中小企業の資金繰り悪化は財務体質の危険信号|経営者が手遅れになる前に取り組むべき改善策

松本尚典

松本尚典


貧すれば鈍する(ひんすれば、どんする)


人は、お金があれば、それだけで幸せになれるわけではありません。しかし、現代社会において、貧しくても心穏やかに幸せに生きられるほど、現実は甘くありません。

企業経営においては、なおさらです。

生産性が低く、利益が伴わない会社の経営は、まさに地獄そのものです。

企業が生きていくためには、企業経営に携わったことのない人には想像もできないほどの固定費が必要です。人件費、家賃、リース料、借入返済、社会保険料、システム費用、広告費など、売上が上がろうが下がろうが、毎月、確実に支出されるお金があります。流動費を多少節約しても、固定費は簡単には削減できません。流動性が低い企業からは、どんどんお金が流れ出し、経営は火の車になります。

そうなると、経営者は、戦略的・中長期的な経営判断ができなくなります。未来の成長投資を考える余裕を失い、目先の現金獲得に走り、場当たり的な活動や、怪しい儲け話、条件の悪い資金調達に乗ってしまいがちです。

本来であれば冷静な判断ができる経営者であっても、資金繰りに追われると、判断力が鈍ります。焦りが、さらに悪い意思決定を呼び、悪い意思決定が、さらに資金繰りを悪化させます。

まさに、「貧すれば鈍する」という、最悪の状態に至ります。

企業経営にとって、利益をあげること以前に、資金繰りは重要


従って、企業経営においては、利益よりも先に、資金繰りが重要な課題となります。
企業の財務分析では、収益性の前に、流動性の分析を行います。

流動資産と流動負債を比較し(流動性比率)、その比率が低い企業は、与信評価において非常に厳しく判断されます。

これは、金融機関や取引先が、その企業について、「利益が出る会社かどうか」以前に、「支払うべきものを支払える会社かどうか」を見ているからです。

このような企業は、収益性を追求しようにも、社内留保もなければ、資金調達もできません。新しい商品開発、人材採用、広告宣伝、設備投資、DX化など、本来であれば将来の利益を生むはずの打ち手にも、資金を投じることができなくなります。

経営者は、次のような状態に陥ります。

□ 毎月の資金繰りが頭から離れない
□ 借入の返済に追われている
□ 銀行との関係や資金調達が怖い

□ 将来の投資余力が見えない
と言う段階を通り越して、最後には、
□今月を乗り越える目途すら立たなくなる

こうなっては、手遅れです。

経営者にとって最も恐ろしいのは、赤字そのものではありません。資金が尽きることです。帳簿上は利益が出ていても、手元資金が回らなければ、企業は倒れます。逆に、一時的に赤字であっても、資金繰りを管理し、財務体質を立て直すことができれば、再生の道は残されています。

こうなる前に、現状維持の守りの経営から抜け出し、資金調達が可能となる財務体質へ、会社を回復させなければなりません。

資金繰りの問題点は、財務体質にある


資金繰りが苦しい企業は、その事業構造や組織体制に起因する、財務体質の問題を抱えていることが多いものです。

企業とは、資本を経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)に変え、その経営資源を運用して、売上をあげる存在です。その売上から、経常的に支出される固定費を賄い、さらに流動費である仕入れや販売管理費、税金を支出します。そのうえで利益をあげ、その利益を資本として経営資源に再投資し、さらに利益をあげていきます。

この循環が正常に機能している企業は、順調に成長を続けます。一方、この循環がどこかで滞った場合、それが資金繰りの悪化という現象となって表れます。

つまり、資金繰りの悪化は、単なる「お金が足りない」という表面的な問題ではありません。事業構造、利益構造、組織体制、営業力、価格設定、固定費水準、借入依存度、在庫管理、回収サイト、支払サイトなど、会社のどこかに歪みが生じているという警告です。

従って、資金繰りの悪化は、この循環の滞りを示すサインなのです。

このサインを真剣に受け止め、資金繰りが破綻する前に、循環を正常な形に変える必要があります。

それをせずに、単に資金の獲得に奔走し、自転車操業に陥ると、循環はさらに悪化していきます。

借り入れで一時的に資金をつないでも、利益を生む体質に変わっていなければ、返済負担だけが増えます。売上を増やしても、粗利率が低ければ忙しくなるだけで、手元にお金は残りません。経費を削っても、成長に必要な投資まで止めてしまえば、将来の売上を失います。

そして、最後には取り返しのつかない事態を招いてしまいます。

循環の問題点は、多くの企業の場合、単一の理由ではありません。

  • 景気が悪いから売り上げがあがらない
  • 競合が厳しいから利益が出ない


こういった外部環境は、ほんの一因にすぎません。ほとんどの場合、企業を取り巻く外部要因ではなく、企業の内部要因に、より大きな問題点があります。

特に中小企業の場合、経営者の意思決定、組織の動かし方、商品やサービスの利益設計、営業の仕組み、管理会計の不足、金融機関との関係構築など、社内で改善できる余地が大きく残されています。

外部環境のせいにしている限り、会社は変わりません。経営者が自社の財務体質と向き合い、どこで資金の循環が滞っているのかを見極めることが、資金繰り改善、財務体質改善、そして企業の再生と成長の第一歩です。

財務体質改善


資金繰りに問題があると感じている場合には、初期段階で、財務体質をはじめとする事業スキームの改善を図る手を打つ必要があります。

本当に資金が回らなくなってしまってからでは、目先の資金繰りに追われ、根本的な改善に取り組むことができなくなります。

財務体質改善とは、単に経費を削ることではありません。売上、粗利、固定費、借入、回収、支払い、投資、人員配置、経営管理の仕組みを総合的に見直し、会社にお金が残り、再投資できる構造へ変えていくことです。

そして、この改善は、経営者が孤独に抱え込むべきものではありません。資金繰りが苦しいときほど、経営者は冷静な判断を失いやすくなります。だからこそ、第三者の視点で財務と事業を分析し、優先順位を明確にして、実行可能な改善策に落とし込むことが重要です。

早い段階で専門家に相談し、財務体質の改善を進めていきましょう。

資金繰りの不安から解放されて初めて、経営者は、本来取り組むべき成長戦略、人材育成、新規事業、事業承継、M&A、海外展開など、未来に向けた経営に集中することができます。

会社を守るためにも、そして会社を成長させるためにも、財務体質の改善は、先送りしてはならない重要な経営課題です。

資金繰りの不安、金融機関対応、財務体質改善、利益構造の見直しに課題を感じている中小企業経営者は、問題が深刻化する前に、経営コンサルタントへ相談することをお勧めします。早期に現状を分析し、改善の方向性を明確にすることで、会社の再生と成長の選択肢は大きく広がります。

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松本尚典(経営コンサルタント)

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