参加のハードルが低い格好の自己アピールのステージ、地方メディア―むしろ肉声、肉筆のリアリティーに心が動く時代―Ⅱ(おしまい)
「年表」ではありません
これまでもたびたび申し上げてきたことですが、そもそも私がお勧めしている社長の「情報発信(アウトプット)」の内容は、単に会社の「社史」とか「社歴」といったものではありません。「社史」や「社歴」を最もわかりやすく表示したものは「年表」といったことになるのでしょうが、それは私が申し上げる「情報発信(アウトプット)」は、それらとは全く異なる意図による成果物です。
もちろん会社の「今」は、そういった歴史の土台の上に成り立っているので、全く無視していいというのではありません。ただ、「年表」というのはいわばデータです。見やすくわかりやすく、これまでの事実が羅列されているものです。そこからくみ取れるのは、時代背景とそのとき存在した会社の実装です。
私がお勧めする「情報発信(アウトプット)」は、いわばその事実羅列の「データ」に魂を吹き込むような作業といえましょう。会社の歴史の節目節目に体験し学習し、積み上げられた無形の企業資産を、ストーリーとして成形し直して、世の中に送り出してみましょう、という試みなのです。
そうすると、私が唱える「情報発信(アウトプット)」について「そうか、我が社が経てきた過去の様々な事実について整理しまとめてみればいいのですね。」と、やや早とちりする方がいらっしゃいます。もちろん、それはそれで必要なのですが、それだけでは不十分なのです。
未来に繫がっているか?
社長の「情報発信(アウトプット)」には何が必要なのか? 一番肝心なことは何なのか?・・・そのリトマス試験紙、というか判定基準は「未来に繫がっているか?」ということなのです。私がお勧めする「情報発信(アウトプット)」は、単なる過去の報告作業ではありません。
例えば私は、自分が経営している税理士法人で定期的に「会計ニュース」といったものを配信しています。これは猫の目のように変わる会計のルールや制度、その処理方法などをタイムリーに顧客にお知らせしようというものです。
内容としては、あれこれ考えて書くというよりは、いち早く業界で配信される最新情報の中で重要なものを取捨選択してほぼそのままお知らせするのです。多少、わかりやすくするためにリライトなどもしますが、どちらかといえばスピード、つまりタイムリーであることの方を優先します。
この作業は、会社の若手社員に任せています。私がやるよりは、若手が取り組んだ方が彼らにとっていい勉強にもなるからです。情報の賞味期限も短いものが多く、次の制度改正といったことがあれば、単なる旧いデータにすぎなくなります。これなどは緊急性があり大事な情報ではあるけれども、あえてトップがやるタイプの「情報発信(アウトプット)」ではない、と言えるでしょう。
社長にしかできない仕事
社長が心掛けるべき「情報発信(アウトプット)」は、過去から現在に承継され、やがて未来へと繫がるストーリーの発見とその発信です。こんな言い方をすると難しく捉えられそうですが、そんなことはありません。
例えば会社の歴史を振り返ったとき過去のある時期決定して、今に至るも伝え続けられている「経営理念」とか「社是」のようなものがあったとして、それについて書こうとするとき、その理念が何故現在も生き続けているのか、それは未来へ向かって継承すべきものなのか、といった再考や検証は、過去から現在、現在から未来へといったロングレンジの重要な確認作業です。しかもこれは社長にしかできない仕事なのです。
また、例えば新商品開発なり新規事業なりに取り組んでいるとしましょう。それらの試みについて考えるとき、それを何故今開発しようとしたのか、これまでの会社の歴史の中どういうポジションになるのか、その将来性はどうなのか、といった切り口は不可欠でしょう。社長はこういった一連流れを俯瞰的に見ることのできるポジションにいます。
これが、現場の開発責任者の立場ではそうはいかないでしょう。彼らの役割は、今目の前に突き付けられている課題をこなすことだからです。つまり、会社が行なう様々な新しい取り組みに対して、経営者は常に時系列的かつ大局的に見ることのできる位置にいるのです。「情報発信(アウトプット)」を行なう際にもこのポジションを逸脱しないよう心掛けるべきです。
「ストーリー」で考えてみよう
こうやって書いてきますと、社長のやるべき「情報発信(アウトプット)」の輪郭がかなりはっきりと見えてくるのではないでしょうか。それは単なる報告やデータの提示ではありません。広告宣伝とも違います。ましてや自慢話などとは完全に一線を画すものです。
つまり、会社の抱える大きな課題を、「現在」の短期的な視点でとらえるだけでなく、過去からの一連の流れの中でとらえ直し、その解決策がさらに未来にまでつながるものなのかどうかを見切らなくてはなりません。その流れをストーリーとして引き直してみるととらえやすくなるのです。
「情報発信(アウトプット)」もそのストーリーをベースにすれば、やりやすいものになります。とはいえ、いつもいつも重たいストーリーというのもしんどいでしょうから、ときには、ちょっとしたエピソードのストーリー仕立てといった小さなお話であっても全くかまいません。ただ、それは常に何かしらの形で「未来へと繫がったもの」であるべきで、またそうでなければ、「社長の情報発信」は魅力がないのです。
わが社の軌跡は・・・