに加え、コロナの影響もあり、急速にキャッシュレス化が進行し、結婚の御祝儀も、従来のように「祝儀袋」で贈る習慣が消えてなくなりつつあるようですね。

新たに企業戦略の一つとしてスマホアプリを利用した決済サービス等も生まれてきたわけですが、手軽に利用出来てメリットが多いということで、特に若い人には人気いいとか。

加えて、これに対する新しいマナーも生まれてきているようで驚きました。
私のようなアナログ人間にはついていけそうもありません・・・。

【マナーの不易流行的側面】
マナーとは「尊敬」「思いやり」「感謝」の気持ちを、具体的に言葉や態度や表情そして文章等で表現することですが、表現の仕方は国々の文化・気候風土・歴史・国民性・食文化・宗教等により異なります。

そして不易流行的側面を有しています。
詳しくは「マナーうんちく話1219《マナーには不易流行的側面がある》」を参考にしていただきたいのですが、平たく言えば「いくら時代が変わろうとも、変わらないもの、また変えてはいけないもの」と「時代に応じて変えるもの」があるという意味です。

日本では明治維新と同時に封建制度が崩壊して新たな民主主義社会が到来し、欧米諸国の文化やマナーが多く伝来しましたが、このときが大きな節目になったと思います。そしてデジタル全盛になった今再び節目を迎えている気がします。

結婚の「祝儀」も、時代の流れに従って「キャシュレス」という新しい概念を取り入れること自体は悪いとは思いませんが、なぜか素直に受け入れるには抵抗があります。

人により思いはそれぞれだと思いますが、キャッシュレス化のメリットは多く、若い人に人気がいいのは確かなようですね。
でも本当にそれでいいのか?というのが私の考えです。

【キャシュレス祝儀のメリット】
5年くらい前からラインを通じてギフトを贈り合う「ラインギフト」が好評のようですが、まさに時代の流れに乗った戦略だと思います。
そして今度は祝儀ということでしょうか・・・。
メリットとしては
・会場で手渡しによる現金授受がないので気楽。
・現金を持ち歩く必要がない。
・遠方からでも即遅れる。
・受付で祝儀の管理も不要。
・新札をわざわざ用意しなくてよい。
・芳名帳も不要。
・祝儀袋も不要。
・わずらわしいと思えるマナーの心配もない。などなどがあげられています。

【企業の巧みな営業戦略】
日本は年中行事が世界で最も多い国だといわれていますが、中には企業の売上アップの巧みな営業戦略的に作られたものも多く、それが現在マナーとして定着しているものも少なくありません。

例えば「マナーうんちく話」でもすでに触れていますが「753の千歳飴」「土用の丑の日のウナギのかば焼き」などは明治以前につくられ、明治になってからは「クリスマスプレゼント」「バレンタインデー&ホワイトデーの贈り物」「恵方巻」「ハロウイングッズ」「喪中はがき」などがあります。
さらに結婚式を始め冠婚葬祭に関するものも多くあります。

それらに便乗する・しないは自由だと思いますが、その由来や意味を正しく理解し自分らしい振る舞いを心がけて頂きたいと思います。

ポイントは、マナーには「なぜそうするの?」という合理的な理由が必ず存在するので、それを理解することをお勧めします。
「結婚の祝儀」しかりです。

【キャッシュレス祝儀で、本当に真心が伝わるの?】
便利だから、わずらわしさがないから、みんなそうしているからなどの理由で判断して、キャシュレス化に便乗して、本当に相手に、贈る側の真心が伝わるのか?とても気になります。

「結婚おめでとう、どうか幸せになって下さい」という思いを込めて贈り、またそれをいただいた相手が「こんなに手間暇かけて祝福してくれるのだなー」と実感する。
それは先人が長い月日をかけて大切に育んできた、温かくて、たおやかで、大変心地よいものなのです。

相手の喜ぶ顔を思い浮かべながら、手間暇かけて祝儀袋を用意し、新札を入れ、普段使い慣れていない筆で表書きを書き、贈り物の授受作法にのっとり、お祝いの言葉を添えて贈ったり、受け取ったりすることで、互いが何とも言えない温かい気分になれ、笑顔が生まれるわけです。

確かに表書きも上手に書けない時もあれば、水引がゆがむこともあるでしょう。

ただその時々で創意工夫しながら、こうすれば余計に喜んでもらえると想像し「おめでとう」という気持ちを祝儀袋という「形」にして伝えるわけで、デジタルでは代用できないと思います。

仲の良い友人、お世話になった人、可愛がっている部下や後輩などに、何かを贈るという日本の習慣やしきたりは、互いの関係性を確認し合い、さらにこれからも続くであろう、付き合いをさらに深め、継続したいという「想い」として力を発揮するということを理解していただきたいものです。

そしてもう一つ《祝儀袋で渡す》ことについて大切なことがあります。

誰かから「モノ」を贈られたら、その「モノ」にはお金では還元できない、プラスアルファ―の素晴らしい価値があるということです。

例えば結婚祝いとして3万円の現金だけが振り込まれる場合と、同じ3万円でも手間暇かけて祝儀袋に包み、それなりの作法にのっとり贈られたら「あー本当に自分の結婚を祝福してくれているのだなー」という気持ちになるということです。

母の日に、子どもが一生懸命家事を手伝って貯めた数百円のお小遣いで、ハンカチをプレゼントしてくれたら、ほかの高価なブランド物のハンカチより大きな価値が出るのと同じ理屈です。

