青春の彷徨、新宿ゴールデン街―無頼に生きる、がテーマだったあの頃―Ⅰ
「粘り強さ」を身につけなくては
北海道の酪農家で働いてみて、農民の現場対応力の高さと最後までやり抜く粘り強さに舌を巻いた私。翻ってみてどうだろうか?現在の仕事現場においても、デジタル系のトラブルや設定において、問題解決の力の低さを露呈している私であります。仕事中、なにかマイナスの現象が起きたとき、そういった事態の解決に向けての「粘り強さ」の重要性を学習したのではなかったのか。今後はその辺の対応能力も強化していかなくては、というのが一つの大きなテーマであるのです。
いきなり叩き起こされて
さて、北海道の一件から話が随分それてしまいました。あの約50日間にはいろんなことがギュッと詰まっていたと思いますが、中でも衝撃的だったのは、牛の出産に立ち会ったときの経験でした。
働き始めて、それまで怠惰な学生生活を送っていた私にとって、毎朝4時台に起こされることが苦痛でしょうがありませんでした。ところが、その日はさらに早く起こされたのです。昼間の労働の疲れにぐったりなって、ようやく寝付いた、と思った頃にいきなり叩き起こされたのです。
どうやら厄介なお産になるらしい
『な、何ごとか!』と思ったら、牧場主に「牛が産気づいたから牛舎へ来い。」といわれました。わたしは、眠い目をこすりながら作業着に着替え、牛舎へと向かいました。すると、その産気づいた牝牛(酪農家には牝牛しかいないのですが・・)は、藁の上に横たわって苦しそうに息をしていたのです。
そこだけ、煌々と灯りがついており、すでに獣医さんや仲間の酪農家も数人到着していました。こういう時は、こんな時間にもかかわらず、同業者同士で連携するんだ、と思いました。みんなで、どんな風にお産をさせるか話し合っています。どうやら、ちょっと厄介なお産になるらしい、ということが素人の私にも感じられました。
子牛の足が・・・
母牛の息遣いがさらに激しくなったころ、獣医さんがなんと牛の産道に手を突っ込んだのです。そうすると、まずなにかドロリとした半透明の塊が出てきて、そのあと、小さな牛の足とみられる物体が引き出されました。
そこまででも相当ショッキングな光景なのに、今度はその産道からわずかに覗いている子牛の足と思われる部分に、予め用意してあった鎖を巻き付けたのです。そう、ロープとかではなく、あの鉄でできた鎖でした。
気の弱い人なら卒倒しそうな場面
そして、青ざめた顔(おそらく・・)であっけにとられている私に、牧場主が「おい、一緒に引っ張れ。」と声をかけます。そこで私も、その巻きつけられた鎖を渾身の力を込めて引っ張りました。
すると、まだ、羊水にまみれてヌルヌル状態の子牛がスルリと出てきたのです。また、ほぼ同時に胎盤と思しき物体もドロッと出てきました。もちろんそれだけではなく、赤い血もあちこちに付着しています。
こうやって、気の弱い人なら卒倒しそうな場面に、私は付き合ったのです。まあ、これは、普通の人なら一生に一回あるかないかの、かなり貴重な体験だったといえるのではないでしょうか。
つづく