日本の大学の来し方行く末
大学生からよく受ける質問です。臨床心理士指定大学院には、専門職大学院があり、一般的に、修士論文を出さなくても良い大学院、すなわち研究をしなくても良い大学院と認知されがちです。しかし、私個人としては、塾生には、大学院進学後も、しっかり研究指導を受けて、修士論文を出して、できればその後の研究活動を継続してほしいと願っています。
最近は学生だけではなく、企業も「その研究の意味」を聞いてくることが少なくないと聞きますが、意味だけを言うなら、たくさんあります。ありすぎて一回のコラムでは言えませんので、時々少しずつ述べていきたいと思います。
以前、「学芸員はがん」と発言した大臣の報道がありましたが、そんなはずもありません。学芸員は貴重な存在です。学芸員のような研究をできる人は、文化財の価値を知ります。例えば、「茶碗」があったとします。後輩がそのような茶器を販売する店で勤めていますが、今でもかなり高価なものがあります。言い方は悪いですが、知らない人からみたら、茶碗など、100円で売っているものでも、100万円で売っているものでも、同じ茶碗です。それでも、間違いなく100万円の価値を理解する人はおり、それを買う人もいるのです。仏教学会には、意外にそういうものが多く、1990年代、アフガニスタンで発見されたとされる仏教文献の写本群をノルウェーの実業家が引き取り、それ以降、学術研究が進んでいます。それによって、書き換えられた歴史はたくさんあります。すなわち、歴史を書き換えるような文物は、価値が高く、研究者が研究をすることによって、さらに具体的にどう歴史が変わるかが示され、それによって、さらにその文物の価値が高まるという循環が生まれます。
研究者がいるからこそ、何もなかったところから、ものに価値が付くということがあり得るのです。ものに価値をつけるためには、相当の専門知識が必要であり、その周辺知識も必要です。また、他分野からの知見も必要で、それらがうまく混ざり合った時に、大いに価値を持ちます。
言い方を変えると、研究者がいることで、ただの土をこねて焼いたものが、歴史を語ることになりますし、誰も見向きもしなかったものが多くの人の目に触れるようになっていきます。研究をするということは、ものに対して誰も気づかなかった部分に、様々な角度から光を当てるということです。多くの人がその照らされた部分に気づき、皆が見たいと思うようになれば価値を持つようになり、それが例えば観光産業につながるのです。一切研究のないところに産業は生まれないのです。
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