さらに時間が経過したときでも、結婚した時に心を込めて祝ってもらったという関係性が続くわけです。

【大切にしたい日本の文化の継承と普及】
長年ホテルでブライダルの仕事に従事していたので結婚式の受付を多く経験し、数えきれないくらいの御祝儀を新郎・新婦に代わってお預かりしました。

祝儀のデザインや形、金額、渡し方などは人それぞれですが、いずれも贈り主の「心が伝わってきた」ことは確かです。
また日本固有の文化や作法がきちんと受け継がれていることを実感しました。

日本において、文化や作法を受け継ぐということは、まさに《心を伝える》ということではないでしょうか・・・。

そんな思いもあり、マナー講師になってからも「和の礼儀作法」「和食の作法」「冠婚葬祭」など様々な文化をお伝えしています。

ちなみに日本の贈答文化は神道の影響を強く受けていますが、「祝儀袋」ひとつとっても、神道の精神文化、日本の気候風土、国民性、食文化、加えて陰陽道思想などが形になって現在に至っています。

確かに「和の礼儀作法」は堅苦しいイメージもあるようですが、相手に対する感謝や思いやりの心を具体的に表現したものと理解していただいたら楽になります。

そして一番大切なことは「心」ですが、本来の姿や形が失われてしまう、いわゆる「形無し」になっては元もこもないと考えます。

キャッシュレス化ということは、祝儀袋や新札や芳名帳まで遠ざけた、まさに形無しになる恐れもあるのではと感じる次第ですが、いかがでしょうか。

もちろん祝儀袋やそれに伴う作法に、どのような想いや心を吹き込むかは贈る側次第でしょうが・・・。

【祝儀袋にはいろいろな想いや形が凝縮されている】
時代の流れ、儲かる、便利、楽しいからといって、何でもかんでも変えればいいというものではないと思います。
最低限、日本人としての感性や感覚は失わないで戴きたいものです。

祝儀袋ひとつ一つには様々な意味があります。例えば結婚に対する祝いの気持ちを表現するため金品で渡す意味と、結婚式のご馳走や引き出物の費用の一部を負担する意味もあります。

そしてお金は人から人に渡り、汚れていると考えられていたので、穢れを払う力がある「白い紙」で包みます。白ければ白いほどいいわけで、昔の貴族は白さを競ったという話もあります。

「熨斗」には長寿や長引くという意味があり、結婚生活の幸せが続くように祈念するわけです。

「水引」の結び方も大切で「あわじ結び」「結びきり」には、結婚はこれが最初で最後ですよという思いが込められています。また水引の数は10本ですが、これは喜びが重なるようにという意味で用いられます。

祝儀袋の「寿」の表書きは、数ある祝い事の中でも特にめでたい意味があります。

加えて祝儀袋は「袱紗」で包みますが、お祝いものを汚さないためです。
さらに祝儀と不祝儀では包み方も色も異なります。

贈り物に熨斗を付け、水引をかける作法上の体裁は、室町時代からつたわったもので大変長い歴史を有する貴重な文化です。

平和で四季の豊かな日本という国土に育った、人情細やかな国民性から発生したものです。こんな素晴らしい文化を我々の時代に簡単に手放していいとは思えません。むしろ国際社会に積極的に発信し、次世代にきちんと伝えたいと考えます。

【結び】
日本には昔から「冠婚葬祭」の4大儀式が存在しますが、中でも婚礼と葬儀はとても厳粛な儀式といわれています。

そしてこのようなしきたりや礼式は、虚礼とか旧来の因習として置き去りにしてしまうには、あまりにも勿体ない、豊かな内容や大切な意味を含んでいます。

むしろ人と人との絆づくりや交わりに必要不可欠な知恵として、受け止めるべきではないでしょうか。

例えば現在は影が薄くなりましたが、日本の結納文化や神前挙式には「人間関係作りのヒント」が凝縮されています。
世界に誇る貴重な文化財ともいえるでしょう。

最近デジタル化と国際化が急速に進展し、便利で豊かな社会になりましたが、反面会社や地域での会話や協調性は薄れ、人付き合いも疎遠になっている気がしてなりません。またデジタルコミュニケーションは得意でも対話が苦手な人も珍しくないようです。

加えて便利で豊かになったけど、日本人の幸福度はむしろ昔より低下しています。
「便利になる」ことと「幸せになる」ことは別だということでしょう。

今「人生百歳時代」を迎え、いかに心豊かに生きるかが至上命題になっています。
その要件として健康、お金、生きがい等がありますが、幸せな人生にするには「周囲との良好な人間関係」が最重要項目という研究発表もあります。

しかし良好な人間関係は、わずらわしいと思えるくらい手間暇をかけなければ構築できません。だから日常生活に生きている冠婚葬祭の意味や意義を改めて見直し、対人関係能力を身につける努力をしていただきたいわけです。

世代により捉え方は大きく異なると思いますが、ビジネスシーンではデジタル技術を上手に駆使すればいいと思います。しかし特に慶弔行事等で発生する祝儀袋や不祝儀袋は、昔ながらのやり方を継承するのも悪くないと思うのですが、いかがでしょうか。

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平松幹夫
専門家

平松幹夫(マナー講師)

人づくり・まちづくり・未来づくりプロジェクト ハッピーライフ創造塾

「マルチマナー講師」と「生きがいづくりのプロ」という二本柱の講演で大活躍。「心の豊かさ」を理念に、実践に即応した講演・講座・コラムを通じ、感動・感激・喜びを提供。豊かでハッピーな人生に好転させます。

平松幹夫プロは山陽新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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