ぎっくり腰の原因は?湿布や冷やすのは効果的?予防策について

ぎっくり腰ってなに?原因は?
ぎっくり腰は、正式には「急性腰痛」といいます。ぎっくり腰を経験したことがない人も、「重いものを持ち上げようとしたら、ぎっくり腰になった」ということを耳にしたことがあると思います。
しかし、ぎっくり腰は、床に落ちたものを取ろうとちょっと腰をかがめたとき、うがいの後に口の中の水を出そうと前のめりになっとき、くしゃみをしたときなど、日常の何気ない動作でも、まさに急に、突然に起こります。
ぎっくり腰については、腰の中の動く部分(関節)や骨と骨をつなぐ軟骨(椎間板)に許容以上の力がかかり、ちょうど捻挫をしたような状態になる、また、腰を支える筋肉やすじ(腱、靱帯)の損傷などが考えられます。このほか、筋肉疲労や内臓疲労などもぎっくり腰の原因になります。しかし、ぎっくり腰の原因を特定するのは難しいのが現状です。
注意してほしいのは、腰や足に激しい痛みやしびれがある場合、椎間板ヘルニアや加齢による変形性腰椎症の疑いがあるということです。腰椎の骨折、骨腫瘍など緊急性の高い外科手術が必要か、もしくは重度の病気も考えられます。
この場合、外科手術の設備がある、また内科医などと連携が取れる施設、つまり医師が複数常駐する中規模以上の病院でなければ対応できないということになります。整形外科を受診し、重大な原因に対して手遅れにならないようにすることが大切です。
ぎっくり腰から慢性の腰痛へ、腰痛は精神的ストレスが原因?
通常、ぎっくり腰は数日~数週間で症状が落ち着いてきます。しかし、場合によっては1~3カ月かかる場合もあり、慢性化する例も少なくありません。そのため、初期の対応が大切になります。
ぎっくり腰は慢性の腰痛に進む例も少なくないと言いましたが、「腰」は文字通り体の「要(かなめ)」です。人間は2本足で歩くようになったこと❶から、10人に8人は死ぬまでに腰痛を感じると言われています。❷
❶「人類の進化における直立二足歩行の光と影 ―整形外科医療の立場から」
https://amcor.asahikawa-med.ac.jp/modules/xoonips/download.php/f1201023.pdf?file_id=5729
❷労災疾病等医学研究普及サイト
「職場における腰痛の発症要因の解明に係る研究・開発、普及 職場における腰痛の発症要因の解明に係る研究・開発、普及」 研究報告書
https://www.research.johas.go.jp/booklet/pdf/2nd/05.pdf
人間が「痛み」を感じるとは、脳が「痛みの信号」を認識するということです。しかしその一方、人間の脳は必要以上の痛みを感じない仕組みを持っています。簡単に言えば、必要以上の痛みの信号に対し、その信号を抑制する物質が脳から放出され、必要以上の痛みを抑えるということです。
この、脳や脊髄内で行われる、電気信号の伝達抑制や鎮痛物質による「痛みの情報抑制」は、「下降性疼痛抑制系」と呼ばれます。この体の鎮痛システムは、鍼灸治療による鎮痛効果の主な要因と考えられています。❸
❸医歯薬出版株式会社 生理学第3版
しかし、精神的ストレスが加わるとこの仕組みがうまく働かず、腰痛の場合、わずかな痛みでも強く感じる❹、慢性的に腰が痛いということになります。このことは、腰痛の治療にあたっては、整形外科的なアプローチだけではなく、精神的要因へのアプローチが大切であることを示しています。
❹反復寒冷ストレス負荷により誘起されるラット体性痛・内臓痛における下行性疼痛抑制系の機能解析および各種薬剤の薬効評価
https://cir.nii.ac.jp/crid/1910583860652406144
実際、現在「慢性腰痛症に伴う疼痛」の治療薬として使われている薬は、それまでは「うつ病・うつ状態」を対象とする薬として承認された薬剤です。
