マナーうんちく話453≪冬来りなば春遠からじ≫
日本は南北に細長い国ですから、南と北では季節の移ろいはかなり異なります。
北国では例年にない積雪に見舞われているようですが、「晴れの国」岡山ではすっかり春めいて、草木の息吹をしっかり実感できるようになりました。
今日から弥生3月のスタートです。
農作業をしていると、土の中から小さな芽がチョコと顔を出して、今日は!している姿を見かけるようになる頃です。
春になって、草木が芽を出し始める事を「草萌え」と言います。
そういえば、万葉集に、「石ばしる垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも」という有名な歌が有ります。
先人たちは、何気なく咲いている無名の花にも季節を感じ、歌にするほど、自然を愛し、自然と仲良く接してきたわけですね。
先日、「岡山県華道展」を見に行きました。
「和の礼儀作法講座」を担当する機会が多いので、「床に活ける花」に興味が有り、華道展には、できる限り行くようにしています。
2月28日の山陽新聞の朝刊の一面に、「心癒す春色満開」と言うタイトルで、華道展の様子がカラフルに掲載されていましたが、この記事に心を癒された方は本当に多いと思います。これからもぜひよろしくお願いしたいところです。
世界中には数えきれない位の新聞が有りますが、花に関する記事が、大々的に一面に掲載されるようなことはあまりないのではないでしょうか?
しかし、これが読者に喜んで受け入れられるという風習こそが、日本の素晴らしい文化の形だと思いますし、絶やさないでいただきたいと願います。
花を愛でる習慣は恐らく他国でも多く見受けられると思いますが、「生け花」や「花見」と言った文化は、四季が美しく、心の在り方を重んじ、八百万(やおろず)の神を崇拝する日本ならではの文化です。
野に咲いている花をとり、それを瓶に挿すことを、花を「立てる」と言い、それが後になって「生ける」といわれ、「いけばな」の言葉が生まれた事を、何かの本で読んだことが有りますが、それなりの格を有し、これが様々な流儀として意味深い文化になったのは、礼儀作法と似ていると思います。
要するに、日本の華道とは、四季折々に咲く花を切って器に挿し、その姿の美しさや、命の尊さまでも表現する、礼儀作法を大変重んじる伝統芸術で、色とボリュームにこだわるフラワーアレンジメントとは異なります。
和の礼儀作法を担当するに当たり、様々な会場に出向きますが、床の間に花が活けてあれば思わず心がなごみ、そこの主人の「もてなしの気持ち」がヒシヒシと伝わってきます。
また、洋食と和食のテーブルマナー講座を担当する時には、参加者にいつも、「台所が綺麗ですか?」と言うことと、「食卓に花を生けていますか?」という質問を投げかけますが、いつでも手が挙がるのは僅かです。
部屋の中に花が有れば、それだけで生活に活力が出ます。
花には心を和ませてくれる大きな力が有るからです。
生け花とまではいかなくても、生活に花を添えられる事をお勧めします。
さらに、「エコ」とか「省エネ」とか「環境保護」と言う前に、花の名前を少しでも覚え、自然を理解することは大切だと考えます。
また、私たちは、ともすれば、咲いた状態の花や熟した実だけしか目にしませんが、春に芽が吹き、この芽が長い月日を掛けて成長して、始めて美しい花を咲かせ、実を実らせます。
花を咲かせ、実をつけるには、風雪に耐える必要が有るということです。
春になって、新たな生きがいや夢を持たれた人も多く、これから様々な事を経験されると思いますが、すべてが順風満帆ではありません。
厳しい寒さや暑さも経験して始めて、芽吹いて花が咲き、実が実ると言う事をしっかり認識して頂ければと思います。
何もかも威勢よく萌え出る頃は「希望」と言う言葉がお似合いです。
元気で活躍されますように。