ドキュメンタリー映画「徘徊」:認知症の母と娘の日々を描いた作品
今回見た映画はこれでした。
これはなかなか印象に残った秀作でした。テーマは、少女の「イマジナリー・フレンド」との別れ。「イマジナリー・フレンド」というのは、文字通り「空想の中の友人」ですが、はジブリの「思い出のマーニー」なんかにも通じる成長期の少女の繊細な世界に現れる存在です。そしてこの映画の主人公の一人の少女ケリーアン(9歳)には、ポビーとディンガンという二人のイマジナリー・フレンドがいたのです。
あくまでも空想の中での話なので、周囲の人達、特に親には見えるはずもなく信じてもらえません。お兄ちゃんのアシュモールも初めは信じていませんでした。しかしケリーアンのあまりに真剣なまなざしに、心動かされたアシュモルは彼女の思いを認めたのです。映画では描かれていませんでしたが、兄のアシュモルもきっと心のどこかでおなじような体験をしたことを思い出していたのではないでしょうか。
大人になるともうすっかり忘れていますが、人は誰でもまず自分の心の中に「自分でありながら自分ではない誰か」を見つけ、その人と関わることで「自分と言うもの」に気が付くようになるのです。最初にも触れたジブリの「マーニー」や「千と千尋の神隠し」の物語など、まさしく、その年齢の少女の心の中の、現実と空想の狭間に産み出されたファンタジックな経験を物語にしたものだと思いますね。
そしてそういう体験の中の友人との別れを通じて、子どもは空想の世界から現実の世界へと新たに産み出されていくのです。ウィニコットという心理学者はその体験を「脱錯覚」と言いましたが、日本語訳のニュアンスは別にして、夢の様な世界から現実へと目覚める体験を表しているのでしょう。具体的に言えば「私のパパ・ママは世界一」と見えていたのが「なんだパパもママも普通の大人じゃないの」と気がつくような体験でしょうか(^^;)具体例を挙げると、ちょっと味気ないですけどね(-_-;)
そしてその別れと現実世界への導き手となるのが、「父親」の役割。この映画でも、空想の友人ポビーとティンガンを見失わせるきっかけとなたのが、父親でした。「目に見えているものだけがすべてじゃない」ということを大切にしながら、しかし一方では「我々は地に足をつけて現実を生きざるを得ない」存在であることを知らせることも、父親の果たす役割、また子どもが大人になって行く通過儀礼の役割かもしれませんね。
◇◆◇ 「目に見えているものがすべてじゃない」ことを大人も思い出そう!
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