事業承継の準備は60歳からでは遅すぎる!いつから始めれば良いか?
高齢化が進む日本の社長
帝国データバンク(TDB)の発表によると、2016年の社長の平均年齢は、59.3歳で過去最高を更新しました。
年代別の分布状況を見ると、60代と70代以上の構成比が年々上昇し続け、60歳以上の経営者が全体の51.9%を占めています。
日本社会全体で高齢化が進んでいる中で、企業経営者の高齢化も同時に進んでいるようです。
事業承継が進まない理由
社長が歳をとるにつれて、企業として事業承継をいつどのように進めるかが大きな経営課題になってきます。
ところが、TDBの調査によると、事業承継を86.3%の企業が経営課題として捉えている一方で、実際の取り組みについては、「計画がない」が30.0%、「計画はあるが、まだ進めていない」が32.4%となり、60%以上の企業が具体的に事業承継に着手していない状況です。
このように社長の平均年齢が上がり続けているにも関わらず、後継者へ経営のバトンタッチが進まない原因はいくつかあります。
一つは、後継者不在という問題です。
同じくTDBの調査によると全企業の3分の2にあたる66.1%において後継者不在で、毎年その割合が増えています。
二つ目は、現経営者の考え方の問題です。
先ほどの調査で「事業承継計画を進めていない・計画がない」理由として、「まだ事業を譲る気がない」が半数近くに達していますが、これは高齢な経営者の多くが、事業承継を緊急の課題だと捉えていないことを示しています。
その一方で、「事業承継で苦労すること」については、「後継者育成」が約6割と最多で、「従業員の理解」が約3割で2位という結果が出ています。
たしかに「後継者の選定・育成」や次期社長に対する「従業員の理解」を得ることは一朝一夕では難しく、最低でも5年の年月が必要になります。
それほど時間が必要な事業承継に対して「まだ事業を譲る気がない」という理由で、着手を先延ばしにしているために、経営者が年々高齢化していくにも関わらず、後継者候補すらいないという状況が、大半の企業における現実なのです。
高齢なのに事業を譲る気がない経営者が多いのはなぜか
なぜ高齢に達しているにも関わらず、「まだ事業を譲る気がない」と考えている経営者が多いのでしょうか。大きく分けて二つの理由が考えられます。
一つ目は、事業承継を「相続」の問題として捉えている経営者が多いことです。
これまで、経営の世代交代における主要なテーマは、自社株の引き継ぎにあたって贈与税や相続税をいかに節税するかであり、税理士を中心に自社株評価を引き下げる方法論が工夫されてきました。
また、事業承継を促進するために、政府が平成25年に打ち出した施策も、贈与税や相続税の納税猶予を目的とした「経営承継円滑化法」ということで、世の中全体が事業承継を相続とそれに関わる税金の問題と捉えている風潮が強いのですが、これは大きな誤解です。
二つ目は、現経営者が引退をしたくない気持ちを強く持っていることです。
長年自分の会社で仕事に打ち込んできた社長ほど、「仕事が生きがい」、「会社が自分にとって一番居心地の良い場所」という方が多いのです。
そのような人は、事業を譲り渡してしまった後、「何を生きがいに生きていくのか」、「自分の居場所はどこか」が分からず、アイデンティティを喪失することになることが不安で、引退の決断が出来ません。
でも、日本人の平均寿命が延び、高齢者中心の社会へと変化を遂げているのだから、早々に事業承継をせずに、元気な間はずっと経営者として留まればいい、という考え方もあるかもしれません。
事業承継は相続の問題ではない
ところが、東京商工リサーチが発表している社長年齢別の業績状況では、黒字企業は40代の構成比が81.6%で最も高く、次いで、30代81.3%、60代80.5%、50代80.4%と続きます。
これに対し、70代以上は赤字企業の構成比が20.6%と最も高く、社長の高齢化が業績に影響している傾向が出ています。
その理由は、中小企業庁が行った調査によれば、経営者の年齢が上がるほど、投資意欲は低下し、リスク回避性向が高まるからです。
また同調査において、経営者の交代があった中小企業において、交代のなかった中小企業よりも経常利益率が高いとの報告がされています。
以上のことから分かることは、これからの時代における企業の事業承継とは、現経営者の年齢に合わせて「相続」の一環として捉えるのではなく、変化のスピードが加速する環境の中で、事業戦略やビジネスモデルのライフサイクルを見据えつつ、企業を次の成長ステージへ導く新たな経営人材を投入するための大きな契機と捉えるべきです。
そのためには、政府が平成28年12月に10年ぶりに改訂した『事業承継ガイドライン』が提唱する「60歳になったら事業承継の準備を始めよう」では、遅すぎる場合もあります。
現経営者の方は、事業承継は相続の問題ではなく、成長のネクスト・ステージを実現する戦略的課題だという認識に切り替える必要が先ずあります。
そして、バトンタッチの時期については、自社の事業のライフサイクルを見極めたうえで、適切な判断が求められますが、会社だけに依存して、自分が身を引く時期を見誤らないために、自身のライフプランを描くことに早い時期から着手することが大切です。
「競争しない企業」をつくる経営コンサルタント
清水泰志さん(株式会社ワイズエッジ)
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