飲食店 海外進出入門講座 Vol.1|なぜ今、海外市場が日本の飲食企業の成長戦略になるのか?
海外企業から、「三角貿易に参加してほしい。」「御社名義でLCを発行してほしい。」という話を持ち掛けられた場合、その取引を、どこまで信用してよいのでしょうか。
三角貿易そのものは、国際貿易で通常行われている正当な取引方法です。LC(信用状)も、国際貿易で広く利用されている決済手段です。
したがって、「三角貿易だから危険。」「LCだから安全。」という単純な判断はできません。
重要なのは、なぜ、その会社が取引に介在しているのか、なぜ、御社がLCを発行する必要があるのか、その取引構造に合理的な説明があるかを確認することです。
本記事では、実際に僕のもとへ寄せられた相談事例をもとに、三角貿易、LC、高額な利益分配などが組み合わされた海外取引で、中小企業経営者が何を確認すべきなのかを解説します。
目次
僕が最初に感じたのは、「取引構造を一度止めて確認すべき案件」
LCとは、「取引相手が信用できること」を保証するものではない
LCを断られた後に、「では前払いだけお願いします」と言われたら
「紹介者を信用している」は、会社のおカネを出す理由にならない
海外企業との取引でも、日本企業は「政府系企業だから安心。」「大企業だから大丈夫。」「長年付き合っている人からの紹介だから信用できる。」と考えてしまう場合があります。
しかし、海外取引では会社名、肩書、紹介者だけを信用して会社の資金や銀行与信を提供してはいけません。
三角貿易やLC取引などが複雑に組み合わされた案件ほど、取引の実態と資金の流れを、一つずつ分解して確認することが重要です。
ご相談事例
私のもとには、海外企業との取引、輸出入、海外販路、海外企業との事業提携などについてご相談をいただくことがあります。
その中には、通常の商取引として進められる案件もあれば、経営者が一度立ち止まり慎重に確認すべき案件もあります。
今回の相談事例は、次のようなものでした。
- A社:南アフリカの輸出会社
- B社:香港の輸入会社
- C社:台湾企業
- D社:ご相談を受けた日本企業。食品の輸出入を行う商社。
ご相談者は、D社の代表です。
D社に、以前から面識のあったC社から、次のような取引を持ち掛けられました。
A社が取り扱う銅を、香港のB社が購入する。その間に、台湾のC社が入り、三角貿易として取引を行う。
商品は、南アフリカのA社から、香港のB社へ直接輸送する。
一方、代金は、C社からA社へ支払い、B社からC社へ支払われる。
ここまでであれば、三角貿易そのものとして、異常な取引だとは言えません。
国際貿易では、販売会社や商社が第三国に存在し、商品自体は輸出国から輸入国へ直接運ばれるという取引はあります。
問題は、その先です。
C社の説明では、A社から前払いを求められた。そこで、C社が取引銀行へLCの発行を依頼した。しかし、銀行からLCを発行してもらえなかった。
そこで、日本のD社に、「C社の代わりにLCを発行してほしい。」と依頼したというのです。
そして、D社がLCを発行してくれれば、C社がこの取引で得る利益の半分をD社へ支払うという提案でした。
D社の経営者からのご相談は、「この取引に参加してよいと思いますか?」というものでした。
僕が最初に感じたのは、「取引構造を一度止めて確認すべき案件」
この相談を受けた際、僕が最初にアドバイスしたのは、すぐにLC発行や送金へ進まず、取引全体を一度止めて確認することでした。
僕がこの案件について強い違和感を持った理由は、一つではありません。
複数の不自然な要素が、同時に存在していたからです。
なぜ台湾のC社が介在する必要があるのか、なぜ本来の買主であるB社がLCを発行しないのか、なぜC社自身の銀行からLCを発行してもらえないのか、なぜ食品商社のD社が、突然、銅取引のLC発行を求められるのか、なぜD社は、取引実務をほとんど負わずに大きな利益を受け取れるのか
という疑問です。
海外取引で、一つの不自然な点があるから、即座に詐欺と判断することはできません。
しかし、複数の不自然な条件が重なった場合には、「信用する理由」を探すのではなく、「取引を止める理由がないか」を調べるべきです。
そもそも三角貿易とは何か?
