マナーうんちく話622≪世界平和記念日と日本の礼儀作法≫
梅雨入りしたところで、いよいよ田植えの時期になりました。
食の西洋化が進んだとはいえ、日本人の大半の人は米が主食で、毎日一回は米を食べていると思います。
そこで質問です。
稲穂をご存知でしょうか?
イネ科の植物の穂先にある、針のように細い毛のような部分を芒(のぎ)と表現しますが、6月6日は24節季の一つ「芒種(ぼうしゅ)」です。
芒種は二十四節季の中でもなじみの薄い言葉だと思いますが、稲のように、「芒のある穀物の種をまく時期」と言う意味です。
田んぼを耕し、水を張って育てた苗を、いよいよ田植えをする時期です。
つい半世紀前までは田植え機が無かったので、数本ずつ束ねた苗を、一つずつ、腰をかがめて、田んぼの水につかりながら、手で植えていました。
昔の田植えを経験した人は、その苦労が身にしみています。
だから、昔から日本人は、「一粒のコメも無駄にしてはいけない」と躾けられてきたわけです。
以前、ケニアの環境副大臣マータイ博士が来日された時、日本の「MOTTAINAI文化」に感動され、これを世界に広められたことは有名ですが、勿体ない文化の原型はこの辺にあるような気がします。
さらに、米を作ると言うことは、田を耕し、水路を築き、水の管理が大変です。従って、一人ではできません。
多くの人が力を合わせて、助け合いながらする仕事です。
ここから、「和の精神」や「しきたり」が生まれたとも言われています。
まさに、稲=命根(イネ)=命の根なのです。
加えて、田植えは農作業のみならず、花見のように、田の神様をお迎えする神事にもつながっています。
普段稲穂に縁がない人でも、正月には稲穂を飾ります。
これは、「今年もどうか実り多い年になりますように」との願いが込められています。
そして、「実るほど首を垂れる稲穂かな」という諺があります。
「人格者ほど謙虚で、小人物ほど尊大に振舞う」たとえです。
良く実った穂のように中身が優れている人は、頭を下げる事、即ち謙虚になる大切さをわきまえていると言う意味ですね。
これに似た教えは西洋にもあります。
the more noble、the more humble
「偉い人ほど高ぶらない」と訳します。
「Noble」は高潔、崇高、気高いと言う意味がありますが、フランスには
《noblesse oblige(ノーブレス オブリージュ)》と言う諺があります。
マナーの世界では有名ですが、身分の高い人には、それに応じて、果たすべき義務や責任があると言う意味で、西洋の基本的な道徳観になっています。
平たく言えば、貴族たる者は身分にふさわしい振る舞いをしなければいけないと言うことですが、日本の武士道にも通じます。
人は人徳が無ければ、いくら金や知識や技術があっても、人として尊重されることはありません。
何もかも豊かで便利になり、生き方もすっかり多様化してきた現代人も、芒種の時期位は、古来より脈々と続いている諺や伝統の大切さを自覚したいものですね。
特に指導的立場にある人には参考にして頂きたい言葉です。
マナーは学生や新入社員ではなく、指導的立場にある人が率先して、身に付け、人や自然に対して発揮するものです。
加えて、イネの緑の葉の環境保全効果や水害を守る力、さらに年中行事との関わり等、稲の多様性にもう一度目を向けてみることも大切だと考えます。