ベトナム・ホーチミン市場視察レポート Vol.2|レタントン通りで見た成長市場の光と影、現地提携と富裕層市場の可能性

松本尚典

松本尚典

テーマ:海外進出 コンサル


昼食を、現地で活動するM&Aのアドバイザリーの方とレタントン通りへ


2025年6月22日。
ベトナム ホーチミンシティに昨日の夜に到着し、今日から本格的な仕事と市場視察を開始します。

前回のVol1では、羽田空港からホーチミンシティに飛び、深夜のタンソンニヤット国際空港から市内へ移動する中で、この都市が放つ熱気と、眠らない成長市場の息づかいをお伝えしました。

今回のVol2では、その熱気の中に、さらに深く踏み込んでいきます。

午前の商談、現地で活動する日本人M&Aアドバイザリーとの情報交換、日系人エリアであるレタントン通りの雑踏、そして夜の高級寿司店で見たベトナム富裕層市場の現実。そこには、成長市場の華やかな光と、その足元に広がる濃い影が、同時に存在していました。

ホテルでビッフェの朝食をとり、朝9時から、今回の出張のメインの目標である、クライントの事業提携のための商談に向かいます。午前10時30分に、当初予定の成果をあげて商談が終了。

わずか1時間半の商談であっても、経営者が見るべきものは多くあります。相手企業の代表者が何を語り、何を語らないのか。どの論点で目に力が入り、どの条件で言葉を濁すのか。資料には出てこないその一瞬の反応に、海外事業提携の成否を分ける兆候が現れます。

海外進出の現場では、商談そのものの内容だけでなく、相手企業の意思決定のスピード、代表者の考え方、提携条件の出し方、そして日本企業との距離感を見ることが重要です。資料上では魅力的に見える会社でも、実際に経営者と向き合うと、事業提携に適した相手かどうかが見えてきます。

今回、僕が宿泊している、ドンコイ通りのサイゴン川近くにある、ホテルグランドサイゴンの部屋に戻り、シャワーで素早く汗を流したあと、昼食を一緒にとると約束していた方と、ホテルのロビーでの待ち合わせに向かいます。彼は、僕が、2017年までグループ企業の役員を務めていた企業で課長職だった方。今は、ベトナムでM&Aのアドバイザリーをはじめとするコンサルをされている、いわば、僕の同業者です。

海外進出を検討する経営者にとって、現地で実務を行っている日本人専門家から話を聞くことは、非常に価値があります。現地法人設立、M&A、事業提携、労務、不動産、会計、税務、現地パートナー選定。これらは、インターネット検索だけでは判断できない領域です。

彼の手配するgrabで、ドンコイ通りから、レタントン通りへ向かいます。

ベトナム経済成長の原動力 チャイナプラスワン


今回、僕は、ベトナムのホーチミン市には、コロナ禍後、はじめての訪問になります。Grab
の車窓から見える景色は、コロナ禍を通して、大きく変わりました。

街の輪郭が変わっている。
車窓の外を流れる建物、人の動き、店舗の明かり、交通量。その一つ一つから、数年前とは違う都市の圧力を感じます。

街の様子も大きく変わりましたが、やはり、物価の高騰が凄まじいと感じます。

ベトナムは、タイと並び、チャイナプラスワンの外資の動きを吸収して、成長しました。チャイナプラスワンというのは、つまりは、中国進出をした欧米や日本の企業が、チャイナリスクを避けるためのリスクヘッジとしての投資先、またはサプライチェーンを多角化するための投資先、を言います。

「世界の工場」中国が、共産党体制維持を最重視する政策を続けるに及び、そこから退避する企業の投資の恩恵を受けて、ベトナム経済が発展しました。

言い換えれば、ベトナムの経済発展の原動力は、内需だけではなく、海外からの投資です。そのため、流れ込む外資によって、都市部の不動産、人件費、サービス価格が上昇しやすくなるのは自然な流れです。