三角貿易自体は、特殊な取引ではありません。
例えば、日本企業が海外のメーカーから商品を仕入れ、別の国の顧客へ販売する場合、日本へ商品を一度輸入せず、メーカーから顧客へ直接商品を発送することがあります。
商品は、
A国
↓
C国
へ移動します。
しかし、契約と代金は、A国のメーカー、B国の商社、C国の顧客という三者で動きます。
こうした取引には、
販売チャネル
商社機能
価格調整
販路
物流効率
顧客管理
商品調達
など、合理的な商流上の理由があります。
つまり、三角貿易が問題なのではありません。
問題なのは、「なぜ、この会社が間に入っているのか」を説明できない三角貿易です。
この貿易を三角貿易にする合理的な理由は何か
今回の案件で、私が最初に確認したかったのは、「なぜ、台湾のC社が、この銅取引に介在する必要があるのか?」という点でした。
仮に、香港のB社が、南アフリカのA社から銅を購入したいのであれば、通常は、A社とB社が直接取引する方法もあります。
もちろん、C社が、A社との独占販売権を持っている、B社との販売ルートを持っている、価格・物流・品質管理などの商社機能を担っている、信用供与を行っているという合理的な理由があれば、C社が介在する意味はあります。
しかし、今回の相談内容では、その経済合理性が十分に見えませんでした。
海外取引では、まず、
誰が売主なのか
誰が買主なのか
誰が契約当事者なのか
誰が商品代金を払うのか
誰が商品を受け取るのか
誰が利益を得るのか
誰が取引リスクを負うのか
を書き出すべきです。これだけでも、不自然な取引はかなり見つけやすくなります。
LCとは、「取引相手が信用できること」を保証するものではない
ここで、LCについて整理しておきます。
LCとは、Letter of Credit。日本語では、信用状と呼ばれます。
国際貿易では、輸入者側の銀行が一定の条件を満たした書類が提示された場合に代金を支払うことを約束する仕組みとして使われます。
ただし、非常に重要な点があります。
LCは、商品の品質や取引相手の誠実さそのものを保証する制度ではありません。
信用状取引の国際ルールであるUCP600では、銀行は、商品そのものではなく、提示された書類を取り扱うという考え方が基本です。
つまり、LCがあるから、商品が本当に契約どおりなのか、相手企業に問題がないのか、まで、銀行が保証してくれるわけではありません。
だからこそ、LC取引であっても、
相手企業の信用調査
契約内容
商品
船積条件
貿易書類
銀行
受益者
資金の流れ
を、別々に確認する必要があります。
なぜ、本来の取引当事者ではないD社がLCを発行するのか
今回の案件で、さらに大きな違和感があったのが、日本のD社へ、LC発行を依頼していることです。
D社は、食品を取り扱う専門商社です。
今回、突然、南アフリカから香港へ輸送される銅の取引へ関与することになります。
銀行が実際にLCを発行するかどうかは、申込企業の与信、取引内容、担保、貿易実績、取引相手などによって個別に判断されます。
したがって、「D社なら絶対にLCが発行されない。」と断定することはできません。
しかし、経営者として考えるべきことは、もっと基本的です。なぜ、自社の通常事業と関係の薄い取引について、自社の銀行与信を提供しなければならないのか。ということです。
ここを説明できないのであれば、銀行へ相談する前に、まず取引そのものを再確認する必要があります。
「利益の半分を渡す」という条件にも注意する
今回、C社はD社に対して、LCを発行してくれれば、C社の利益の半分をD社へ支払うという提案をしていました。
この条件も、かなり慎重に見る必要があります。
なぜ、それほど大きな利益を、取引にほとんど関与しないD社へ渡す必要があるのでしょうか。
経営者は、高い利益率を提示されると、「リターンが大きい取引。」と考えがちです。
しかし、ファイナンスでは、リターンが高ければ、通常、その分だけ、何らかのリスクがあります。海外取引で「ほとんど仕事をしなくても大きな利益が入る」と説明された場合、利益額を見る前に、「自社は何のリスクを引き受けるのか」を確認してください。
LCを断られた後に、「では前払いだけお願いします」と言われたら
今回のような案件で、特に注意したいのが、取引条件が途中から変わることです。
例えば、最初は、「LCを発行してほしい。」だった話が、銀行からLCを発行してもらえないと、「それでは、一時的に一部だけ前払いしてほしい。」という話へ変わる場合があります。
例えば、
「既に輸出準備を始めてしまった」
「御社がLCを出す前提で話を進めてしまった」
「あと数日だけ資金が必要」
「商品が届けばすぐ返済できる」
「政府系企業が買主なので絶対に回収できる」
と説明されるかもしれません。
この段階で、人間関係、責任感、申し訳なさによって送金してはいけません。海外取引で条件が「LC」から「前払い」へ変わった場合には、その場で判断せず、いったん取引全体を最初から再確認するべきです。
「政府系企業だから安全」は、信用調査にならない
今回の案件では、香港のB社について、「政府系の非常に優良な会社。」「絶対に信用できる。」という説明がありました。
しかし、これは信用調査ではありません。
まず、本当にその会社が存在するのか、正式な法人名は何か、会社登記は確認できるか、誰が株主なのか、本当に政府関係企業なのか、誰が契約権限を持っているのかを確認します。
有名企業名を使った、なりすましの可能性もあります。「大企業の名前が出ていること」と、「その大企業が本当に取引当事者であること」は別問題です。
実際の商品取引が存在するかを確認する
次に確認すべきなのが、そもそも、本当に銅の取引が実在するのかという点です。
例えば、
売買契約書
Proforma Invoice
