マナーうんちく話935《おめでたい時には、なぜ鯛の「オカシラツキ」なの?》
周囲の山がすっかり目を覚ました感じになりました。
「山眠る頃」から「山笑う頃」への移行期で、胸が弾む頃でもありますね。
ところで四季に恵まれ、国土の7割を山が占める日本では、昔から山や自然に畏敬の念を抱き、旬を大切にしながら暮らしてきました。
そして「春の食卓は苦みを盛れ」といわれますが、苦みが多い旬の山菜を身体に取り込んで、冬の間に蓄積した毒素を体内から排出する先人の知恵です。
ビタミンやミネラル等の栄養補給の狙いもあったのでしょう。
熊が冬眠から覚めて最初に食べるのは「フキノトウ」だといわれますが、食べることに関しては、人も動物も似たようなものですね。
また春は「貝」の美味しい時期でもあります。
貝料理はフレンチやイタリアンでも豊富ですが、比較的上手に食べる人が多い気がします。
でも会席料理は結構食べ方が難しいものがあります。
季節性や年中行事とのかかわりが深いことや、冠婚葬祭時における思いが込められているからだと思います。
そこに込められた由来や先人の思いを理解したら、さらに豊かな気持ちになるでしょう。
たとえば3月の雛祭りや結納や結婚式で供される「蛤の吸い物」にはいろいろな由来があります。
〇蛤は二枚貝で、二枚の貝がぴったり結び合って、ほかの貝とでは隙間があいて合いません。従って昔からは良縁に恵まれると共に、「夫婦和合」「夫婦円満」の意味がありました。
〇二枚貝はお姫様や女の子をあらわす意味もあります。
〇蛤は汚れた水を嫌うので純潔の象徴ともいわれます。
〇貞操観念の硬さのシンボルともいわれております。
昔は女の子の幸せは良縁に恵まれることだと信じられていたようで、蛤の吸い物はもってこいの食材だったのでしょう。
しかし雛祭りに蛤が添えられる最も大きな理由は、雛祭りの頃に蛤が旬を迎えるからだと考えます。
ちなみに俳句の世界では蛤は春の季語です。
このように大変豊かな精神文化を持っている蛤は、北海道から九州で採れますが、現在使用されている蛤の大半は輸入に頼っているのが現状です。
豊かな国といわれる日本の食料自給率は現在38%を前後していますが、いずれにせよユネスコの無形文化遺産に登録されている「和食」の食材も、大半が輸入に頼っているようでは寂しい限りですね。
私は常々私が主催するテーブルマナー講座で、食べ物が命を繋ぐ最も大切なもののひとつであるにもかかわらず、このような現状が話題にならないことを取り上げています。