マナーうんちく話521≪お心肥し≫
デジタル全盛になるにつれ、次第に関係性が希薄になってきた感がありますが、長い歴史の中で常に日本人の心のよりどころであった寺と神社。
遠い存在になったように思われますが、約12500万人の人口を有す日本には、身近なコンビニよりはるかに多い、約76000の寺院と約81000の神社が存在します。
そして少し古い資料ですが、日本には仏教系の信者は8000万人以上、神道系は1億人以上いるといわれています。
合計すると人口以上になるのは仏教と神道を両方信じているからです。
ところで間もなくお盆ですが「盆と正月が一緒に来たよう」という諺があります。
本来の意味はなんでしょう?
仏教行事で先祖供養の盆と、神道行事で歳神様を迎える正月は、それぞれ独特な行事がたくさんあり大変忙しいのは周知のとおりです。それが一度にやってくると、猫の手も借りたいくらい忙しくなるという意味です。
また喜ばしい出来事が重なって、大変めでたい時にも使います。
ビジネスでもプライベートでも使用しますが、前者は「決算報告の資料作りで大変忙しい時に、大口の契約が取れた時」などは、にわかに忙しくなるので「盆と正月が同時に来た」と表現します。
「席の暖まる暇もない」ともいいます。
そして後者は、「長男が難関大学に合格し喜んでいたところに、急に長女の結婚が決まった」というような時に、盆と正月が一緒に来たと言って、家族が喜ぶときに使います。
また今のサラリーマンは一年に100回以上休みがありますが、江戸時代の奉公人は一年に盆と正月しか休めません。
このときは「藪入り」といわれ、主から小遣いをいただき、きれいな服を着せてもらって、実家にお土産持参で帰ることができます。
家に帰れば家族や幼友達とも会えるので、本当にうれしい日になるわけです。
だから盆や正月はこの上ない楽しい日で、これが同時にやってきたら喜びもひとしおになるわけですね。
浮かれる気分になりがちですが、世の中そんなに甘くはないでしょう・・・。
「月雪花(つき・ゆき・はな)は一度に眺められぬ」という言葉があります。
同時に良いことと、嬉しいことと、幸運なことは経験できないという意味です。
色々な理由がありますが、月は秋、雪は冬、そして花は春ですから同時に見ることは無理ですね。
さらに別の理由は、月が出る夜には雪は降らないし、雪が降れば花は隠れて見えません。そして花の咲く昼には月は見えないということです。
ちなみに自然の美しい風景を指す言葉に「雪月花」がありますが、これは「せつげつか」と読みます。
クラス編成の時に「雪組」「月組」「花組」等とつけられますが、ここからきています。
また日本には「三大名園」があり、それぞれ特徴があります。
私が住んでいる晴れの国岡山には「後楽園」があり特に秋の「月」が有名です。
そして兼六園は雪で、偕楽園は花(梅)が有名ですね。
今クールビズやウオームビズ、テレワークなど横文字の造語が氾濫しています。
時代の流れだといわんばかりに、取ってつけたような造語もいいかもしれませんが、昔から慣れ親しんだ、深みのある言葉も大切にしていただきたいものです。
特にめでたいことや嬉しいことの表現は大切です。