修士論文の不合格

井上博文

井上博文

テーマ:大学院に行くメリット

下関市立大学の大学院で、下関市長の書いた修士論文が不合格になる
ということがありました。この市長が、修士論文を同大学院に提出した
ということは話題になっていましたが、同時に多くの違和感も指摘されていました。
この記事にもある通り、
これが大阪市長であったら、すなわち、現大阪市長が、大阪市大で、
学位を取ろうとした場合、多分、日本中が大騒ぎになるのではないかと
思います。政治権力が学問の府に介入しただの、言論の自由が云々と。
しかし、下関市長は堂々と、それをやりきったわけです。
かりに、これが、おひざ元の「市立」大学ではなく、どこか別の大学院であるならば、
それほど大きな問題はないと思われます。市長という政治家が大学院で
学んではいけないということはなく、自分の学問を追求したいと考えるのは
自由ですので、誰かからとやかく言われるものではありません。
(市政をきちんとしろという批判が出るのは別問題です)
しかし、市長がその自治体の市立大学の大学院に入り、学位を取るというのは
私の記憶にはありません。「私立」大学であれば、この限りではないと思いますが。

ともあれ、市長が入学したことは間違いないことですから、あとはどのような
学びを進めて、どのような指導を受けて、どのような論文を出すかが、
問われたのだと思います。そして結果が不合格だったと言えます。
学問と政治はもちろん別物ですので、政治家が修士論文を出したとしても、
その水準に満たないと、判断されれば不合格になるのは当然のことです。

この記事によれば、
500ページ以上にわたる論文であったことが、唯一この論文について
わかっているこのとのようですが、修士論文は、一般的には400字の原稿用紙にして
100枚程度の分量になります。あまり長い場合は、指導教授の許可が必要というの
も一般的だと思います。論文は基本的には、審査員全員が読みますので、あまり長いと
読む方も大変です。500ページにわたって、論理構成が適正であるか、証明式が適切かを
考えながら読まねばならないわけですから、そう簡単な作業ではありません。
500ページ以上という大部になった場合は、提出にあたって、指導教授がよほど価値があると
みなしたのか、あるいは市長が指導を聞かなかったか、いずれかかと判断されます。
どちらにしても不合格判定が出た場合、指導教授はつらい立場になると考えられます。

記事を引用すると、
    「中尾市長は2011年4月に大学院に入学し、社会人が特定の課題について研究し、
    その成果をまとめる「プロジェクト研究コース」に所属していた。
    「市内における地域内分権への挑戦」をテーマにして、みずからの市議会での発言や施策、
    目指している地域内分権について示すとともに、その生い立ちや落ちこぼれ人生から
    這い上がってきたことを誇示し、最終的には「政治家とは何か」「政治家の出処進退」に
    話がおよび、「二度とない人生」について思いのたけを記した論文とされた。

これが事実だとすると、修士論文の要件を満たしていないと判断されたのも頷けます。
修士論文に自分の人生など書く必要はありません。4年かかったようですから、
大変であったことはわかりますが、真摯に学問と向き合ったわけではなさそうです。
また、市職員にもメールで、自分がいかに頑張ったかを誇示していとの記述も
ありましたが、これも事実だとすれば、何か学問について、あるいは学位を
取るということについて、考え違いしておられるのかもしれません。

大学院の入試もそうですが、巷で言われたり、思われたりするよりもずっと
フェアなものです。論文審査もまた然りです。
市長と大学の間に特に溝があって、不合格になったわけではなく、
大学は純粋に不合格と判断したのだと思われます。
是非、市長には、別の大学院で、真摯に学問と向き合ってもらい
再チャレンジしていただきたいなと願っています。


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井上博文
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