「鬼滅の刃」炭治郎のセリフ「長男だからがまんできた」は魔法?それとも呪文?子どもの自立を後押しするキーワードとは
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コミック・テレビアニメ・映画と、いずれも大ヒットとなり一大旋風を巻き起こした「鬼滅の刃」。その主人公・竈門炭治郎(かまどたんじろう)が、激しい痛手を負ったまま戦う場面で、自分を鼓舞するための心の声、「俺は長男だからがまんできたけど次男だったらがまんできなかった」が「胸に刺さる」と話題に。芸人の椿鬼奴さんが番組で「自分も長女なので、つらいときこの言葉を胸にがんばった」と語ると、多くの長男・長女から「よくわかる」という賛同の声があがる一方、「次男でもがまんできる」という反発も招きました。
子育て中の多くの親がよく口にしがちな「お兄ちゃん・お姉ちゃんだから」という言葉は、人によっては行動を制限される呪文のように受け止められることも。これらは子ども自身を奮い立たせる〝魔法〟のようなものでしょうか、それとも宿命を印象付けるような〝呪い〟の言葉となるのでしょうか。心理カウンセラーの西真理子さんに聞きました。
「長男だから」も「全集中」も、暗示にかける〝呪文〟ではなく魔法の言葉に。本当のがまん強さは、独立した自分の存在を認めてもらう「信頼」から生まれる
Q:少子化が進む近年、子どもを持つ家庭のおよそ半数が2人の子どもを持ち、一人っ子家庭も増えている傾向です※。こうした中でも「長男・長女気質」や「末っ子気質」といったことが話題になりますが、どうして気質に違いがあるのでしょうか?
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今回のセリフが登場した「鬼滅の刃」は、大正時代という設定です。たくさんの子どもの中での長男と、少子化が進む現在の兄弟関係とでは、とりまく環境同様、異なる部分もたくさんあります。時代と共に、生まれた順番による気質の違いは少なくはなりましたが、世の中でよく言われるような「長男・長女気質」や「末っ子気質」といったものが全くないわけではありません。
一人目の子どもは数年後に下の子どもが生まれたときには、その年数分だけ成長しているので、多くのことができるようになっています。弟妹を「自分より小さく頼りない者」として、面倒を見るという状況になりやすいのは自然なことです。
弟妹と関わる行為を通して、「失敗をしないように」「人に迷惑をかけないように」などと気を配る習慣から、「面倒見が良い、責任感が強い」といった「長男・長女気質」というようなものが育つと考えられています。
同じように、面倒をみてもらうばかりの末っ子の「甘ったれ」「やきもち焼き」という気質なども、自然に生まれる傾向の一つとして知られています。
※第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)
http://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou15/doukou15_gaiyo.asp
Q:長男・長女気質でよく言われることに、「がまん強い、努力家」というものがありますが、なぜがんばってしまうのでしょうか?
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アニメの中の炭治郎は忍耐強く、親からも弟妹たちからも頼りにされていて、無理とも思えることでも「俺は長男だからがまんできた」というセリフの通りに、がんばることができています。
冒頭で、家族のため、炭を売りに町に向かう炭治郎を、母親が「今日は行かなくてもいいんだよ」「ありがとう」と労うシーンがあります。弟妹たちは「兄ちゃんと町へ行きたい」「一緒にまき割りをしたかったのに」と、兄と共に行動したがります。
親からは自立した一人の人間として信頼し愛されており、弟妹からも敬愛されていることがよくわかる場面です。
親に「長男だからがんばりなさい」と指示されたわけでもないのに、自ら進んで行動することができる長男気質のプラス面が生まれたのは、家族の中で育まれた「自分を信じる気持ち」が背景にあると考えられます。
一方、「がんばってしまう長男・長女」には、もう一つのタイプがあります。親の都合で「お兄ちゃん・お姉ちゃんだから」と、がまんや負担を強要し、子どもを管理・コントロールするような家庭では、子どもは期待通りの行動をしなければ親から愛情をもらえないかのように感じてしまうことがあります。
一見、がまん強くも見えるその行動は、対価として親や他人からの評価を期待してのものであることが多く、がんばって努力しても結果が伴わなかったり、思うような評価が得られなかったりすると、自分の存在価値そのものに自信が持てなくなってしまいます。
大人になって壁にぶち当たったときに、なかなか立ち上がれなくなる人のなかには、そんなタイプの長男・長女が多いようです。
長男長女に限らず、本当のがまん強さは、自分に自信がなければ身につくものではありません。炭治郎のように、家族から信頼され認められて、そんな自分を信じることができるからこそ、生まれるものです。
Q:親が子どもを励ましたりがまんさせたりするとき、つい「お兄ちゃん・お姉ちゃんだから」という言葉を口にしてしまいがちです。兄弟姉妹のいる子どもへのNGワードとは?
