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タワマン節税が規制されてもなお続く相続税の不公平感

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キーワード:
相続税

評価額と時価の乖離が激しい「タワマン節税」。富裕層優遇との批判も

政府・与党は、タワーマンション(一般的に20階建て以上の高層マンション)の評価法を変更する方針を固め、行き過ぎた“タワマン節税”を事実上規制することとしました。
新たな税制は2018年以降に引き渡す新築物件に限って適用する見通しですが、タワマン高層階の相続税を引き上げるべく、12月にまとめる税制大綱に盛り込むことを目指します。

不動産の相続税は、敷地面積に路線価をかけて算出した「土地の評価額」と、固定資産税評価額によって決まる「建物の評価額」を合計した相続税評価額に税率をかけて算出します。
マンションの場合、1棟まるごと評価し、床面積に応じてその評価額を按分します。つまり、同じ面積であれば低層階と高層階の住戸は同じ評価額になるのです。

実際には、高層階の方が(物件にもよりますが)概ね1.5倍程度は高値で取引されており、取引価格(時価)と評価額が大きく乖離します。「価格の高い不動産の税額が少ないのは不公平だ。しかも富裕層にしかできない節税法だ」という批判は根強くあり、これに政府・与党が対応するものです。

タワマン高層階だけ評価方法を変えても不公平感は拭えない

総務省は、タワーマンション高層階の評価額を上げ、低層階の評価額を下げる新たな評価方法を検討しています。
タワーマンション単体を切り出して考えた場合、この調整方法は不公平感をなくす合理的な方法でしょう。
しかし、高層マンションの低層階は低層マンションの同じ階と比べると、すでに節税効果が大きく、タワマン低層階の評価をさらに下げることに新たな批判を呼ぶ可能性があります。

具体例で考えましょう。単純化し、敷地面積5,000㎡(評価額5億円)という同条件の2つの土地に、全50戸の5階建て低層マンションと、全500戸の50階建てタワーマンションをそれぞれ建築します。
住戸の専有面積はすべて等しく、住戸あたりの建物の評価額を2,000万円とします。
この場合、低層マンション5階にある住戸は1戸当たりの敷地面積が100㎡(=5,000㎡÷50戸)、同じ5階にあるタワーマンション住戸は同10㎡となります。
両者とも敷地1㎡当たり10万円(=5億円÷5,000㎡)の評価額ですから、1戸当たりの土地の評価額は低層マンション1,000万円、タワーマンション100万円と、同じ5階の住戸でもマンション規模によって900万円もの開きがでてくるのです。
つまり、タワーマンションは敷地の面積に対して戸数が多く、1戸当たりの土地が極端に小さくなるため評価額が激減するのです。
建物の評価額は同じ2,000万円ですので相続税評価額でみれば、低層マンションの評価額は3,000万円、タワーマンションは同2,100万円となり、全体でみても大きな差があります。

今回の見直しでは、タワーマンション低層階の評価額を下げる方向で調整が進んでおり、これは低層マンションの住人と不公平感が広がる可能性が高いといえるのです。

不動産と株式の不公平感の是正も。金融庁は株式の時価評価の改正を要求

このように不動産は、実際に取引される価格より評価額が小さくなる仕組みがあるため、節税効果があるといわれます。
今回のタワマン節税への規制は、この評価額を階数に応じて調整するに過ぎません。

一方、株式で保有している場合には、被相続人死亡時の株価(時価)がそのまま相続税評価額となり、これに税率をかけて算出するため、不動産のようなメリットはありません。
実際に相続するまでの間に株価が急落し、相続税支払い時点で大きな損を被ることもあります(逆の場合は得します)。

実は過去のバブル期に不動産を取得価格で評価する方法が採用された時期もありました。
しかし、バブル崩壊に伴い実勢価格が暴落したにも関わらず、高額な取得価格で相続税を評価される事態が相次ぎ、中止を余儀なくされました。
このような過去に加えて、住生活に密接に関わり、多くの方が資産として保有している不動産は、あらかじめ評価額を低く設定している側面があります。
しかし自宅の敷地の評価額が80%も減額される小規模宅地の特例なども用意されており、株式保有者からみればやはり不公平感を覚えるでしょう。

金融庁はこれが貯蓄から投資の流れを阻む一因とみて、株の評価額を一律に10%割り引く制度改革を求めています。
これを受け、上場株式の評価方法の見直しも、税制調査会で議論を本格化させます。

税制のみに依存しない資産形成を。節税ありきの不動産取得に注意

海外に目を向ければ、相続税が廃止された国も少なくありません。
日本では富裕層を中心に節税目的の海外移住が急増し、租税特別措置法が改正された経緯もあり、いたちごっこが続いています。
マンションでも階数や規模の違いで不公平感が生じ、財産の種類によっても評価法に一貫性がなく、世界的にも高い日本の相続税。
資産の特徴やそれぞれの事情も異なるため単純比較はできませんが、いずれにせよ今回の税制改正で全員が納得する解を出すのは至難の業でしょう。

資産防衛において節税は大切です。
一方で、タワーマンションの高層階は値崩れが起きやすいリスクもあります。
これからも税制は変遷していくでしょう。
節税にこだわりすぎず、節税ありきでもない、あなたの堅実な資産形成を第一に考えた不動産取得をしてくださいね。

資産価値を担保する中古物件売買・リフォームの専門家

加藤豊さん(有限会社ミトミ)

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