JIJICO(ジジコ)

  1. マイベストプロ TOP
  2. JIJICO
  3. ビジネス
  4. 女性を下の名前で呼ぶ男性上司。相談数増加の「ジェンダーハラスメント」とは?

女性を下の名前で呼ぶ男性上司。相談数増加の「ジェンダーハラスメント」とは?

カテゴリ:
ビジネス
キーワード:
ハラスメント防止
{ジェンダーハラスメント}

男性上司が女性に対し「A子ちゃん、お茶をいれてちょうだい」と一言。こういったシチュエーションを目にしたことがある、あるいは言われたことがあるという人は多いのではないでしょうか。これは「ジェンダーハラスメント」にあたることを知っていますか?ジェンダーハラスメントに対する意識が低いと、職場で問題が起きる可能性があります。ジェンダーハラスメントを受けた人は、大きなストレスを抱えているケースがほとんどです。自分の言動で相手を傷つけることがないように、また被害者にならないためにも、ジェンダーハラスメントの正しい知識を身につけることが大切です。

ジェンダーハラスメントとは会的な性差のこと

まず、ジェンダーハラスメントとはなんでしょうか。従業員に対する不快、不適切な発言や行為としてよく知られているセクハラ(セクシュアルハラスメント)が「性的いやがらせや性的いじめ」を指すことが多いのに対し、ジェンダーハラスメントは、「個人の能力や特性を無視して社会的な性差で一律に行われるハラスメント」のことです。

「女性はこうあるべき」「男性はこうでなければならい」といった、性別に対する固定概念により生まれる差別やいやがらせで、「女のくせに生意気だ」「男のくせに情けない」などの物言いが代表的な例になります。

その他、ジェンダーハラスメントとしては以下のようなことが考えられます。誰でも一度は言われたことがあるのではないでしょうか。

・女性であるからという理由で、お茶くみや細々とした雑用を頼む。
・困難な仕事や重要な役割は女性ではなく、男性がやるべきだと言う。
・女性の状況(年齢、婚姻状況、出産)により、「女の子」「奥さん」「おばさん」「おかあさん」などと呼び方を変える。
・容姿や体型について、相手を傷つけるような発言をする。
・女性のみ姓でなく名前を「ちゃん」付けで呼ぶ。

(参考文献:ジェンダー・ハラスメントに関する心理学的研究-就業女性に期待する「女性らしさ」の弊害- 著者:小林 敦子氏)

職場で行われる性的な言動「セクハラ」については、男女雇用機会均等法11条で定義や規定がされており、企業(事業主)は防止策を講じることを義務づけられています。社内に相談窓口を設置したり、就業規則などに行為者への対処方針を明記したり、セクハラに関する研修を実施するなど従業員への周知・啓発が行われています。

「女だから、男だから」といった性別に基づく差別についても、法律で規定はされています。労働基準法4条「男女同一賃金の原則」では、女性であることを理由に「男性より賃金が安い」といった取り扱いをすることを禁止しています。

男女雇用機会均等法5条・6条「性別を理由とする差別の禁止」では、性別にかかわりなく配置や昇進、昇給など待遇面において平等に扱うよう定めています。

しかし、現時点ではジェンダーハラスメントに関する法令やガイドラインは作られていません。そのため、ジェンダーハラスメントについては、各企業でも取り組みが進んでいないと言えるでしょう。

男性が女性を下の名前で呼ぶ心理

冒頭で男性が「A子ちゃん、お茶をお願い」と声をかける例を挙げましたが、実際の職場では、ままあることです。企業で働く女性を対象にしたある調査では「男性は姓で呼ぶのに、下の名前(さん、ちゃんなど)で呼ばれた」と回答した女性が約6割にのぼり、その多くが不快に感じているそうです。

では、男性が女性を下の名前で呼ぶのはなぜなのか、その心理を考えてみましょう。

一つ目は、距離を縮め、よそよそしい他人行儀の雰囲気をなくしたいという心理です。職場であれば上司と部下、先輩と後輩といった立場の違いがあります。業務やコミュニケーションをスムーズに進めていくためにも「相手が気をつかわなくてもいいように」という気持ちがあるのかもしれません。しかし、男性社員は上の名前で呼ぶのに対し、「女性のみ、また若い女性社員だけ」といったことは、ハラスメントの要因となってしまいます。

二つ目は、「『ちゃん』づけで呼ばれていやな気がする人はいないだろう」と思っている可能性があります。男性側にすると「○○さんは仕事ができる」など信頼しているからこそであり、親しみを込めているのでしょう。

ただ、「急なお願いごとが多いので機嫌をとっておきたい」といった下心もあるかもしれません。頼まれる側にとって、それが自分の仕事であれば優先順位を変え臨機応変に対応することも能力のひとつです。名前の呼び方で業務の質が変わる、スピードが上がると考えているのであれば失礼だと思います。

三つ目、男性上司が特定の女性を下の名前で呼ぶ場合などは「自分と相手のあいだには信頼関係がある。相手からも自分は慕われている」といった心境が考えられます。しかし、女性からは「他の人は名字で『さん』づけなのに自分だけ?特別扱いをされているようでイヤ」「『あのふたり、何かあるのでは?』と勘違いされそうで困る」といった声が聞かれます。
本人も違和感を覚えますが、周りからは「あの子のことお気に入りなの?査定でも高評価されるの?」と不公平感を抱くことにもなります。

