自治体トップの「女性は買い物に時間がかかる」発言に違和感。男女間の無意識の思い込みが企業の人材活用にも影響?
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新型コロナによる休業の際、既婚女性がパート先の販売店から「どうせ旦那の収入で食べているのだから、休んでも気楽だろう」と言われた、事務所の交代勤務で女性のみ自宅待機の扱いにする、などに違和感を抱く女性の声がSNSでも話題に。個人レベルだけでなく、自治体のトップが、密集するスーパーの買い物客に「女性が買い物に行くと時間がかかる」と発言。多くの女性から批判の声があがりました。
会社や生活の中で、日頃は気付きにくい男女間の偏った思い込みが浮き彫りになっています。このような無意識の偏見は、企業内で「女性は補助的な作業でよい」「女性はリーダーに向かない」という、女性の活躍の場を制限する要因の一つにもなっているようです。
企業や組織の中で、個人の能力がもっと生かされるためには?弁護士・中小企業診断士の中澤未生子さんに聞きました。
無意識の思い込みは女性自身にも。フラットな視点でそれぞれの感性や個性を認めることが人材活用の可能性をひらく
Q: 「女性が買い物に行くと時間がかかる」「主婦は仕事を休んでも気楽だろう」という発言は、セクハラとは異なるようですが、女性に対するこうした根強いイメージにはどのような背景がありますか?
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このような発言は、直ちにセクハラと認定することは難しいかもしれません。しかし、「人事院規則10-10 (セクシュアル・ハラスメントの防止等)の運用について」では、「性的な言動」とは、性的な関心や欲求に基づく言動をいい、性別により役割を分担すべきとする意識に基づく言動も含まれるとされています。
また、具体例として、「男のくせに根性がない」「女には仕事を任せられない」「女性は職場の花でありさえすればいい」などと発言することが挙げられています。このような女性に対する偏った思い込みに基づく発言がセクハラに該当する可能性も否定できません。また、そうでないとしても、セクハラを生む温床になっていると思います。
女性に対する固定化したイメージが定着したのは、今の中高年以上の世代が活躍されていた昭和から平成にかけての時代であると思います。
男女共同参画白書(令和元年度版) によると、昭和55年当時は、妻が専業主婦の世帯は1114万世帯、共働き世帯は614万世帯でした。数字からわかるように、当時は既婚女性が専業主婦である割合が高く、「男性は外で働き、家族を養う」「生活に関わることは女性のすること」と、男女という性別による役割分担が当然という意識を持つ人が多かったと思います。
企業の経営陣や管理職世代に、こうした根強いイメージがあると、女性が働くことを自然なこととして受け入れられず、前述のような発言につながるのでしょう。
しかし、共働き世帯は年々増加しており、平成30年には妻が専業主婦の世帯が609万世帯であるのに対し、共働き世帯は約2倍の1219万世帯となっています。
共働き世帯が圧倒的多数となっている現在では、家事や育児を自分の役割と考える男性も増えており、従来からの性別による役割分担の意識はかなり変わってきているように感じます。
もっとも、女性が企業で役員などの重要な役職に就くことや、社長などのリーダーになることは、まだ一般的とはいえない時代が続いています。その傾向は、一部上場企業などの大企業になるほど顕著で、東京商工リサーチの第9回「女性社長調査」では、2018年の時点で女性社長は全国で45万4961人、女性社長率も13.47%と増加傾向にあるものの、上場企業に占める女性社長の割合は1%に過ぎないとされています。
今後、さらに女性の社会進出が進み、企業だけでなく、あらゆる組織の重要ポストで活躍する女性が増えれば、このような女性に対する偏った思い込みや、性別による役割分担意識はさらに解消されていくでしょうが、現在はまだ、その道半ばというように思っています。
Q:社会制度上、性差による不平等を是正する動きはあるはずですが、日本の企業や組織の現状は?
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昭和61年に男女雇用機会均等法が施行されて以来、平成3年に育児休業法(現在の育児介護休業法)、平成15年に次世代育成支援対策推進法が制定され、仕事と家庭の両立や雇用管理における男女均等を図る法制度が整備されてきました。
しかし、それでもなお、就業している女性の半数以上は非正規雇用であること、出産・育児期に就業率が低下する「M字カーブ」が顕著であること、管理職以上に占める女性の割合が国際的に見て低い水準であることなどから、平成27年に女性活躍推進法が制定され、平成28年4月1日より施行されました。
このように、女性の就労環境を改善し、女性の活躍を推進するための法整備は進みましたが、国際的に見れば、まだ男女差が大きいというのが現実のようです。
世界国際労働機関(ILO)によると、世界的に見ても管理職に占める女性の割合は3割に満たず、ゆるやかに上昇しているとは言え、職場での男女格差は依然大きいと発表しています。その中でも日本は12%と、主要7カ国(G7)で最下位という結果です。
日本で女性のリーダー登用は、世界的に見ても遅れています。
世界経済フォーラムが2019年12月に公表したレポートによると、各国における男女格差を測るジェンダー・ギャップ指数では、2020年の日本の総合スコアは0.652、順位は153カ国中121位でした。経済、政治、教育、健康の4分野のデータから作成されるこの指数でも、日本は男女の完全平等に遠く及んでいません。
Q:セクハラ・パワハラには該当しないとしても、「女性は補助的な業務でよい」「女性はリーダーに向かない」という無意識の偏見があるようですが、組織の中ではこちらも問題では?