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前述のように、子どもを自立した個人として尊重することなしに、ただ「お兄ちゃんだから・お姉ちゃんだから」と指示しコントロールすることは、親や他人からの承認を得るために無理をする「がんばってしまう長男・長女気質」が育つリスクがあります。だからと言って、日常生活で「これは言ってはいけない言葉かもしれない」と思案しながら子どもに接するといったことはできません。
親が多少不適切な言葉がけをしたとしても、普通に愛情を持って子育てをしているなら、それほど問題ではありません。それでも子どもへの声掛けの際に、できれば心に留めておきたいポイントがいくつかあります。
【心に留めておきたい言葉がけのNGポイント】
① 常に親の都合をベースにしている
親が忙しいから下の子どもの面倒を見させる。
親が非難されるから静かにさせる。
親のみえのために良い成績をとらせたがる。
② 他の兄弟姉妹や他人と比べる
「〇〇はできるのに、どうしてできないのか」などと、むやみに競争心をあおる。
③ 親が常に優位に立ち、指示・コントロールする
親の言うことは無条件に聞くべきだ。
親の言うことに間違いはない。
成長しても、子どもがいつまでも自立できていないかのような意識を植え付ける。
子どもの寝顔を見て、「今日はついキツイ言い方をしてしまった…」と、反省する人も多いかもしれませんが、子どもに乱暴な言葉を投げかけたことが全くないという親の方が珍しいくらいです。
言動の良し悪しが問題なのではありません。その根底にどのような「親の姿勢」があるのか、それこそが最も大切なポイントなのです。
そして、たとえ自分の子どもでも「一人の独立した人間である」と心に刻むことを、忘れてはなりません。
Q:「鬼滅の刃」人気のもと、「水の呼吸!」や「全集中!」などと励ますことで、歯科治療や注射など、いつもなら泣いて嫌がる場面でも、多くの子どもたちががまんできたことが話題になりました。言葉がけ一つで、暗示にかかりやすいということでしょうか?
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ヒーローものや戦隊シリーズの隊員になりきったりするのは、子どもならではの感性ですが、上手にその気にさせると、普通より数倍張り切ってやり遂げることに、大人の方が驚くことがあります。それは暗示にかけるということとは、また少し異なる現象です。
大げさに感じられるかもしれませんが、親や他の誰かから、そんなヒーローにもなれるかもしれないと、可能性を信じてもらえたことが、やり遂げる強さにつながっていると考えられます。
Q:親がいつも落ち着いて言葉がけができるとは限りません。日常に紛れて、わかっていてもつい口癖のように子どもを叱ったり指図したりしてしまいますが…。
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小さい子どもがいる家庭では、「騒いじゃダメでしょう、静かにしなさい」「いい加減に、おやつを食べるのをやめなさい」などということを口にしない日は一日もありません。言われた子どものほうは、理由はわからないなりに、渋々静かにしたり、おやつを食べるのをやめたりするでしょう。言いつけに従えば、「よくできたね」とほめることはあっても、ほとんどの場合、それ以上子どもに説明しないという人も多いのではないでしょうか。
このとき、「これ以上おやつを食べたら、ママが作ったご飯がおいしく食べられなくなるでしょう」「ママはあなたのために栄養のことも考えているんだからね」と言えたらどうでしょうか。
コーチングでもよく使われる手法のひとつに「I(アイ)メッセージ」というものがあります。「ダメでしょう」ではなく、「ママはそれをされるのは嫌だ」とか、「(ママは)こうしてくれたらうれしいな」という伝え方です。
慌ただしい日常生活のなかで、そんな余裕がないにしても、勢いに任せて怒ってしまったあと、少し落ち着いたところで伝えることができれば、それで十分です。
ただ頭ごなしに叱られるだけだと行動の制限がかかってしまいます。でも、親が叱った理由や親の気持ちを知らせるIメッセージには、子どもが自らの行動を選ぶ余地が残されているので、自分で判断し自立して生きる力を格段に高めることができます。
Q: 家庭や経済的な事情など、実際に兄弟姉妹がいることで制約があったり、不平等な状況になったりするケースもあります。それぞれの立場でその子らしく成長するために、親はどのようなことができますか?
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一人っ子でないからこその制約や不平等は、そのもの自体がマイナスというわけではなく、逆に学びになることもあります。学びになるのか、生きづらさになるのかは、結局、その制約や不平等を「どう捉えて生きてきたのか」ということによります。
そして、その捉え方は「親や兄弟姉妹とどう関わってきたのか」ということに起因します。
親と子どもの関係だけでなく、あらゆる間柄の人間同士の関わり方について、「機能論的人間観」と「存在論的人間観」という考え方があります。
一般社会では、学力や技術などの能力が優れているかどうかで、人を評価する場面がたくさんあります。「できるか、できないか」や、「何ができるか」で人を判断するような価値観にばかりとらわれていると、思うようにできないことで自分自身の存在意義を見いだせず、生きづらさを抱えてしまいます。
その人の能力に関わらず、「存在していることだけで価値がある」「そこにいるだけですばらしい」という感覚を、私たちは家族や身近な人の中に認めているものです。子どもが赤ちゃんのときは、誰もが「生まれてくれて、そこにいてくれるだけで愛おしい」と思っていたはずなのに、成長するにつれ、「もっとできるはず」「もっと優秀であってほしい」と望むようになってしまうのはなぜでしょうか。親が望むように育つことが、子どもの存在理由の全てではありません。
同様に、同じ親から生まれた兄弟姉妹でも別々の人格ですから、それぞれがやりたいこと、進む道が違って当然です。一人の独立した人間として、信頼し認めてもらえるというベースがあってこそ、親子関係でも兄弟姉妹のなかでも、自分の存在に対する自信が育まれるのです。
たとえ、思春期に激しいぶつかり合いがあろうと、揺るぎない信頼と自信があれば、やがては対等な人間同士として対話ができる関係になるでしょう。
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