商品の仕様
数量
価格
Incoterms
積出港・仕向港
船積予定
運送会社
保険
検査証明
原産地
輸出入に必要な許認可
支払銀行
受益者口座
などを確認します。
もちろん、書類があるから安全とは限りません。偽造された書類もあり得ます。
そのため、書類を、取引を持ち込んだ相手から受け取るだけではなく、必要に応じて、銀行、物流会社、検査機関、登記機関などへ、独立して確認します。海外取引のデューデリジェンスでは、「相手から出された資料を読む」だけではなく、相手とは別の情報源から事実を確認することが重要です。
「紹介者を信用している」は、会社のおカネを出す理由にならない
海外取引で、非常に危険なのが人間関係と企業与信を混同することです。
今回の相談でも、D社の経営者とC社側には、以前からの付き合いがありました。
しかし、長い付き合いがある、人柄がよい、共通の知人がいる、過去に小さな取引をしたということと、今回の大きな取引へ会社のおカネを出してよいという判断は別です。
さらに、C社自身が、A社やB社から誤った情報を与えられている可能性もあります。
つまり、取引を持ってきた相手に悪意がなくても、結果として、自社が損失を負う可能性があります。
だからこそ、「相手を信用するか」という問題と、「この取引へ会社のおカネを出してよいか」という問題は分けて判断します。
LCがあっても、貿易詐欺を完全には防げない
ここは、ぜひ中小企業経営者の方に理解していただきたいところです。
LCは、国際貿易の代金決済リスクを管理するための、非常に重要な仕組みです。
しかし、LCは万能な詐欺防止制度ではありません。
銀行が確認するのは、基本的に、信用状で求められた書類が信用状条件に適合しているかという点です。商品そのものを、銀行が現地まで行って検品するわけではありません。
したがって、
LCを利用する場合にも、
契約書
信用状条件
必要書類
船積条件
検査方法
相手企業の信用
銀行の信用
受取口座
物流
商品確認
を一体として設計する必要があります。
前払いを求められた場合に確認したいこと
海外取引では、前払い自体が異常な条件というわけではありません。URVグローバルグループも、基本的には、輸出の取引では、必ず相手に前払いを求めます。
重要なのは、なぜ前払いなのかです。海外取引では、「前払いをするか、しないか」ではなく、前払いリスクをどこまで小さく設計できるかを考えます。
海外取引は、「契約前」「送金前」「LC発行前」が最も重要
海外取引で問題が起きた後、海外の取引先から資金を回収することは、簡単ではありません。
相手国での、弁護士、裁判、仲裁、強制執行などが必要になれば、回収費用そのものが大きくなる可能性があります。
相手企業や資金が所在不明になれば、さらに難しくなります。
だからこそ、海外取引では、問題が起きた後の回収より、問題が起きる前の確認に経営資源を使うべきです。海外取引のリスク管理で最も費用対効果が高いのは、「契約前」「送金前」「LC発行前」に止まって確認することです。
グローバルビジネスでは、「儲かる取引」より「理解できる取引」を選ぶ
海外市場には、国内だけで事業を行っていては得られない、大きなビジネスチャンスがあります。
一方、国、言語、法律、通貨、銀行、商習慣、物流、が異なるため、取引構造は国内取引より複雑になります。
その複雑さにつけ込んだ、不正な取引が存在することも事実です。
だからこそ、経営者は、「いくら儲かるか。」より先に、「自分は、この取引の仕組みを最初から最後まで説明できるか。」を確認してください。
誰が売っているのか。
誰が買っているのか。
誰が払うのか。
商品はどこからどこへ動くのか。
銀行は何を保証するのか。
自社は何のリスクを負うのか。
この質問に、明確に答えられない取引へ、会社のおカネや信用を提供するべきではありません。グローバルビジネスで経営者が避けるべきなのは、「リスクのある取引」ではありません。自分が理解できていないリスクを負う取引です。
海外取引・貿易について、個別に判断したい経営者の方へ
「海外企業から特殊な取引を持ち掛けられた。」
「三角貿易のスキームが本当に合理的なのか判断できない。」
「LCを発行してほしいと言われている。」
「前払い・保証・立替払いを求められている。」
「相手企業の信用調査をどう行えばよいか分からない。」
「海外企業との取引を始めたいが、契約や決済条件に不安がある。」
「輸出・貿易を会社の次の成長事業にしたい。」
という段階では、契約や送金を急ぐべきではありません。
海外進出・貿易を検討する中小企業経営者向け|初回120分海外事業カンファレンス
現在、会社・事業を経営しており、原則として年商1億円以上、国内事業が一定程度確立したうえで、海外事業・貿易を次の成長戦略として検討しているオーナー経営者を対象に、海外取引の目的、取引スキーム、商品・サービス、取引相手、輸出・輸入、資金・決済、事業リスクまでを経営全体から整理します。
単発で一般的な貿易知識だけをお伝えする相談ではなく、
「この海外取引を、会社として進めるべきなのか。」
「この取引構造に、どのようなリスクがあるのか。」
「海外貿易を自社の成長事業として、どのように構築するのか。」
という段階から整理する初回カンファレンスです。
https://direct.mbp-japan.com/menu/detail/1587
URVグローバルグループ 総合商社事業
生産、貿易、物流、販売をつなぎ、国内外の価値ある商品を、それを必要とする市場へ届ける総合商社事業を展開しています。商品を海外へ販売するための貿易、海外販路開拓、流通・販売まで、実際の商流構築に取り組んでいます。
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