つまり、腰痛には「体」と「心」両面からのアプローチが大切なのです。そして、人間のさまざまな疾患に対し、「体」と「心」の両面からアプローチするという姿勢は、長い歴史を経て体系づけられてきた東洋医学の基本的な姿勢です。
ぎっくり腰になったら腰に負担がかからない楽な姿勢を
では、ぎっくり腰になったらどうすればよいでしょう。まず、発症直後についてですが、速やかに専門医に相談することが大切です。しかし、ぎっくり腰には激しい痛みがあり、立ち上がることができない場合もあります。
動くこともままならないときは、まず腰に負担がかからない楽な姿勢をとりましょう。おすすめの姿勢は、膝を軽く曲げて横向きに寝ることです。この姿勢が一番、腰に負担がかかりません。場合によっては、あおむけに寝て、ひざを軽く曲げて膝の下にクッションを入れたり、低めの台に両足を乗せるなどの姿勢もよいかもしれません。これは人により、発症直後の症状により異なります。いずれにせよ、「腰に負担がかからない楽な姿勢」をとりましょう。
ぎっくり腰の3大NG行為は入浴とマッサージ、湿布で冷やすこと

次に、ぎっくり腰になったときにやってはいけない3つのNG行為を紹介します。
1つ目は、入浴です。ぎっくり腰に対して、多くの人は体を温める行為を行っています。お風呂に入って体を温めることは、よい効果を及ぼす場合もありますが、ぎっくり腰にはさまざまな原因がありますので、専門家に診てもらう前は控えましょう。
特に腰が痛み始めた時、5分以上熱い湯船に入っていると、翌日痛みが増強して動けなくなる確率が極めて高くなります。
2つ目は、マッサージ(あん摩)です。マッサージは入浴と同じく日本人になじみがあり、痛みがある腰の部分をもむ人もいます。しかし、これもNG行為です。
痛みがある場所を揉むと、痛みは強くなります。ヒトは、痛い場所があると、つい手が伸びます。手を当てる(手当)と楽になるからです。痛い場所を撫でる、さする行為は、痛みを和らげる効果があります。揉むまたは押すと、その瞬間は神経の働きを遮断し血液の流れが悪くなりますので痛みが和らぐもしくは消失します。しかしながら、多くの場合、その直後もしくはしばらく時間をおいてから痛みを元のように感じます。強く押すまたは揉んでいる時間が長いほど、その反動は強くなり、揉む前より痛みが増強します。
3つ目は、湿布です。冷湿布を貼る人も少なくありませんが、冷湿布もNGです。「痛みには冷湿布」と思うかもしれませんが、ぎっくり腰発症直後の冷湿布は禁物です。
冷湿布を貼ると一時的に血管が収縮して血行が遅くなります。炎症を起こしている時は炎症が治まりやすいので有効な治療法です。炎症とは、痛み、熱、発赤、腫脹が同時に伴っている時です。30分から1時間程度貼付していると炎症の消退に役立ちます。しかしながら、痛みだけの時は、違います。痛みがあるときは、体力が落ちている時です。同時に、元に戻りたいと体が欲している時です。冷湿布をすると、血行が不良になり、元に戻ろう、治ろうとする力を抑えてしまいます。そのため、湿布の効力が終わるとき・湿布をはがしたとき、一気に痛みがある部分に血液が流れ込み、痛みをぶり返します。湿布を貼っている時間が長ければ長いほどその反動が大きくなり、我慢できない痛みへ移行する確率が高くなります。この事は、温湿布でも同様の現象が起きます。そのため、湿布を長期間貼り続けて、痛みを感じないようにしようという人が増えるわけです。負のスパイラルが回り続けます。
鎮痛剤の服用へと移行しやすいパターンです。
ぎっくり腰は、原因を見極め、それぞれに適した治療やケアを行う必要があります。専門家のもとを訪れる前の「入浴」「マッサージ」「湿布」の3つの行為は、腰の痛みを悪化させ、動けなくなる状態へ助長させる3大悪行為ですので注意してください。
ぎっくり腰は安静にしていればいいの?
