マナーうんちく話535≪五風十雨≫
古今和歌集に藤原敏行の「秋来ぬと 目にはさやかに 見えねども 風の音にぞ おどろかれぬる」という詩がありますが、昔の貴族はちょっとした風の音で秋を感じることができたのですね。
ほんの小さな変化に気がつく、中世の貴族の繊細な感性には感心させられますが、同じ時期の風でも、台風10号の風速50メートルの風となれば、風流どころかできれば避けて頂きたいものです。
盆の天気が気になるところです。大事に至らなければいいのですが・・・・。
ところでAI全盛の現代においても日本では、盆と正月にはご先祖様と語らう様々なしきたりが多く残っています。地域により様子が異なりますが・・・。
このコラムで何度も触れているように、お正月やお盆はいずれもご先祖様の里帰りを、お迎えして、おもてなしして、お見送りする一連の行事です。
そしてお盆は「迎え火」と言って、松明を焚いてご先祖様をお迎えします。
火を焚くのが難しいようでしたら「盆提灯」で代用してもいいでしょう。
ホオズキや女郎花といった盆花を玄関に活けるのもお勧めです。
ちなみにホオズキは使者を導く提灯の役割をするといわれています。
同じように松明には、里帰りされるご先祖様が場所を間違えないようにきちんと誘導する役目があります。
正月には同じ目的で「門松」を立てますがよく似ており、あたかも生きている人に対する思いやりのようですね。
また里帰りされる時は、とにかく「早く会いたいので急いでお越しください」との気持ちを込めて、胡瓜で足の速い馬を作ります。
そして里帰りされたらご馳走、花火、盆踊りなどでおもてなしをします。
盆踊りは室町から江戸時代にかけ様々な要素が加味され、盆の先祖供養と結びついたといわれています。
踊りで里帰りされたご先祖様の霊を慰めるわけですが、踊る人も生きていることを喜び、先祖への感謝を感じることに意義があるわけです。
さらに踊ることで疫病を追い払う目的もあったようです。
おもてなしが済んだらお見送りするわけですが、お帰りの際にはお盆にお供えしたご馳走をお土産にします。
これは、あの世に変えられたご先祖様が恥ずかしい思いをしないように、心を込めて盛大にします。
お見送りの時は名残り惜しいので、茄で作った牛に乗って、ゆっくりお帰りいただきますが、送り火を焚きます。
迎え火、花火、盆踊り、ご馳走、送り火・・・・。
あの世から里帰りされたご先祖様との語らいは、現代人には理解できないくらい大きな楽しみがあったのでしょう。
この様に盆には「迎え火」「送り火」といった火を焚くわけですが、日本人にとって火は昔から特別な意味があります。
どこの家でも「囲炉裏」があり、家族が生活の場にしてきたわけですね。
だから昔の家は常に囲炉裏の火を絶やさないように努力してきたのでしょう。
ところで盆という漢字は「分ける」と「皿」になります
嬉しいことも悲しいことも家族みんなで共に分け合い、絆を深めてきたわけです。
大型連休を利用した海外旅行もいいかもしれませんが、盆は正月とともに、家族みんなが集まり絆を深める日で、ご先祖を供養し、ご先祖に感謝する時です
だからこの時くらいは、家族が生活を共にしたらいいと思うのですが・・・。
孤独死が減るかも・・・。
それにしても「目に見えないもの」にも、このように誠心誠意もてなしをする日本の文化は本当に素晴らしいですね・・・。