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減反政策を今、廃止する国の思惑

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聖域として守られてきた減反政策が見直しへ。なぜ?

減反政策を続けたきたワケは?今、廃止する国の思惑

コメの生産量を割当て、米価を高く維持するための生産調整制度(減反政策)の見直しが大詰めを迎えようとしています。今般、農林水産省が出した農政改革案によれば、(1)国がコメの生産目標を定めて農家に割り当てる減反政策は、5年後を目処に廃止する(2)目標に従って生産する農業者に対し、直接支払う所得補償交付金を、14年度から3分の1の5千円に減額し18年度には廃止する(3)当年度の販売価格が標準的な販売価格を下回った場合に、その差額を農業者に対し直接支払う米価変動補填交付金を13年度限りで廃止する、との内容となっています。

減反政策は、食糧安保や零細農家の保護を理由に、71年より営々と続けられてきました。消費者には国際価格に比べ突出して高いコメを買わせ、貿易相手国からは「関税障壁の象徴」と見なされて、内外から早期に是正すべしと批判されてきた政策です。政治家、農水省、JAは一体となり、聖域と称し、頑として主張を譲りませんでした。にもかからず、今回は少し対応が異なる様です。なぜでしょうか?

減反廃止による大多数の農家への影響は実は限定的

農水省改革案の内容をよく見てみましょう。民主党政権下で、農業関連の集票策として創設された農業者戸別所得補償制度(経営所得安定対策と改称)ですが、コメに対する助成の他に、畑作物の所得補償交付金や水田活用の所得補償交付金があります。実はこれらがコメに対する交付金よりも大きいのですが、この二つに関する変更は今回の農水省案に含まれていません。

農水省が6月に公表した、12年度農業者戸別所得補償制度の支払い実績によれば、総額は5,603億円でした。このうちコメの所得補償交付金は1,552億円で、支払い対象者は981,000人。米価変動補填交付金の実績はありません。2ha以上の作付面積を持つ1割の農業者が全体の6割を受け取っているため、残りの9割の零細農業者の平均給付額は実に70,000円にしか過ぎないのです。減反廃止による大多数の農家への影響は、限定的と考えられます。

では、2ha以上の農業者への影響はどうでしょう?農水省シミュレーションによれば、減反政策廃止で、コメ価格は60kg当り15,000円から1万円弱まで下落すると予想されています。作付面積2ha以上の農業者の生産コスト(経営費+家族労働費)は13,100円、5ha以上の農業者でも11,200円ですので、これでは利潤が出ません。政府・農水省の狙いは、減反政策を廃止して農地の集約化と事業規模の拡大を進め、国際競争力を付けることにありますが、このためには一定規模以上の農業者に対する新たな所得補償制度の創設が不可欠となります。

減反政策廃止でTPP交渉を有利に進めたいとの戦略も

そして、今回の政策転換は、目下のTPP関税分野での交渉との兼ね合いもある様です。現在の外国産コメに対する関税率は788%ですが、これは実際の輸入価格に対する税率ではありません。コメの国際価格を仮に約44円/kgとすれば、これに341円の定額関税を賦課すると、結果788%になるとの理論値にしか過ぎないのです。人口増加による需要拡大でコメの国際価格が大幅に上昇しているため、実際の輸入価格に換算すると関税率は280%となります。コメに対する関税撤廃あるいは税率引下げ要求については、ある程度の引下げが避けられないにせよ、極力影響を軽微に抑えるべく、事前に減反政策廃止を打ち出すことで今後の交渉を有利に進めたいとの戦略も見え隠れしています。

老後に備えた資産形成や不動産活用を顧客目線で考える税理士

松浦章彦さん(<Office MⅡ>松浦章彦税理士事務所)

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