マナーうんちく話498≪うかつ謝り≫
日本には「冠婚葬祭」といわれる人付き合いの基本になる大切な儀礼があります。
その冠婚葬祭に必要不可欠なものが「冠礼」「婚礼」「葬礼」「祭礼」ですが、「礼」とは、相手を敬う気持ちとともに、互いに支えあい、助け合い、生きていることに感謝し、喜ぶ気持ちです。
まさに農耕文化で栄え、自然と共生し、平和な社会を築いてきた先人の生活の知恵で、世界に誇る素晴らしい文化だと思います。
なかでも昔から人付き合いの基本として、事あるごとに物を贈ったり、頂いたりする大変ユニークな「贈答文化」があります。
世界屈指の物が豊かな国になった現在では、贈答のスタイルは激変した感がありますが、贈り物を通じ、良好な人間関係を築き、維持したい気持ちは大切にしたいものです。
今回は熨斗も水引も不要の、「お裾分け」と「お福分け」に触れておきます。
何かと祝い事や喜びごとが多い季節です。参考にしてください。
【お裾分け】
他人から頂いた品物や感動や利益の一部を、近所の人や友人や知人など親しい人に贈ることが「お裾分け」です。
似たような言葉に「山分け」がありますが、これは一部ではなく、均等に分けることを意味します。では「裾」とは何のことでしょうか。
着物や浴衣の裾上げとか、ズボンの裾上げを依頼したことがあると思いますが、着物や浴衣やズボンの下の部分を裾と言います。また山麓の緩やかな傾斜地を裾野と言います。
つまり「裾」とは下の部分で、大切なものではないという意味になるようですね。
従って、例えばリンゴをたくさんいただきました。
夫婦二人だけではとても食べきれないので、後輩や友人に「リンゴをたくさんいただいたのでお裾分けです」と言って贈るのは良いと思います。
しかし目上の人や上司に対して「お裾分け」という言い方は感心しません。
ではどのような言い方をするか?
お勧めは「お福分け」です。
お福分けは、自分の家にやってきた目出度い「福」を分けるという意味になるので、これならだれに対しても縁起がいい贈り物になるでしょう。
改まった贈り物ではないので「熨斗」の「水引」は不要です。
贈り方は一般的には、お盆の上や、重箱や器の中に入れて、その上に布やテーブルナプキンでもかけて届ければいいでしょう。
勿論渡すときには布やナプキンはとってくださいね。
【お移り】
では頂いた方はどうするか?
勿論丁寧にお礼の言葉を述べて、そのまま返しても悪くはないですが、日本には昔から「お移り」という文化があります。
ちなみに、何が移るのでしょう。
「頂いた福」が移るわけです。
だからお返しの品にも縁起を担いだり、語呂合わせに凝ったりします。
だから以前はマッチが一般的でした。
ちなみにマッチは「硫黄」からできているので「イオウ=イワウ」につながり、しかも実用的だったからです。
この他懐紙もお洒落ですが、現在懐紙はどこでも購入できません。
従ってちょっとしたお菓子程度がいいでしょう。
大切なことは、贈り物を頂いたり、お返ししたりして、相互の縁を絶やさないようにする心です。
孤独、孤立、過疎化、無縁社会等ゆゆしき言葉が登場して久しくなりますが、こんな時代だからこそ思い起こしたい文化です。