２つの結婚披露宴―悪いことしちゃったなあ・・・遠い昔のほろ苦き思ひで―Ⅰ
ジョージ・クルーニー主演の「ファミリー・ツリー」という映画があります。
簡単にあらすじをいうと、運転していたスピードボートの単独事故で植物人間状態になってしまった妻の、隠された秘密が次第に明らかになる、というものです。
意識が戻らない中、とんでも事実が発覚していき、夫であるジョージ・クルーニーや娘たちがあれこれ悩むというストーリーです。
結局、妻は亡くなるのですが、それまでの短い間の家族の苦悶や葛藤が、ハワイというのどかなトロピカル気候のもとで淡々と描かれます。
妻の隠された秘密というのは、どうやら浮気をしていたらしいということです。
その浮気相手や動機などが明らかになっていく過程で、ジョージ・クルーニーという二枚目俳優が小市民的に悩む姿が、なんともいえないほろ苦い笑いや共感を誘うのであります。
さて、この映画では、ちょっとしたきっかけで、妻の浮気相手の素性を突き止めることになります。
ここからちょっとした波乱の展開になるのです。
その相手の別荘を探し当てたジョージ・クルーニーが、何食わぬ顔で訪問するシーンがあります。
訪問した目的を伝えると、相手の男性が泡を食うことになるのはいうまでもありません。
が、一緒にいたその男の美しい妻や子供にクルーニーは、武士の情けというか訪問の目的は明かさないで、男の浮気がバレないようにしていてやるのです。
そして、この後のシーンが、この映画で私には最も印象に残ったのです。
男とクルーニーの二人でちょっとした緊張のやり取りがあったあと、この日はそれ以上騒ぐことはせず、ひとまず帰ることにします。
で、その男の別荘を「それでは失礼。」と去るときに、向こうの習慣として男の妻とハグを交わし、ほほに軽くキスをしようとします。
と、そのときです。
ジョージ・クルーニーのほほにキスしようとする男の妻に対し、すっと顔を正面に向けて、ほほではなく唇に軽くチュッとキスをするのです。
相手の妻は驚き
『えっ！？なに？なんなの？！いったいどういうこと？？』
といった表情をするのですが、クルーニーはニコッと笑っただけで帰っていくのです。
心ならずも抱えてしまったやり場のない重たい現実に対するささやかな復讐。
というか、冴えない旦那を演じながらも、2枚目俳優クルーニーの、この映画における2枚目たる唯一の場面であります。
このシーン、ちょっとした濃厚なラブシーンよりもある意味エロスを感じます。
軽くドキッとさせられるのです。
この映画の主テーマにおいては、全く重要なシーンでも何でもありませんが、人気俳優ジョージ・クルーニーが演じた小市民的な役回りの中で、私の印象に残った一場面なのです。