ベトナム進出を考える日本企業は、「ベトナムは人件費が安い」という過去のイメージだけで判断してはいけません。ホーチミンシティのような都市部では、優秀な人材の採用コスト、オフィス賃料、生活費、外食費が上昇しており、事業計画にはインフレを織り込む必要があります。

今、トランプ政権が成立し、相互関税の政策をアメリカ合衆国がとるに至り、中国からベトナムに逃避する中国資本が増えています。これもまた、ベトナムのインフレを加速させる原因になっています。

海外進出の判断では、成長率だけを見てはいけません。成長市場には必ず、物価上昇、人件費上昇、競争激化、優秀人材の奪い合いという副作用があります。ベトナムは魅力的な市場である一方で、すでに外資が集中する成熟した競争市場でもあるのです。

伸びている市場ほど、簡単には勝たせてくれません。
成長の勢いは、同時に競争の激しさでもあります。だからこそ、経営者は、熱狂に飲まれるのではなく、冷静に数字を見て、人を見て、現場を見て、参入の勝ち筋を描かなければなりません。

日系人エリア レタントン通り


レタントン通りは、日系人が集まるエリアです。日本人観光客というよりは、ビジネスでベトナムに来ている人たちが、この周辺に多く居住し、日本人にとって、ホーチミンで一番、過ごしやすい街でもあります。

日本語で書かれた看板が並び、日本人向けの飲食店、居酒屋、生活サービス、ナイトライフ関連の店舗も多く集まっています。ここを歩くと、ホーチミンシティにおける日系ビジネスの集積と、日本人駐在員・出張者を対象にしたサービス市場の厚みを感じることができます。

レタントン通りは、ホーチミンにおける日本人ビジネス社会の縮図です。安心感のある日本語の看板。その裏側で動く現地資本。駐在員の生活需要。出張者の消費。ローカルの人々にとっての商機。ここには、海外進出した日本企業と、現地社会との接点が凝縮されています。

昼食は、彼が予約をしてくれた、日系のイタリアンレストランで、2時間ほどかけて、さまざまな情報交換をしながら、とりました。

ここでの会話は、単なる旧交を温める食事ではありません。現地でM&Aアドバイザリーを行う専門家との対話を通じて、ベトナムで事業を買う場合、提携する場合、現地企業と組む場合に、どのようなリスクがあるのかを確認する時間でもありました。

海外進出には、自社単独で進出する方法、現地企業と提携する方法、既存企業を買収する方法があります。しかし、どの方法にも、現地の商習慣、財務の透明性、労務管理、許認可、株主構成、意思決定者の本音といった見えにくいリスクがあります。だからこそ、現地を知る専門家との情報交換が重要になります。

レタントン通りで、靴磨きに捕まる


彼と別れて、レタントン通りから、ドンコイ通りに向かって歩いていると、様々なローカルの人たちが、声をかけてきます。日系人エリアは、彼らにとって、絶好の、商売に適した地なのです。

ここには、ベトナム経済のもう一つの現実があります。外資が入り、街が発展し、富裕層向けのサービスが増える一方で、その成長の周辺には、日々の現金収入を求めて外国人に声をかけるローカルの人々もいます。

表通りには、日本語の看板が並ぶ。
その足元では、路上の小さな商売が、外国人の一瞬の隙を見つめている。
これもまた、成長都市ホーチミンの現実です。

フィリピンのマカティ市では、街路に、銃の安全装置を外している警官が大量に展開しているため、街路で、外国人相手に商売をするローカルは、ほぼいません。

一方、ベトナムは、そのあたりが自由なのでしょう。

社会主義政権であるベトナムのほうが、資本主義民主主義政権であるフィリピンよりも、自由であるというのは、不思議だなあ、と思いながら歩いていると、一人の靴磨きのローカルが、僕の足元を指さして、つきまとってきます。

普通、僕は、このようなローカルを寄せ付けたりはしないのですが、その時、ちょうど、その直前に降っていたスコールの作った水たまりに踏み込んで靴が汚れていたことと、僕のハードな仕事での歩行(僕は、ウオーキングを含め、一日に12,000歩平均で歩く人なので)で、靴がいたんでいたこともあり、その靴磨きのローカルに捕まってみることにしました。

