青春の彷徨、新宿ゴールデン街―無頼に生きる、がテーマだったあの頃―Ⅰ
こうして、それまで誰からも聞いたことのなかった祖母の武勇伝を、その最晩年になって本人から聞くことで、私と家内は知るところとなったのです。
すごく重みのある話なのですが、どことなくユーモアもあって、そんなエピソードを知った私たち夫婦は何だかほのぼのとした気分でもありました。
しかし一方で、祖母が訥々と語る昔話に、私は「ヘーッ」と感心しながらも少しだけ背筋が寒くなったことも事実です。
「こういう人を敵に回したくないな。」
心からそう思ったのです。
祖母と同時代同地域の同業者に生まれなくて良かったと思います。
腹が据わっているのです。
同業者だったら、相当手強いライバルになったことは間違いないでしょう。
当時、周りの男性経営者達は、黙っていてもモノが売れる売り手市場に甘んじていたに違いありません。
マーケティングなんて言葉も考え方もなかった時代のことです。
売り手市場にあぐらをかいていた男性経営者たちは、祖母のような踏み込んだサービスなど思いつきもしなかったのだろうと思います。
彼らにはなかったしなやかさとしたたかさ!
誰に迷惑をかけるでもなく、何の卑怯な手を使うでもなく、正面から戦って「勝ち」をものにしたのです。
「決して敵に回したくない人」
とはこういう人のことをいうのでしょう。
おしまい
祖母の魂に似て燃えるような鹿児島の夕焼け