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そのような思い込みは、男性だけでなく女性の側にもあると思います。
しかし、実際には、補助的な業務を得意とする男性もいれば、チームをまとめることが得意なリーダー的存在の女性もたくさんいます。組織がチームとして力を発揮するためには、男女問わず、個々人の強みを生かししあうことが必要だと思います。しかし、男女という性別で活躍のフィールドを限定してしまうと、その人の持っている力を十分に発揮してもらうことができず、組織としての成果において非常に残念な結果になってしまうと思います。
そういう意味では、「女性の方が生活に密着した柔軟な目線を持っているはずだ」という意見も、思い込みの一つなのかもしれません。
もちろん、生活に密着した柔軟な目線を持っている女性は多いと思いますし、性別による傾向はあると思いますが、家事や育児にも積極的に関わる男性が増えている昨今では、生活に密着した柔軟な目線を持っている男性もいるでしょう。
男女の違いを否定するつもりはありませんが、性別でひとくくりにして判断するのではなく、個人としてのそれぞれの価値観を共有していくことが、経営の面でも有効に作用するポイントになるでしょう。
Q:女性の能力を活用している企業では、どんな取り組みが行われていますか?
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女性活躍推進法の施行により、常時雇用する労働者の数が301人以上の企業では自社の女性活躍の状況を把握・分析し、これを踏まえて行動計画を策定して届出・公表することが義務付けられています。そして、令和元年6月に制定された改正法では、常時雇用する労働者の数が101人以上の企業にも対象が拡大されることになりました。
各企業で、どのような取り組みをするべきか試行錯誤していると思いますが、実は、中小企業の中には、このような法律が施行される以前から、女性の活躍により業績を伸ばしている会社がたくさんあります。
例えば、従来は、完全に男性社会と考えられていた建築塗装業界において、女性職人の育成に取り組み、業績を拡大している株式会社KMユナイテッドという会社があります。同社では、深刻な職人不足の中、性別や国籍を問わず、意欲のある人材を採用し、育成するため、まず職人の業務の分析に着手しました。
そうすると、熟練した職人でなくても対応できる比較的簡易な作業や、体力がなくても担当できる軽作業が含まれていることが判明。作業の難易度と質を分別し、条件に合わせて組み合わせることで、これまで職人として育成することが困難と思われてきた女性や外国人を職人として採用する可能性がひらけました。
また、妊娠・出産の可能性があるなど自身の体を心配する女性職人の声を拾い上げ、有機溶剤塗料から体に優しい水性塗料に切り替え、水性塗料の通販サイトもオープン。女性の意見が会社の事業にイノベーションを起こすきっかけにもなりました。
この会社では、女性活躍推進のために女性を採用・育成したのではなく、やる気のある人、努力できる人を採用して育てたいという会社の方針にあてはまったのが、結果的に女性や外国人だったそうです。
男女の性別や国籍にとらわれず、一人ひとりを大切に育成するという経営方針に基づいて、働きやすい職場づくりを追求していく中で、女性が活躍できる企業風土が形成されていった事例です。
他にも、女性が活躍している中小企業に共通するのは、女性を特別視して活躍させるというのではなく、男女問わず、一人ひとりの個性に着目し、一人ひとりが活躍できるような企業風土を形成しているということです。
このような会社であれば、男性だけでなく女性も伸び伸びと働くことができ、その結果、実力を発揮して自然と活躍できるのだと思います。
Q:人材不足の中、女性が企業で活躍するためには何が必要ですか?
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女性の働き方として、非正規が多いことや、企業の中での女性の待遇格差が大きいことにより、「女性の意見が通りにくい」「男女別の扱いに違和感を覚える」などが働きにくさの要因となっているかもしれません。
このような社会の仕組みを変えることや法整備も必要ですが、まずは各企業において、性別を問わず一人ひとりが働きやすい職場づくり、一人ひとりが活躍できる環境を整えていくことが必要だと思います。
一方、偏った思い込みが女性の側にある場合は、自分の可能性を自分自身で制限してしまっている可能性があります。
「女性だから、〇〇できない」などと、自分で限界を決めてしまうのはとてももったいないと思います。「自分にもできるはずだ」と思うことによって、新しいチャレンジが可能になりますし、そうすれば、思ってもみなかったような新しい活躍の場がひらけます。
私のクライアントには女性の経営者の方が多く、「取引先から『そんなものは売れない』とダメ出しを受けた」「金融機関から思うように融資を受けられなかった」といった起業時の体験談を聞くことがあります。
しかし、自分にはできると信じてチャレンジした結果、10年以上にわたって事業を継続し、さらに成長させている方が多数おられます。
男女の役割分担意識を強く持っている方には、そのような意識を持つようになったバックグラウンドがあるはずですし、そうした価値観を否定したり、変えようとしたりすることはできません。
しかし、自分とは異なる価値観があることを受け入れ、フラットな視点で、それぞれの感性や個性を認めることが、企業にとって、多様な人材を受け入れ、一人ひとりの活躍を促す糸口になると考えます。
女性経営者の志に寄り添い、サポートできる専門家
中澤未生子さん(エマーブル経営法律事務所)
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