マナーうんちく話553≪「和の作法」と「一回一動作」のお勧め≫
鯵(あじ)は魚偏に「参」と書くから、3月頃から美味しくなるという説がありますが、季節を問わず漁獲されるので、日本人には昔から最もなじみのある魚であり、庶民の食べ物を代表する青魚です。
江戸時代には酒のつまみやご飯のおかずとして好評で、庶民は「鯵の行商人」の声を待ちわびていたそうですね。
最近は特に生活習慣病の予防がクローズアップされるようになりましたが、鯵は味が良く、安価であり、加えてDHAやEPAを豊富に含む健康食として注目を浴びているので、食卓に上がる機会が多いと思います。
中でもシンプルな「鯵の塩焼き」は鯵を味わう調理法の中でも、最も人気が高いだけに、上品に美しく召し上がって頂きたいものです。
私が主催するお手頃価格での和食のテーブルマナーでは、一匹丸ごとの魚料理の美しい食べ方として、鯵の塩焼きを出して頂くケースが多々あります。
ところで、魚はフレンチであれ、和食であれ、切り身であれ、一匹丸ごとであれ、基本的には一口ずつ、左からフォーク・ナイフや箸で切り分けて頂きます。
一匹丸ごとの魚は、頭が左にきます。
但し、弔事の時には右に来る場合もあります。
食べ方ですが、紅色の茎付きの生姜、つまり「はじかみ」(筆生姜)が添えてあったら、皿の奥側(上側)にはずして置いて下さい。
レモンが添えてあれば、好のみで全体にサッとかけて下さい。
また、大根おろしが添えてあれば、大根おろしに醤油を数滴掛け、魚の身と共に食べて下さい。
塩焼きは、皮の部分に塩が沢山振ってあるので、醤油は不要だと思いますが、それでも醤油をかけたい場合は、魚の身に直接かけるより、大根おろしに掛ける方が綺麗に食べられます。
食べ始める手順は、先ずは上の身を頭側から尾の方に向けて、身を散らかさないように食します。
魚の身の構造上、このスタイルが一番美しく食べられるコツです。
火の通りを良くするために切り身が入れられていたら、それに沿って箸を入れたらいいでしょう。
上側の身を食べ終えたら、中骨が出てきますので、頭を手で押さえて、箸を中骨の中に入れ、頭と中骨をはずして、これを皿の奥(上側)において、下の身を、頭の側から尾の方向に向けて食して下さい。
また、鯵の尾を上に向けて折って、そこから箸を入れ、頭に向けて中骨をはずす方法もあります。ぜひ試してみて下さい。
どちらの方法でもいいと思いますが、注意して頂きたいのは、洋食であれ、和食であれ、ひっくり返さないことです。
理由は洋食と和食では少し異なります。洋食(フランス料理)はソースの種類が多くて、それが美味であるという特徴があります。
特に魚料理はソースをすくう専用のスプンがある位ですが、魚をひっくり返すとソースが飛び跳ねます。だから裏返やさない方が良いわけです。
一方和食には、頂きます」「ご馳走様」という食前、食後の美しい挨拶があります。「頂きます」は自分の命を長らえるために魚などの命を頂く意味で、食材に対する感謝の言葉です。従って、魚の命を頂くのですから、ありのままの姿で感謝しながら食することが魚に対する礼儀です。自分の都合で裏返やすのは感心いたしません。
そして大事な事があります。
食べ終えたら、見苦しくなりやすい小骨や頭やレモン等の搾りかすを、皿の向こう側(上側)に綺麗に纏めて下さい。
ちなみに「はじかみ」は、魚の身を食べ終えた後に食して下さい。
見た目の美しさもさることながら、脂の乗った魚を食べ終わった後の、口直しの役割があるからです。