マナーうんちく話604≪武士は食わねど高楊枝≫
和室に関するお話しを勧めていますが、今回のテーマは「障子(しょうじ)と襖(ふすま)」についてです。どちらも、木と和紙で出来ておりますが機能は事なります。
障子は長い間、和風住宅の建具として、広く日本人に親しまれている和風住宅の建具で、吸湿性や断熱性を有するとともに、外部との視線を遮る大きな役割が有ります。さらに、採光が可能で、自然の柔らかい光を取り入れて、安らぎを与えてくれます。
水と糊で簡単に張り替えができ、年末の大掃除などで経験された方も多いと思います。
一方、襖も部屋と部屋の仕切りとして日本住宅にはなくてはならない建具です。
保温機能のみならず、湿度の調整ができるので、湿気の多い日本では今でも重宝されています。また、由緒ある建物の襖には「襖絵」が描かれており、素晴らしい雰囲気を醸し出しています。歴代の著名な絵師による国宝や重文級の襖も存在するのはご承知の通りです。
また、障子は採光の機能を取り入れるため家の外部に採用されているのに対し、襖は部屋と部屋の仕切り用等として家の内部に採用されています。
そして、障子も襖も歴史は長く、平安時代の頃からだといわれています。
ところで、座布団や畳と同じように、障子や襖の「開け閉(た)て」にも厳格な作法が有ります。略式で簡単に行う方法と、厳格に行う方法について解説しておきます。
○略式の場合
・座って行って下さい。(中にいる人を見下さないためです)
・「失礼いたします」と中の人に声をかけ、「どうぞ」との声を確認します。
・一気に、開けたり、閉(し)めたりせずに、ゆっくりと3回に分けて行います。
・座ったまま中に入り、一礼して閉めます。
これで「余程の場」でない限り大丈夫だと思いますが、さらに厳格に行うとすれば以下のようになります。
○厳格に行う場合(3回の動作をメリハリつけて行います)
・障子や襖の前に位置し、握りこぶし2つくらいの距離を置き座ります。
・「失礼いたします」と中の人に声をかけます。
・中から「どうぞ」という声を確認して
・襖から近いほうの手を、「引き手」に掛け10㎝位開く《1回目》
・引き手に掛けた手を、敷居から10㎝位の縁まで下げ、半分くらい開け《2回目》
・手を変えて一気に開きます《3回目》
・中の人に向かい一礼します
・両手を脇に就き、膝をすってはいります(膝行)
・部屋に入ったら、襖に近いほうの手を、敷居から10㎝位の縁を持ち半分くらい閉めます《1回目》
・手を変えて、10㎝位まで残して閉め《2回目》
・また、手を変えて、引き手に手をかけ全て閉めます。《3回目》
大体一般的には以上のようで良いと思いますが、「なぜそんなに面倒くさい事をするのか?」ということに触れておきます。
昔は、障子や襖の前に来たら、「こほん」と咳払いをして、中の人に「これから部屋に入りますから、受け入れの準備をして下さい」との合図を発信しました。さらに最初に10センチ位開けることにより、中の人に再度注意を促しました。それと共に、部屋に入る方も最初に開けた10㎝位の隙間から素早く中の様子を察し、それに備えたわけです。
さらに半分開けることにより、もう一呼吸置いたわけですね。
要は3回に分けて行うことにより、相手に対し思いやりの心を発信していたわけですね。
実に合理的で奥ゆかしいことだと思います。
普段はあまり意識されることはないと思いますが、和室には、日本の四季と上手に調和する創意工夫が張り目具されていると同時に、人に対しても、相手を敬い、思いやる決め事が多く存在しています。
さらに襖や障子には鍵が有りません。
鍵を必要としなかったからだと思います。
これも、平和な社会背景の中から生まれた、世界に誇る日本の文化ではないでしょうか?
ちなみに平安時代は400年以上続いています。世界に例を見ません。
平和な世の中からは、常に素晴らしい文化が生まれますね。
日本人なら教養の一環として理解して頂くとともに、機会が有る毎に、障子・襖の開け閉てを優雅に実行したいものです。心が洗われますよ・・・。