彼は、僕の靴をスピーディに磨き上げ、傷んでいた箇所を補強し、靴の中敷きまで交換してくれました。これで、いくら請求してくるかと思いましたが、そのローカルの話す言葉(彼は、おそらく英語で話しているつもりのようですが、全く英語になっておらず)、金額が全く聞き取れないので、20万ドン札を2枚(日本円で約3000円程度)、財布から取り出して渡して、足早にそこから立ち去りました。

もちろん、そのローカルは、もっと高い金額を叫ぶ言葉を僕の背中にわめいていましたが、価格を先にきめたわけではないので、僕は、さっさとその場を離れました。

この出来事は、海外視察における小さなエピソードに見えるかもしれません。しかし、経営者にとっては、重要な学びがあります。海外では、価格、契約、条件を事前に確認しないままサービスを受けると、後でトラブルになる可能性があります。これは靴磨きに限った話ではありません。現地企業との取引、業務委託、M&A、店舗賃貸、人材紹介でも同じです。

海外事業では、「先に条件を決める」「書面に残す」「通訳や専門家を入れる」「現地相場を確認する」という基本動作が、リスク回避の第一歩になります。

レタントン通りには、ベトナムドンの金額換算に慣れていない日系人をターゲットとするローカルも少なくありません。日本人街に入ると、ナイトライフ関連の店舗で客待ちをするベトナム人女性の姿も目に入ります。

そのような風景を単なる異国情緒として見るのではなく、僕は、急成長する都市の裏側にある所得格差と、現金収入に依存する労働の現実として見ています。

靴磨きの男性にせよ、このようなナイトライフ産業で働く女性にせよ、この国の激しいインフレと所得格差が、固定収入なき労働者を生み出している側面があると感じます。

一方で、僕のような外資の事業家は、新興国に投資し、事業を進めて、その国の高い教育ある従業員に給与を出すことによって、これらの国の貧富の差を更に広げることに貢献してしまっているのです。

グローバル化と、それに伴う資本主義は、激しい貧富の格差を生み出すことは、自明の理です。一方、日本のように、その格差を広げないための選挙対策の目先のばらまき政策を重視すれば、成長性と経済効率性を犠牲にすることになります。

このグローバリゼーションが生み出す矛盾が、アメリカにトランプ政権を誕生させて、世界のグローバリゼーションを破壊し、一方で、日本の与野党が目先の選挙対策で競い合う愚策で、日本という国の経済競争力や国家財政を壊滅への道に進めているわけです。

欧米や日本の先進国の迷走に対して、極端な貧富の差を尻目に発展する新興国もまた、大きな矛盾を抱えていることを、僕は、レタントン通りを歩きながら実感したわけです。

海外進出を考える経営者は、この矛盾から目を背けてはいけません。新興国市場には、成長のチャンスがあります。しかし同時に、所得格差、労務リスク、価格交渉の不透明さ、現地社会との関係構築という難しさもあります。海外事業とは、単に安い労働力や成長市場を利用することではなく、その国の社会構造の中に自社の事業をどう位置づけるかを問われる経営判断なのです。

成長市場の道を歩くということは、明るいショーウィンドウだけを見ることではありません。その裏路地にある矛盾まで見たうえで、それでも自社の事業をどう根づかせるかを決めることです。

夜は、寿司励さんのカウンターで、お任せ料理を堪能する


再びホテルに戻り、猛烈な湿気と暑さで、ぐしょぐしょになった身体をシャワーで洗い流し、一服したのち、僕は、夜の街に繰り出しました。

昼に見たレタントン通りの雑踏と、成長市場の裏側にある矛盾。その余韻を抱えたまま、僕は夜のホーチミンを歩きます。濃い湿気をまとった空気、途切れないバイクの流れ、街角に灯る飲食店の光。その中に、この都市の消費力と、これからさらに膨らんでいく富裕層市場の気配を感じます。

