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「ごみマンション」急増。背景に潜む心理は

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「ごみ屋敷禁止法案」が国会に提出

「ごみマンション」急増。背景にある心理とは

5月16日に、「ごみ屋敷禁止法案」が国会に提出されました。近年、社会問題として積極的にマスコミで取り上げられ、地方自治体が取り組んで来た努力の反映でしょう。

ごみ屋敷問題は、元来ものが捨てられない性癖の強い人が、おもに加齢や身体の障害が加わることで加速的に「ごみ屋敷人化」していく、いわゆる「セルフ・ニグレクト」と見なされるケースが中心です。セルフ・ニグレクトとは、自分の環境衛生や健康管理を継続的に怠っている状態で、それを援助しようとする個人的・公的な働きかけも一切拒否し、結果的に自分が危険にさらされることが特徴です。

ごみ屋敷の千倍の件数も?ごみマンションが急増

ところで、ごみ屋敷とは異なる「ごみマンション」が近年急速に増え続けており、「一軒家のごみ屋敷の千倍の件数に上っている」というデータがあるそうです。ワンルーム、アパート、公団、寮などの住人に多く、定職を持ち、普通に社会生活を送っていますが、周囲にはひた隠しにして客を迎えることがありません。

核家族化による単身世帯増加、ごみ分別の複雑化、夜間労働者の増加、コンビニ食材の消費拡大などが要因と言われています。ごみマンションの原因については、まだきちんとした体系的な研究が少なく、また、様々なケースがあり、種々の要因があって複雑です。簡単にいうと、「収集癖がある」「捨てられない性格」「だらしなさ」となるでしょう。この3つが揃えば、英語圏でいう「ホーディング(hoarding;強迫性貯蔵症)」になりますが、そこまでいかなくとも、ごみマンションになりえます。

ホーディングの場合は、ものに対する強い愛着のあることが特徴で、例えば新聞の切り端など、なんでもないものまで捨てることが困難です。「もの」は「ただのもの」ではなく、一つ一つに自分の人生のストーリーや、巡り会うかもしれないチャンスなどが込められています。しかし、正常に社会生活を送っている比較的若い人のごみマンションのケースでは、主たる心理はホーディングほどの病的なレベルではなさそうです。すなわち、もっと一般の心理に近い「だらしなさ」の要因が大きいのではないかと考えます。ただ、このだらしなさは、一種のセルフ・ニグレクトの域に達しているのかもしれません。

背景に「失った何かへの未練」や「自己評価の低さ」?

セルフ・ニグレクトの核には、深い失望や絶望があると考えます。ごみマンションの場合、軽症ではあってもセルフ・ニグレクトになったということは、やはり人生において何らかの失望を持っているように思われるのです。単身で周囲とは孤立した都市生活、報われない不規則労働、コンビニ弁当中心の食事といった中で、次第にそうなっていったのではないのでしょうか。そして、住まいはごみで埋もれていく。ごみというのは、捨て去るべきものであり、あまり役に立たないものですので、溜め込んでいる人の何らかの失ったものへの「未練」を象徴的に表していたり、あるいは「自己評価の低さ」であったりするかもしれません。

数多くの比較的若い世代の人たちがこのような状況にいるというのは、単に「変な人たちがいる」というのではなく、悲しい事態です。私たちの社会全体の問題として、今後の対応を考えていかなくてはならないと思います。

池上司

精神科医・ユング派分析家として心理療法を行う専門家

精神科医

池上司さん(池上メンタルクリニック)

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