マナーうんちく話604≪武士は食わねど高楊枝≫
世界屈指の美しさを誇る日本の紅葉がそろそろ峠を超すころで、冷たい北風が吹くたびに、赤や黄色に色づいた木の葉が落ちていきます。
先人は木の葉の落ちる様や音を、雨や時雨に例えて素敵な表現をしています。
冬の季語にもなっていますが、「木の葉雨」や「木の葉時雨」です。
風がないのに木の葉が切れ目なく降り注ぐ様子は、なんとなくメランコリックな気分になりそうですが、しみじみとした風情があります。
ちなみに晩秋から冬にかけては、花が大変少なくなる時期ですが、そんな中、ひときわ艶やかな紅色の花で彩を添えてくれるのが山茶花です。
そして、その山茶花に降り注ぐ雨のことを「山茶花時雨」と言います。
ところで今ではあまり見かけなくなりましたが、昔は落ち葉をよく掃いたものです。
主に竹箒や熊手を使用しますが、縁起がいいとされる熊手をご存知でしょうか?
「熊手市」に行かれる人も多いと思いますが、昔は至る所で収穫祭が行われます。
古今東西人の集まるところでは「市」が立つわけで、そこで古着や農機具などが販売されますが、熊手も売られます。
熊手の用途は、庭の掃除や落ち葉や穀物などを集めるときに使用されますが、長い柄の先に、竹製の熊の手のように曲がった爪状のものを、扇形にしてつけています。
落ち葉や穀物などをかき集めるには、たいへん効率的な道具ですから、それが転じて「人を集める」「運を集める」につながり、開運招福の縁起物になったわけです。
さらに縁起を担ぎ七福神や大判・小判などを飾った置物が販売されていますね。
福を招くものですから、神棚や比較的高いところに飾られたらいいでしょう。
ところで、お客様が長居をして、なかなか帰ってくれなくて困った経験はありませんか。とはいえ失礼があっては困ります。
とっておきの対処法があります。
「箒を逆さに立てる」ことです。
マナーには「なぜそうするの?」という合理的な理由が存在しますが、なぜ逆さにするかお判りでしょうか?
熊手の理屈と同じですが、箒はゴミや塵をかき集めるのに使用します。
それを逆にすることにより、「ごみをまき散らす」、さらに「客を退散させる」につなげるわけです。
しかしこれは現実的ではありませんね。
客人がなかなか帰らないようであれば、その人の「これから先の予定」を伺ってください。
例えば「今午後3時30分ですが、平松さんのこれからのご予定は?」などと切り出せばいいでしょう。
8割から9割の人はこの言葉で気づいてくれますが、全然効き目がなかったら、「私は午後3時45分になったら子どもの迎えがありますから失礼いたします」などとお願いしたらいいでしょう。
失礼のないようにお客様にお帰り頂くには、お客様が納得いく理由がポイントになります。