マナーうんちく話622≪世界平和記念日と日本の礼儀作法≫
日本の四季の美しさは世界中の人が羨ましがるところですが、暦の中ではその季節に応じ、大変素敵な言葉で表現されています。
二十四節気や七十二侯を始め、「季語」という美しい言葉や「和風月名」もあります。
そしてそれらが情緒豊かに、ゆっくり移ろいでいくのが日本の季節だったのですが、最近は温暖化のせいでしょうか、「春雨」とか「菜種梅雨」のような繊細さや風情が無くなった気がします。
「春雨じゃあ濡れてまいろう」という月形半平太の粋なセリフはどこに行ったのでしょうか・・・。
自然に畏敬の念を抱き、その恵みに感謝し、自然に思いやりを発揮しながら生きてきた先人は、暦の中でそれを上手に表現して現代に伝えてくれたのかもしれませんね。
暦のみならず、長い歴史を有し、平和な社会を築いた日本には「和の礼儀作法」という相手を思いやる素晴らしい文化があります。
日本が平和国家だからこそ築けた世界に誇る文化ですが、今回はその一部「残心」を紹介します。
講演会講師を長くしていると、いろいろな団体に出向くことが多々あり、その都度「お迎え、もてなし、お見送り」を受けます。
これは千差万別で、事務的な場合もあれば、心に響く場合も多々あります。
例えば帰り際に当たって、担当幹事や打ち合わせをして下さった全ての人が玄関の外に出て、笑顔で丁寧に送って下さる時には大変親近感を覚え、とても清々しい気分になります。その団体の品格を感じます。
特にお見送りを受ける側としては、必ず途中でいったん振り返るわけですが、そこに笑顔で見送って下さる姿があれば最高です。
ではなぜ最後まで見送るのかといえば、「私達はいつまでもあなたのことが頭に残っていますよ」という、相手に対する敬意の表現です。
事務的にサッと見送って早々と切り上げるか、見えなくなるまで微笑んで見送るかは数十秒の違いがありますが、これはとても大切なことです。
ちなみに見送る側は「応対した人全員で」がマナーです。
見送る側は最後まで笑顔で見送り、見送られる側は途中でいったん振り返り簡単な会釈をする。
これがきちんとなされば交流は深まります。
今まで縁があった相手のことを心に残しておくこと、つまり「締めくくりに心を込める」ことを「残心」と表現しますが、良好な人間関係を築くとともに、相手がどんな人かを判断するときには大変役に立ちます。
残心は武道の世界で生まれ、相手を倒した後も何が生じるかわからないので油断しないことと、倒した相手を慈しみ、礼を尽くすことを教えています。
マナーの世界でも至る所で見受けられます。
障子や襖の開け閉て、靴を脱いだ後、トイレの使用後、食後、そして電話で話し終えた後の電話の切り方等など、上げればきりがありません。
私は電話で話が済めば、どちらが先にかけたかは別として、要件が終わって直ちに切ることはあまりしません。
5秒から7秒くらい間をおいて静かに切るよう心がけています。
しかし、電話の切り方のみならず、ここであげた例は、大変非合理的だと思われるかもしれません。
欧米ではほとんどそう思われるでしょうね。
まさに文化の違いだと思いますが、いろいろな面において「余韻を残しておく」という、日本人ならではの文化で、季節の言葉と同じように、後世にも残したい文化だと思います。