ぎっくり腰発症直後について、まず「腰に負担がかからない楽な姿勢」をとること、そして3大NG行為についてお話ししましたが、数日たって、立ち上がれないほどの痛みが治まったら、次はどうすればいいでしょう。
かつてよく言われていたことは、ぎっくり腰になったら「まず安静にすること」ことでした。しかし、現在では、腰に過度な負担をかけない範囲で体を動かすほうがよいことがわかっています。安静第一で体を動かさないでいると、腰痛と関連が深い筋肉(腹筋や背筋)が衰えてしまうためです。
これはさまざまな研究で明らかにされており、安静第一にした人と普段どおりに動いた人を比較すると、安静第一にしていた人は、普段どおりに動いた人に比べて経過が悪いのです❺。長すぎる安静は回復を遅らせるということです。痛みが弱まってきたら、自宅の中を歩いたり、できる範囲で少しずつ体を動かすようにしましょう。
❺(旧版)腰痛診療ガイドライン2012 CQ 8. 腰痛の治療に安静は必要か
https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00178/
なお、ぎっくり腰を起こすと多くの人がコルセットの着用を考えるかと思います。確かにコルセットには、腰の保温や保護、腰部を固定することで痛みを軽減するなどのメリットがあります。また、着用することでの安心感もあります。
しかしその一方、コルセットをすることで、体幹を支える腹筋・背筋が使われず筋力が低下するというデメリットもあります。これは腰痛の改善には好ましくはありません。痛みがひどい場合は着用し、痛みが軽減した場合は外すなど、状況に応じた使い方が望ましいでしょう。
精神的ストレスは鍼によるケアもおすすめ
「鍼(はり)」と聞いて、みなさんはどのようなイメージを持つでしょう。「肩こりに効く」「東洋医学の治療法の一つ」、あるいは「鍼灸のケアを受けているトップアスリートも多いらしい」などでしょうか。いずれもそのとおりなのですが、最近では、西洋医学だけでは対処できない疾患に対して、鍼や灸をはじめとする東洋医学を取り入れた医療プロジェクトも進められています。
これは先にお話しした、ある疾患に対し「体」と「心」の両面からアプローチするという東洋医学の基本姿勢、また、ある疾患をその部位だけではなく体全体のバランスから捉えるという概念に大きな期待が寄せられていることを示しています。事実、アメリカやヨーロッパでは、日本以上に東洋医学が医療現場で活用されています。
腰痛は精神的ストレスが関与するということを紹介しましたが、この精神的ストレスのケアに取り入れられるのが鍼です。体の疲れが原因でぎっくり腰になったときは、入浴をせず、睡眠や休養を十分取ることにより改善に向かっていきます。
翌日も腰痛が消えないときは、精神的ストレスが強いことが原因と考えられます。鍼を施すことにより、精神状態を安定へと導いていく効果を期待できます。精神活動の不安定が引き起こした腰痛に対して鍼を行うと、発症した日であれば、1回の施術で痛みが治まる場合もあります。
血液の循環を促しこわばりをとく灸

筋肉疲労や内臓疲労を伴う時には、灸が有効です。はじめに紹介したように、ぎっくり腰は、床に落ちたものを拾うなど、日常のちょっとした動作から発症する場合があります。
その原因の一つに考えられるのが筋肉疲労です。筋肉疲労はハードなスポーツや運動だけではなく、普通の生活でも毎日起こっています。筋肉疲労が重なった状態の時は、ちょっとした負担が腰にかかることでキャパオーバーとなり、ぎっくり腰が発症すると考えられます。
また内臓疲労も、体の内部から腰の筋肉などに負担をかけるので腰痛の一因になります。灸を施すことにより血液の循環がよくなって、筋肉疲労や内臓疲労が癒やされ、筋肉や関節のこわばりをとくことができます。いずれも、2~3回の灸を施すことにより腰痛の軽減を目指すことができます。
ぎっくり腰の再発防止と腰痛予防
ぎっくり腰は、一度なると再発するおそれがあります。ぎっくり腰発症後、約1/4の人が1年以内に再発するというデータもあります❻ので、再発防止に取り組むことが大切です。
❻全国健康保険協会(協会けんぽ) 腰痛
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/kochi/20140325001/youtsuu1.pdf
日常生活での注意点としては、腰に負担がかかる姿勢、例えば、前かがみの姿勢などを意識的に避けること、また、イスなどに座るときは正しい姿勢を心がけるようにしましょう。
正しい姿勢をとるためには、腹筋や背筋が重要になりますので、適度な運動も行うようにしてください。
激しい運動でなくても、歩くことで腹筋や背筋を鍛えることができます。筋肉のこわばりを緩和するストレッチも再発予防に効果があります。これらの適度な運動は、腰痛の大きな要因である精神的ストレスの解消にもつながります。
また、腰痛予防としてヨーガ(YOGA)もおすすめです。ヨーガ(YOGA)は、腹筋や背筋の強化、呼吸をすることによる精神的ストレス解消など、多くの面で腰痛予防の効果を期待できます。
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