マナーうんちく話535≪五風十雨≫
枝いっぱいにピンク色の花を華やかに咲かせた桜も散ってしまいました。
咲いてよし、散る際も良い桜ですが、散った後の桜に関心を寄せる人は殆どいないと思います。
でも昔の人は違います。
優雅に咲き誇る桜だけでなく、散った後の桜もユニークな名前を付けて、愛でていたわけです。
満開の桜の花びらが風に吹かれて、雪がふぶいているかのごとく散る様を「花吹雪」と名付けました。
春の季語にも成っていますが、遠山の金さんの「桜吹雪」の柄の入れ墨は小説やテレビでおなじみですね。
そして、その花びらが水に流れる様子を「花いかだ」と名付けています。
桜の花が散って、水に浮かんで帯状になって優雅に流れる様子をいかだに見立てたわけで、神秘的で美しい風景です。
さらに花弁が散ってしまった後の桜も先人は細かく観察して、美しい名前を付けています。
散ってしまった桜の木に残っている、濃い紅色の雄蕊(おしべ)と雌蕊(めしべ)を、「桜蕊(さくらしべ)」という名前を付け愛でていたわけです。
花が散ってしまった後で、細やかな桜蕊が降ることを「桜蕊降る」と言いますが、桜吹雪や花いかだとはまた別の晩春の趣が感じられます。
そして最後がいよいよ「葉桜」となり、晩春から初夏へと移行していくわけですね。
桜の花が散り、若葉が芽吹き始め、新緑で覆われる時期までの桜を指しますが、葉桜の季語は夏です。
只今「桜餅」が旬ですが、桜餅の葉っぱはこの葉桜を塩漬けにしたものです
《葉桜や 奈良に二日の 泊まり客》(与謝野蕪村)
観光客でにぎわう、桜が満開のころとは打って変わり、葉桜の時期になると客がめっきりと減り、静かになるので、のんびりと奈良に二日も泊まっている!と言う意味でしょうか・・・。
観光客で賑わった桜の名所も、また日常に返った所も多いと思いますが、葉桜の頃も生命力が感じられますね。
それにしても、先人の感性は素晴らしいです。
自然と共生するとは、このような事なのでしょうか。
今年の四月は長雨にたたれました。
四月に雨が多いのは毎年のことですが、今年は特に多く、その分日照不足になるので、野菜や生き物にも異変が生じます。
豪雪、豪雨、暴風、地震、津波等年々被害が大きくなっている気がしますが、自然に対し、素敵なマナーを発揮するように神様が警告しているのかもしれませんね。
ちなみに、自然と共生し、農耕文化や平和な社会を築いてきた日本人のマナーは、人にも自然にも「思いやりの心」を発揮することが大きな特徴で、これは今世界が直面している地球の環境問題や平和にも、大いに貢献できるものだと思います。
季節は今まさに「山笑う頃」から「山滴る頃」に移ろうとしています。
自然の移り変わりに目を向けると共に、環境問題にも関心を寄せてみるのもいいですね。