いくつか挙げましたが、いずれも女性としては、見下されているように感じたり、あんれなれしく不快に感じたりすることがあります。会社によっては、男女問わず下の名前で呼ぶ習慣があるところも存在しますが、それは男女ともに下の名前で呼んでいるという違いがあります。

ジェンダーハラスメントは男性も被害者に

ジェンダーハラスメントの問題は、男性にもふりかかります。また男性から男性、女性から女性と同性のあいだでも起きます。男性の場合は、例えば「男なのにそんなこともできないのか」「男なんだからがんばれ」「男のくせに根性がない」などが挙げられます。その他、男性であることを理由に力仕事や残業を強いられることがあります。こういった言葉は、男性からだけでなく女性から言われることもあります。

ただ「この仕事は女性には任せられない」と雑用を命じられたり、「女性が担当者では不安だ」と取引先から不服を言われたりと、女性は「できない」が前提。一方の男性は「できて当然」「できるはず」といったニュアンスが多いように感じます。いずれにしても本人の適性や能力とは関係のない不適切な発言だと思います。

なお、女性同士では、先輩が「女の子なんだから、もっとメイクしたら?」「彼氏いないの?早く結婚して子ども産まないとね」などが挙げられます。これらは、LGBTの人に対するハラスメントにもつながります。

LGBTとは、レズビアン(女性同性愛者)・ゲイ(男性同性愛者)・バイセクシャル(両性愛者)・トランスジェンダー(心の性と体の性が一致していない人)の頭文字をとったものです。

「女の子のくせに髪も短くて男の子みたい。モテないよ」「男性なのに女性っぽいしぐさが変。だから結婚できないんじゃない」などの言葉は、ハラスメントにあたるので注意しましょう。

「好きになる人の性別(性的指向)」や「自分がどういった性別かという認識(性自認)」については多様であり、とてもパーソナル(個人的・私的)な領域です。LGBTであることを理由に言葉や態度でいやがらせをしたり、不当な異動や解雇をすることは許されません。

加害者と被害者の意識間には大きな“ズレ”がある

ジェンダーハラスメントは、発言者側にハラスメントを行っている自覚がないことが多いため知名度は低く、加害者と被害者の意識間には大きな“ズレ”があります。2011年に6労働局で扱ったいじめのあっせん事案の申請人は、女性が59.9人と約6割を占めており、内容としては、上司や同僚から容姿・年齢・結婚(離婚等)に関する発言があったと訴えるものが目立つのが特徴です。

また、男女問わず職場での強いいじめや嫌がらせなどのトラブルによりうつ病などの精神障害を発病し、労災補償を受けるケースも年々増えています。平成25年度では436件の報告があり、職場で起こるハラスメントを放置しておけば「従業員のモチベーションの低下」「メンタルヘルス問題の増加」などの心身の健康を損なう恐れがあります。

職場の一人一人が意識を持つことが大切

ジェンダーハラスメントの起こる背景に、「意識の低さ」が挙げられます。人の心に関わることなので、一度起こってしまった問題を解決するのは容易ではありません。

そのため、問題が起こらないよう予防対策を講じることが重要です。まずは企業として「ジェンダーハラスメントのみならず、ハラスメントをなくすべきである」という方針を打ち出し、職場の一人一人が意識を持つことが大切です。

組織としての方針が明確になれば、ハラスメントを受けた従業員もその周囲の従業員も、相談や問題に対しての指摘や発言をしやすくなります。また、実態を把握するためには、アンケート調査の実施が有効です。年に1回など定期的に実施し、常にハラスメントに対する意識を俎上(そじょう)に載せること、加えて研修・教育をすることも効果が期待できます。

対策をとったにもかかわらず、ハラスメントが発生してしまったときは、企業で相談窓口を設け迅速に対処する必要があります。誰しも悪気なく他人を傷つけてしまうことはあります。しかし、今のご時勢「知らなかった」「そんなつもりはなかった」ではすまされません。「なにがジェンダーハラスメントなのか」を知ってさえいれば、トラブルは回避できます。

豊富な経験と細やかな対応で頼れる人事・労務の専門家

大東恵子さん(あすか社会保険労務士法人)

Share

関連するその他の記事

パワハラ防止法の施行により企業に対策を義務付け。職場環境の改善には何が必要?

町田仁美

町田仁美さん

未来を変えるアンガーマネジメントとコーチングのプロ

在宅勤務でリモートセクハラが問題に。Web会議のためにテレワークマナーは必要?

谷川由紀

谷川由紀さん

人材開発・組織開発・アンガーマネジメントのプロ

「コロナよりも怖いのは人間だった」商品不足でドラッグストアの店員が疲弊。『カスハラ』の実態と対応策

室岡宏

室岡宏さん

「心のストレッチ研修」で人材を定着させる社会保険労務士

大阪府庁がPC強制終了で残業削減、働き方改革で「ジタハラ」?メリットはあるの?

影山正伸

影山正伸さん

労務管理(給与計算含む)と人事・賃金体系整備に精通した社労士

カテゴリ

キーワード