「生理バッジ」導入の百貨店に賛否 「生理をオープン」にすることは働きやすさにつながる?
大丸梅田店に11月22日にオープンした、「michi kake(ミチカケ)」。「女性のリズムに寄り添う」をコンセプトに、コスメやサプリ、生理用品など、女性の体や性にまつわるグッズが並びます。大きな話題となったのが、女性の販売員が生理中であることを示す「生理バッジ」の導入。着用は任意で、実験的な取り組みでしたが、「客にまで知らせる必要はない」「従業員のプライバシー侵害だ」など、多くの批判を受け、取りやめを決定しました。
大丸梅田店によると、当初、従業員同士の気遣いを生むなど、コミュニケーション創出のためにバッジを導入。同時に、これまでタブー視されてきた「性や生理をオープンにする」という新たな価値観を発信する売り場をPRする目的もあり、結果としてバッジの意味が外部にも公開され、大きな議論に発展しました。今後は、別の形で従業員同士の意思表示を行うそうです。生理をオープンにすることは、女性が働く環境づくりにおいて、どんな効果があるのでしょうか。社会保険労務士の神野沙樹さんに聞きました。
生理日はある程度予測できるもの。当事者は主張するだけはなく、仕事を調整するなど周囲への配慮も必要
Q:「生理をオープンにする」という新たな価値観が生まれつつある中、大きな議論となった、大丸梅田店の「生理バッジ」。結局は取りやめとなりましたが、職場づくりとして評価できるポイントは?
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社会への問題提起となり、多様な価値観を広く知らしめたという点で、意義のある取り組みだったと思います。ただ、センセーショナルに受け止める人も多く、タイミングとして「時期尚早」だったのかもしれません。
例えば、LGBT(セクシュアルマイノリティの総称のひとつ)の問題のように、これまでと異なる新しい価値観について、最初は拒否感をもってとらえる人も多くいますので、今回のことが、生理をオープンにすることへの風穴を開けるきっかけになればいいと思います。
お客さまにも知らせるかどうかの是非は別にすると、職場づくりとしては、バッジによって生理を開示できるしくみづくりや、着用が任意であった点は、評価できるポイントです。また、導入について、従業員が納得した上で進めたかどうかも重要です。
ただ、この方法がどの企業でも効果的かといえば、職場のカラーによるでしょう。女子校と共学の違いのように、女性の多い職場ではフランクに話しやすいでしょうし、反対に中高年の男性が大半を占める職場では、実際には難しいかもしれません。
Q:働く女性が「生理をオープン」にすることで、職場にどんな影響がありますか?
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メリットは、職場の人に生理中であることを認識してもらうことで、業務を分担したり、在宅ワークを選んだりと、働き方を柔軟に選べる可能性が広がることです。また、生理中は感情の浮き沈みを、自分ではコントロールできなくなる場合もあります。「なぜ、あんなにイライラしているのか」と周囲が抱く「モヤモヤ」を、「生理の影響」と知ってもらうことで、社内での人間関係が多少なりともスムーズになるという側面もあります。
生理に限らず、育児などの場合も同じく、当事者とそれ以外の人との溝は、どれだけ理解を深めたとしても埋まりにくい部分はあります。男性だけでなく、女性同士で「経験上、わかってくれるだろう」と思っても、個人差や立場によって考え方はさまざまです。
「生理だから仕方ない」「生理だから休む権利がある」と主張するだけではなく、生理日はある程度予測できるものですので、あらかじめ仕事を調整した上で、業務の軽減や休暇を申請するなど、周囲への配慮は必要でしょう。
Q:生理休暇など、企業の取り組みは進んでいますか?
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生理休暇は、「生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したとき、就業させてはならない」と、労働基準法に定められています。
「女性活躍」の意識は進んできているものの、女性の体調について理解する研修や、休暇制度の推進を図っている企業は限られています。特に中小企業などでは、労働基準法に従って「就業規則に一応書いている」程度で、実際に声を上げた人だけが取得している状況が多いようです。
また、法律上無給・有給の規定はなく、厚生労働省が示した雇用均等調査(平成27年度)では、生理休暇を無給としている企業は7割を超えています。一部の企業では、年次有給休暇とは別に、生理休暇として月1日だけ有給とする、と定めているところもあります。
Q:生理休暇取得率は低いようですが、取りやすくする工夫は?
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前述の厚生労働省の調査では、平成26年度の取得率が0.9%と、昭和のころと比べ大幅に減少しています。生理休暇を無給とする企業も多く、収入を減らしてまで取得したくないという人もいるでしょう。
また、大きな要因として「男性の上司には言いにくい」など、周囲の目が気になることが挙げられます。あるIT企業では、生理休暇や妊活など女性の体に関わる理由で取得する休暇の名称を、理由が特定できないような名称に統一し、取りやすい工夫をしているようです。
生理だけでなく、育児休暇や介護休暇なども同じく、「女性だけ」「子育て中の人だけ」など、対象者を限定する制度では、当事者が周囲を気にして利用しにくいという状況が生まれます。
例えば、老若男女問わず、誰もが月1回休める制度で、名称も「ワーク・ライフ・バランス休暇」などとし、その中で必要な人は生理を理由に取得できるのなら、周りの目を気にせず毎月取得しやすいかもしれません。
Q:これから、生理をオープンにしていこうという動きは職場で広がっていくでしょうか。
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多様な価値観が認められつつある時代には、時間はかかっても、生理をオープンにする動きが進んでいくと考えられます。歯科医院など、女性が大半を占める職場では、効率的な事業運営につながります。
「仕事に自分の生活を合わせる」という昔の考え方から、自分のライフスタイルを構成する要素の一つに仕事もあるという、「ワーク・ライフ・バランス」の考え方が浸透しつつあります。仕事と両立する生活の時間として、家族との時間だけでなく、生理など、自分の健康を管理する時間を大切にする動きも広がるでしょう。
これから、どの企業でも働き手が減っていくことが課題となります。従業員が、生理による体調不良をがまんすることなく、健康に働ける環境を整えることは、生産性を高めるなど企業の成長につながることだと、企業側の理解が進むことも大切です。
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