突破できるのか、業界の常識というハードル―業界の常識は世間の非常識??―Ⅰ
こういうとき祖母は絶対に私たちには払わせませんでした。
自分が同行したときは自分が払う、と決めていたのです。
無理に止めると怒りだすので、素直にご馳走になりました。
食事や買い物に際して、お勘定を払う係りはいつも私の家内でした。
祖母が渡したお金で、家内がお勘定を済ませている間に私は車椅子を押して外に出ようとしました。
すると、祖母が
「ちょっと待て、ここのご主人はどの人だ。」
と言うではありませんか。
私は「え!」と一瞬とまどいました。
「呼んでくるの?」と聞くと、「うむ、そうしてくれ。」と言います。
店の奥の方でそれらしき初老の男性が、忙しい店内を仕切っているのが見えました。
私はそちらに車椅子を向けて歩きだしました。
すると、そばにいた女性店員が心配顔で
「何かご用でしょうか?」
と尋ねてきました。
私が
「すみませんが店の責任者の方を呼んでいただけませんか。」
と言うと、女性はあきらかに表情がこわばりました。
「少しお待ちください。」
と、その奥にいた男性を呼びに行きました。
女性が何か耳打ちすると、その男性の表情もたちまち曇ったのが見えました。
緊張した面持ちの男性がチラっとこちらに目をやります。
車椅子の老人に呼びつけられて困惑の表情がありありでした。
男性がこっちに向かって少し硬い足取りでやってきます。
私は祖母の耳元で
「あの人がここの責任者らしいよ。」
と知らせました。
近くまで来た男性が
「あのう、私が店長ですが、何か?」
とかなり緊張した雰囲気で尋ねてきました。
つづく