常識破りの功罪Ⅳ(おしまい)
[あえてハングリーマーケット戦略はとらず]
さて、このように様々な紆余曲折を経て、現在のポジションを確保してきた『獺祭』ですが、今後の見通しについてリーダーである桜井氏は、どのように考えているのでしょうか。
― 設備投資を行った結果、2015年には生産能力は年間9000キロリットルと約3倍になった。
獺祭は手に入らない酒だから価値がある、という見方もある。
量が増えると、価値が下がる恐れはないのだろうか。
「日本酒業界は希少性にとらわれすぎだと思います。
「幻の酒」という言葉がありますよね。
しかし、3回に1度ぐらいは手に入らないと、本当の幻になってしまう。
供給が続かなければ、ブランドは維持できません。
「いい酒」は希少だから価値があるのではなく、おいしいから価値があるのだと思います。」―
希少性の高い商材については、意図的に出荷を制限して、常に市場を飢餓状態に置くという「ハングリーマーケット戦略」があります。
身近なところでは焼酎ブームの頃、そのブランド名を高めた「森伊蔵」などはその典型でしょう。
最もこれは、メーカー側が意図的に出荷していないというよりは、製造能力がそこまでしかない、という事情によるものらしいのですが・・・
これに対して、桜井氏の場合は生産能力を上げて、あえて不足している状況は作らない、という意思を明確にしておられます。
― 「いい酒」は希少だから価値があるのではなく、おいしいから価値がある―という氏の言葉は、まさに物事の本質を言い得た表現であろうと思います。
小手先の手法に拘らず、ビジネスの王道を行く氏の考え方をよく表しています。
みんなでワイワイ。にぎやかな酒席。
つづく