ドキュメンタリー映画「徘徊」:認知症の母と娘の日々を描いた作品
今回みたDVDはこれ
「青年は荒野を目指す」というのは五木寛之さんの名作のタイトルですが、心の中で噴き出すように湧き起ってくる自立へのエネルギーに突き動かされる思春期や青年期の若者の姿が目に浮かんできます。この作品は実話をもとに名優のシーョン・ペンが監督をした作品で、まさしく「荒野」を目指して一人旅に出た青年の姿を見事に描いています。
「自立へのエネルギー」と言いましたが、少年少女の時期は親や大人の価値観を学び、社会に適応することが目の前のテーマです。しかし思春期を迎え青年期に入ると、親や大人の価値観や社会に息苦しさを感じ始めます。この映画の主人公クリスも大学までは何とか親の期待に沿った生き方をしてきましたが、ふつふつと湧き起る「自分らしい生き方」への衝動は抑えようもなく、一人で大人の社会や文化から離れて、文字通りの「荒野」へと一人で放浪の旅に出たのでした。
親に敷かれたレールから離れ、まだ未開の荒野の中に一人分け入って、自分の足で自分の道を切り開いていくクリス。しかしそれはあまりにも無計画で現実的な行動ではありませんでした。目指すところは「アラスカ」。未開の地へ分け入って、陳腐で無意味な都会での生活から縁を切る。そして一人で自分らしい人生を送ることが彼にとっての究極の生きる目的だったのです。
クリスの突き動かされるような姿に私も自分の若いころの事を思い出しながら見ていたのですが、彼のようにあまりにも繊細で傷つきやすく純粋に物事を考える若者は時として現実の世界に戻ってこれないことがあります。ギリシア神話に「イカロスの翼」という話があります。イカロスは蝋で固めた翼によって自由自在に飛翔する能力を得るのですが、自由自在に空を飛べることで自らを過信し、太陽にも到達できるという傲慢さから、「太陽に接近し過ぎてはいけない」という父の忠告を無視してしまいます。その結果イカロスは太陽に接近し過ぎたことで翼が溶けてなくなり、墜落して死を迎えてしまいました。
夢や希望に燃えて自分自身を信じるあまり、天まで舞い上がるのは仕方がないですが、その結果大地という人間の生きる現実の世界へ無事戻ってこれなければ、身を滅ぼしてしまいます。「自分は能力がある」「何でもやればできるはずだ」という自信は大切ですが、人間は天の上にすむ神様ではありません。引力に縛られて地に足をつけざるを得ない存在です。つまり高い理想や夢を現実に結び付けることが大切なのです。
主人公クリスもやっとそのことに気づき「幸せを現実にするのは、それを誰かと分かち合うときだ」ということを悟って家族のもとへと戻ろうとしたときには、もう遅かったのでした。これがフィクションではなく実話に基づいた作品であるだけに、大変胸に訴えかける物語でした。
興味のある方はゼヒ!
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