マナーうんちく話509≪「女しぐさ」と「男しぐさ」≫
新型コロナ騒動の中、デリバリーやテイクアウトの料理が人気を呼んでいます。
プロの味が家庭で手軽にいただけることは誠にありがたいことですね。
でも毎回というわけにはいきません。
新型コロナのせいで家族が集うことが多くなりました。せっかくですから、改めて「家庭での食事」のありがたさや大切さを見直して頂きたいものです。
30年以上洋食・和食のテーブルマナーに関わってきた私は、「生きることは食べることであり、食べ方が良ければ生き方もよくなる」と考えていますが、その根幹となるのが家庭での食事の在り方です。
家族が学校や仕事を終えて家に変える時に、今日のおかずは何だろう?とわくわくしながら帰る温かい食卓・・・。
家を離れても、ふとお母さんの手作りの味が思い出される食卓。
娘が結婚して新しい家庭を持ったときに、参考にしたくなる食卓。
では、それらの食卓を作るのに、特別な能力が必要かといえばそうではありません。
家族のことを思いながら心を込めて作れば大丈夫です。
予算、家族の好み、旬の食材、栄養などを考慮してメニューを考えて下さい。
食卓をきれいにして、季節の花や箸置きなどがあれば最高ですね。
お母さん一人で忙しく振舞うより、せっかくですから子どもも一緒に、料理を作ったり、食卓を整えてください。数学や国語の点数のように数値化できませんが、知らず知らずのうちに思いやりの心や感性が身につくでしょう。
ちなみに「団らんの食卓」というのは、思いやり、感謝、そして本音が必要ですが、ポイントは家族揃って食べ始め、揃って終わることです。
また意外に思われるかもしれませんが「暖かい料理」は非常に大きな力を持っています。暖かい料理というものは家族の心をつないでくれます。
たとえ子どもが非行に走っても、母親の温かい料理で育った子は、また元の鞘に収まると言います。コンビニやスーパーや一流の店でも買えない味だからです。
最近は共働きの家庭も多く何かと大変ですが、できる範囲で努力していただければ、その努力は報われるはずです。
家庭で子どもも、妻も、夫も、何ら困りごとや心配事がない家庭はまずありません。
苦労や困難かあってこそ家族であり、その中でいかに「よりよく生きるための食卓」を工夫するかだと思います。
デパートの総菜売り場、テイクアウト商品などはとても魅力的で、手間暇かけなくてごちそうを楽しむことができます。しかし母親の愛情は味わえません。
加えて自由とか個性が横行している今、家でも気軽に食事を楽しむ傾向にあり、身だしなみにも構わなくなってきた気がします。そんな中、あえてきちんとした装いや、家族での語らいを大切にしていただきたいと思います。
テーブルマナーに30年以上関わって多くの食べ方を拝見してきました。また多くの若者の研修会も担当してきました。そして今の子どもにとって、不自由さや面倒くささが感じられる食卓が必要だと痛感しています。
窮屈さや面倒くささを、家庭の食卓で子どもに体験させて欲しいものです。
学力の低下をねげくよりもまずは《食卓の在り方》だと思うわけです。
コロナ騒動は社会構造を大きく変え、今回示された「新しい生活様式」では、昔のように他人とのつながり、人との密なつながりを避け、益々コミュニケーションがとりづらくなりました。しかしこれで本当にいいのでしょうか・・・。
食事は勝手に目の前に現れるわけではありません。
料理を作ってもらっている過程の中で、大根を切る音を聞いいたり、湯気が立つのを見たり、味噌の匂いを嗅いだりしながら五感をフルに使って味わっています。
そのことが、子どもの豊かな感性や、思いやりや、感謝の気持ちを育んでいるわけです。動物に与える「えさ」と、子に食べさせる「食事」の違いはそこにあります。
孤食にならないためにも、よりよく生きるためにも、新型コロナ禍の今こそ、家庭で食事を作ることの大切さを感じていただければ幸いです。