「I.Wターキー!」―青春のほろ苦きバルボンの思ひ出―
今年は久しぶりに社員旅行に行こうということで、社員の中から男女二人の幹事役を選んでいろいろと段取りや企画を立ててもらっている。
完璧な旅行スケジュール
ところで、社員旅行といえば、もうかれこれ20年くらい昔、東京に行った旅行のことを思い出す。当時、総務だった女性が極めて優秀な人で、旅行代理店の添乗員ができるくらいの完璧な旅行スケジュールを立ててくれた。
当時はまだ父が所長をやっているときで、私は副所長、私より年配のベテラン社員も何人かいた。つまり、現在の事務所より男性比率と平均年齢は高かったのである。
おフランス料理フルコース
さて、その中の、一つのエピソードである。
旅行中、比較的自由時間を多くとってはいたが、何回かはみんな集まっての食事の時間も設けられていた。確か、2日目の夕食だったと思う。ディズニーランドに隣接しているお洒落なホテルで、フランス料理のフルコースを食べることになった。
レストランでは我々だけの個室が用意されており、長テーブルに向かい合わせてみんなが席についた。父はもちろん一番上座と思しき席に座っている。
いよいよ、フランス料理のコースメニューが運ばれてきた。年配の男性社員を中心になんだかひどく緊張して戸惑っているのが伝わってくる。
あのう、お箸は?・・・
何品目かの料理が運ばれてきたとき、誰かが口を開いた。「あのう、お箸はないのでしょうか?」年配の彼はナイフとフォークがよほど使い辛かったらしく、四苦八苦していたようだったのだ。
すると、ほかの年配社員も「俺も。」「俺も。」と言い出した。しかし、残念ながら、その日の料理にお箸というのはあまりに似つかわしくなく、その希望は却下された。
焼酎はないのかっ!?
と、そんなタイミングとほとんど同時くらいに、父が「焼酎はないのか?!」と言い始めたのである。確かに父は毎晩、焼酎と刺身がないと始まらない人だった。家で食事をするときは一年365日、刺身と焼酎でまず晩酌をし、それを済ましてからご飯を食べるのである。
家族で旅行をするときには、ホテルに泊まろうが旅館に泊まろうが、その辺の配慮は母がするのであるが、今回母は同行していなかった。私も社員旅行のときくらい、違うパターンでも我慢するだろうと思っていたのだが、どうにも我慢できなくなったらしい。
料理はコースなので刺身の方は無理というのはすぐわかったが、焼酎は一応ホテルの方に聞いてみた。しかし、当時はまだ全国的な焼酎ブームは起こっておらず、こっちも無理であることが判明した。
私は何だって食うぜ!
なんとも戸惑い気味の年配男性社員たちと、ややぶぜんとした面持ちの所長である父。せっかく、有能な総務である女性社員の彼女がセットしてくれたフランス料理のフルコースも、なんだか微妙な雰囲気のディナータイムとなったのである。
あれから20年以上経った。今度はどんな企画になるだろう。自分の型にこだわっていた父も数年前に亡くなった。古い男性社員たちももういない。
女性社員も増えたので、イタリアンだろうがおフランスだろうが、あんな雰囲気になることはまずありえない。所長である私も何だって食える。今回の幹事二人が気楽に楽しい企画を立ててくれればそれでいいと思っている。
ディナーにはデザートも