私の仕事史「マイ チャレジング デイズ」―バブルを横目に、かくもエキサイティングな日々―Ⅰ
大学教授みたいな風格のY先生
かれこれ、50年以上昔の話になります。私が通っていた中高一貫の私立学校には、物理や地学を教えていたY先生という名物教諭がいました。小柄でやせぎすの人でしたが、いつも白衣を着ていて、髪はややロングの真っ白なオールバック、およそ中学生や高校生に教えているようには見えない、大学教授みたいな風格の人でした。
当時、私の学校にはドーム式の天文台があり(今でもあるのだろうか?)一般の高校には似つかわしくないような、かなり大型の天体望遠鏡が備え付けてありました。はっきりしたことは覚えていませんが、当時Y先生はその望遠鏡で、新しい彗星か何かを発見したことで、地元ではちょっと有名だったはずです。
割り込み不良に黙る大人たち
まあ、そんな立派な先生だったのですが、さてこれから書くことは、あの頃、そのY先生について、驚くべき事件が起こったというお話です。
私の通っていた学校は、県庁所在地のある地方都市の都心から、チンチン電車の市電で30分ほどかかる郊外にありました。市電の駅(電車の停留所なので、「電停」と呼んでいました)はそこが終点で、着いた電車はその電停からまた都心の方へと引き返していたのです。
その市電を使って通ってくる中高生は、私の学校以外にもう2校ありました。そのほか、通勤利用の大人の人たちを含めて、田舎の駅にしては、朝夕結構ごった返していたのです。
さて、ある日のことです。電車に乗るために、中学生だった私を含め大勢がその電停で、列を作って並んでいました。
すると、私が通っていた学校の近くにあったやはり別の私立高校の生徒が、その列の前方に素知らぬ顔で割り込んだのです。その不良っぽい学生のけしからん行状にも、列のみんなは黙っていました。
その学生は、そんな悪さをしたにもかかわらずヘラヘラとした態度で平気な顔をしています。大人を含めて誰も注意しないので、このままこのことは過ぎてしまうのか、と思われたそのときでした。
事件は突然起こった
たまたまその列に並んでいたY先生が、つかつかとその不良学生の前に歩み寄るや、胸倉をぐいと掴んで、その顔にいきなり平手でバチンバチンと往復ビンタをくらわせたのです。先生は胸倉を掴んだまま、無言でその学生を睨みつけていました。
その不良学生は、ぶったまげたに違いありませんが、Y先生のあまりの眼光にすっかりひるんでしまったようでした。先生が掴んでいた手を緩めるとすぐに、コソコソと人混みのどこかへ消えていってしまいました。
これが、私が見たY先生の武勇伝です。
まあ、相手が不良学生とはいえ、今だったら結構大きな問題になりそうな話であります。Y先生は、普段学校で体罰を加えるような教師では全くありませんでしたが、下手をすれば、学校間の問題として取り上げられかねない事件といえるでしょう。しかし、当時はそれで何のことはなく終わったのです。
気骨の人だよなあ
それにしてもY先生、気骨あるお方だと思いました。小柄だった先生は、不良学生野郎の反撃を考えなかったのでしょうか。まあそうなったとしても、相手になってやろうじゃないか、くらいの強い気持ちはあったのだろうと察します。(そうなったらこっちも先生の味方をしたでしょうが。そんな暇もない電光石火の出来事でした。)
私が中学生、もう50年以上昔のお話です。あの頃すでにY先生は、教師陣の中でもそこそこのお年だったことを考えれば、おそらく、大正の初めか明治生まれの人だったのだろうと思います。
今では、ちょっとした体罰でも大きな問題になってしまう世の中ですから、Y先生のような生き方はなかなか難しいのかも知れません。でも、この話、ちょっとカッコイイな、と思うのは私だけでしょうか。
こんなデカい駅ではなかったんですけどね。(本文とは全く関係のない駅です。)
つづく