机上の空論

井上博文

井上博文

今、必修の授業では小論文や論文についての
トピックを扱っています。教材は『知の技法』
を使っています。



これは少し古いですが、
『新・知の技法』『知の論理』『知のモラル』
と併せて、「知の三部作」などと言われることも
あります。東大の教養部の基礎テキストだったものです。
今でも十分に通用する情報が詰まっており、
論文を書こうとする人は、一度は見ておきたい本です。

論文を書くときに、私が言う注意点はたくさんあるので
だいたい、3回くらいの授業で要点を述べるようにしていますが、
今、特に強調しているのは、机上の空論を言わないことです。
典型的な例を挙げれば、
「安心した育児をするにはまず社会を変える」
このようなフレーズは、よく使われると思いますが、
こういったことは、絶対に言わないように伝えています。
答えは簡単で、社会なんて変えられる人はいないからです。
そんな人が仮に存在するならば、戦争も起こらないでしょう。
戦争など、一部を除けば、誰だってしたくはありません。
隣の横暴な国々でも、大半はそう思っているのではないでしょうか。
だからもし社会を変えることができる人がいるとすれば、
さっさと戦争の起こらない社会に変えているはずです。
それでも、常に緊張状態を作り、「全部お前のせい」と
アホではないかと思われる主張を繰り返しているうちに、
百年後くらいには、情勢が変わるかもしれないという戦略も
あるわけです。これは現実に起こりえていることです。
(どちらがとは言っていません。どっちもどっちですから)
こんな連中に社会を変えると言ってみたところで、
「全部お前が悪いのだから、お前が変われ」
と言われるだけでしょう。
我々が踏まえねばならないのは、現実であって、ありもしないことに
こだわってしまうと、結局ダメージが自分にはねかえってくるのです。

これは超能力論者の理屈とよく似ているのです。彼らの常套句
「科学ではわからないことがある」
「ないということが証明できないのだからある」
こういったことを屁理屈というのでしょうが、
「社会を変える」というのはまさに屁理屈です。
社会は変わるものです。この場合のチェンジは自動詞です。
人が変えられるものは自分だけです。自分が少しずつ変わって、
そして皆が変われば社会も少しずつ変わるでしょう。
携帯電話を例にとればわかりやすいでしょう。誰かが社会を
変えたから携帯電話を皆が持つようになったのではありません。
皆が少しずつ携帯をもつようになったから、コミュニケーションの
あり方が変わり、良いものも生まれ、副産物として、悪いことも
生まれたのです。こちらが現実です。仮に社会を変えられる人間が
いて、その人が、戦略的に私たちに携帯をもたせ、そして社会を
変えたという主張があるとすれば、それを陰謀論というのでしょう。
だから超能力論者、宇宙人論者、陰謀論者などはだいたい似たような
論法で論理構築をしていると思います。

例えば教育論において、体罰を絶対許さない社会に変えるというのも同じです。
こういったことを言う人は、陰謀論が好きなのかもしれません。
変えないといけないのは、社会ではなく、採用される教員と、
採用する人です。人が、採用基準を変えて、採用する人を
変えれば良いだけのことです。社会を変えようとする必要など
ありません。
今、「体罰を許さない」と言っても、誰が許さないのでしょうか?
許さないとして、具体的にどうするのでしょうか?
許さない人は、体罰をした人に罰を与える権利を持っているのでしょうか?
それとも具体策はなく、「そういう雰囲気を作ろう」と言っているのでしょうか?
だとすれば、そう言えば良いだけのことです。でもそれでは体罰は
なくならないでしょう。なぜなら、自分が罰を与えられるとすれば
与えられる人は自分を守るでしょう。そうすると体罰の基準から
微妙に外れた行動をとったり、隠蔽が出るでしょう。
漠然と「体罰許さない」と言っても、場合によっては、余計に
問題が出るということは、ちょっと想像してみればわかることです。
机上の空論だけで自己満足することは、少なくとも論文を書くときには
そぐわないのです。



大学院・大学編入受験専門塾 京都コムニタス
京都コムニタス公式ブログ
京都コムニタス看護学校進学部
リクルート大学院&大学ネット
龍谷ミュージアム

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

井上博文
専門家

井上博文(塾講師)

株式会社コムニタス

塾長以下、スタッフが、全ての生徒の状態を正確に把握している。生徒をよく観察し、成長度合、どのような不安や悩みを抱えているか、をしっかりと観察し、スタッフ間で情報共有をしている。

井上博文プロは京都新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

大学院・大学編入受験のプロ

井上博文プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