昼のホーチミンは、商談と雑踏の街でした。
夜のホーチミンは、消費と欲望の街です。
その二つの顔を同じ日に見ることで、僕はこの都市の奥行きを、少しずつ掴み始めていました。

30分ほど歩いて、今日、予約をしてあった、寿司励(すしれい)さんにお邪魔します。

この店は、今、フィリピンで開業を目指す高級焼肉店のデザインと施工監理をお願いしている、一級建築士の近森穣さんが、10年前に設計デザインされた、高級割烹のお寿司屋さんです。

お任せのコースをカウンターでいただきました。日本で修業したのち、海外各国で高級寿司を握ってきた寿司職人の澤口さんとのお話を楽しみながら、日本の銀座の寿司屋さんで出される程度のお寿司とお料理を堪能させていただきました。

ここで僕が見たのは、単なる日本食レストランではありません。日本品質の高級サービスが、ベトナムの富裕層市場で成立しているという事実です。

カウンターの内側では、日本で磨かれた技術が、一貫一貫の寿司として差し出される。
カウンターの外側では、それを楽しむ顧客がいる。
この光景は、ベトナムにおいて高級日本食が、単なる異国料理ではなく、富裕層の消費対象として定着しつつあることを示していました。

海外で飲食事業を展開する場合、重要なのは、「日本で成功している業態をそのまま持っていくこと」ではありません。現地の富裕層が何に価値を感じるのか、どの価格帯なら成立するのか、サービス品質をどう維持するのか、現地人材をどう教育するのかを見極める必要があります。

日本でも、銀座あたりでしか食べられない高級な寿司を、ローカルの富裕層に出すお店が、10年以上経営し続けることができるのもまた、このベトナムという国の姿なのだと、僕は感じました。

昼のレタントン通りでは、成長市場の影を見ました。夜の寿司励さんのカウンターでは、成長市場の光を見ました。貧富の格差、外資の流入、インフレ、富裕層の拡大、高級消費の成立。そのすべてが、同じホーチミンシティの中で同時に進行しています。

この二面性を見ずに、海外進出を語ることはできません。

ベトナム進出、フィリピン進出、東南アジア展開を考える経営者は、成長市場の光だけを見るのではなく、その裏側にある社会構造、労働市場、所得格差、現地消費者の階層分化まで見なければなりません。そこまで見てはじめて、自社がどの市場を狙うべきか、どの顧客層に価値を提供すべきか、どのパートナーと組むべきかが見えてきます。

明日の行動に備えて、今夜は、レタントン通りなどに寄り道せず、ホテルに帰って、ぐっすりと寝ることにします。

今回のVol2では、午前の商談、現地M&Aアドバイザリーとの情報交換、レタントン通りの実態、そして高級寿司店に見るベトナム富裕層市場について書きました。

しかし、ホーチミン視察は、ここで終わりません。

次回のVol3では、さらに現場の深部に入ります。ベトナムでの事業提携は、実際にどのような条件で進むのか。現地人材、不動産、飲食事業の海外展開可能性には、どのような勝ち筋と落とし穴があるのか。Vol3では、経営者が海外進出を判断するうえで必要となる、より実務的な視点から掘り下げていきます。

海外進出は、視察に行くだけでは成功しません。現地で見たことを、事業戦略、投資判断、パートナー選定、人材計画、収益モデルに落とし込むことが必要です。

ベトナム進出、フィリピン進出、海外オフショア開発、海外飲食事業、現地企業とのM&A・業務提携を検討している経営者・事業責任者の方は、早い段階で専門家に相談することをお勧めします。

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松本尚典(経営コンサルタント)

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経営者の弱みを補強して売上を伸ばし、強みをさらに伸ばして新規事業を立ち上げるなど、相談者一人一人の個性を大切にしたコンサルティングで中小企業を成長させる。副業から始めて、独立で成功したい人も相談可能。

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