マナーうんちく話604≪武士は食わねど高楊枝≫
「暑さ寒さも彼岸まで」と言われますが、本当に良い気候になりましたね。
これから暖かい日が続くようですが、3月17日は「彼岸入り」です。
彼岸とは、直訳すれば「向うの岸」、つまり現世に対して「あの世」のことで、春分と秋分の日を挟んで、前後3日ずつ、合計7日のことです。
日本独特の行事で源氏物語にも登場するそうですが、この頃は、浄土思想と結びつき、広く信仰されていたようです。
西方浄土の考え方が有るように、西のかなたが極楽浄土で、太陽が真西に沈む彼岸に、「阿弥陀様のお世話になろう」と言うことだったのが、やがて、今のように、ご先祖様を供養する日になったわけです。
平たく言えば、お盆は仏様の「里帰りの日」で、お彼岸はお墓に「仏様を供養しに行く日」だという認識で良いと思います。
家族揃って、牡丹餅を持ってお墓参りを予定されている人も多いと思います。盆と正月そして彼岸は、日本人を実感する日ですね。
ところでお墓参りをしたら、お墓に向かって両手を合わせますが、なぜ「両手を合わせるのか」ご存知でしょうか?
これにはキチンとした理由が有ります。
お墓で両手を合わせるのは、「自分の心」と「ご先祖様の心」を合わせると言う意味です。
ちなみに、右手がご先祖様の心で、左手が自分の心だとされています。
また、食事をする時にも、「頂きます」の挨拶と共に、両手を合わせる人を良く見かけますね。
「頂きます」の意味は、自分の命を長らえるために、魚や豚や牛や鶏や卵、あるいは野菜や果物等の、食材の命を頂くと言う意味です。
魚も、豚も、牛も、鶏も、卵も人間に食べられるために生きているわけではありません。
それを、人間の一方的な都合で、人間の命を長らえるために、食べるわけですから、食材に感謝の意を込めて「頂きます」と言葉を発するわけです。
従って、この時、両手を合わせるのは、「食材の命」と「自分の命」を一つにする意味です。
すなわち、お墓参りの時や食事の時に両手を合わせると言うことは、ご先祖様や食材に感謝の意を込めて、心を一つにすることで、後世にも是非伝えたい日本人ならではのしぐさです。
なぜなら、ご先祖様や食材に感謝する心が生まれれば、日常生活においても、他者に対して感謝する気持ちが育まれるからです。
マナーは、「感謝」や「尊敬」や「思いやり」の心を抱き、それを具体的に言葉や態度で表現することですが、「両手を合わす」と言うことは、すばらしい感謝の気持ちの表現の一つです。
加えて、お願い事をする時にも両手を合わします。
初詣や参拝の時には、両手を合わせて言願い事をしますが、願いがかなった時に、感謝の気持ちを込めて、手を合わすことは少ないですね。
お願いごとをすることに重きを置くより、感謝することに重きを置いて、両手を合わせるようにしたいものですね。
昨年の暮れに、県内のあるお寺から素敵なご縁を頂き、今年の1月に講話の機会を与えて頂きました。
そして、そのお寺のご住職から、「元旦に初日の出に向かって、お願いごとをするために、両手を合わせる人は多いですが、大晦日に沈む太陽に向かって、感謝の気持ちを込めて、両手を合わす人は少ないですね」と言う事を教えて頂き感動しました。
仏に仕える方の言葉は心に響きます。