フィリピン進出・マカティ市場調査レポート Vol.3|現地調査から「出店エリア・事業計画」をどう確定するか?

松本尚典

松本尚典

テーマ:海外進出 コンサル


※本稿は、2024年12月に実施したフィリピン・マニラ首都圏マカティ市の市場調査記録をもとに、その後の海外飲食事業プロジェクトの進展を踏まえて再編集したものです。

Vol.1では、

街。

物価。

交通。

商圏。

を確認しました。

Vol.2では、

商業施設。

消費者。

価格帯。

夜間商圏。

現地人材。

を確認しました。

そして今回のVol.3では、

それらの調査結果を、

「では、どこに出店し、どのような事業をつくるのか」

という経営判断へ落とし込んでいきます。

海外市場調査の目的は、

たくさん写真を撮ることでも、

海外へ視察に行くことでも、

その国について詳しくなることでもありません。

海外市場調査の最終目的は、「この市場へ会社のおカネを投資してよいのか」を判断できる状態をつくることです。

市場調査は、「広く見る」段階から「絞り込む」段階へ進む


フィリピン到着から最初の2日間は、

マカティ市を中心として、

物価。

道路。

交通。

人の流れ。

商業施設。

飲食店。

昼と夜の違い。

顧客層。

などを広く確認しました。

これは、

最初から特定の物件や通りだけを見ると、

その場所を過大評価してしまう可能性があるからです。

まず、

都市全体を見る。



複数の商圏を見る。



顧客を見る。



競合を見る。



価格を見る。

そして、

自社の事業に適する可能性があるエリアを絞り込みます。

海外都市では、

数百メートル。

一本の道路。

一つの交差点。

を越えただけで、

人の流れ。

顧客層。

店舗構成。

交通。

夜間の安全性。

消費単価。

が変わることがあります。

したがって、

「マカティなら、どこに出しても同じ。」

ではありません。

飲食店は「都市」に出店するのではありません。

その都市の中の、限られた「商圏」に出店します。


海外進出では、「良い国」を探すのではなく「自社に合う商圏」を探す


海外進出について相談を受けると、

「フィリピンは有望ですか?」

「ベトナムとフィリピンなら、どちらがよいですか?」

という質問を受けることがあります。

しかし、

この質問だけでは答えを出せません。

なぜなら、

同じフィリピンでも、

マカティ。

BGC。

パサイ。

ケソン。

セブ。

その他の都市。

では市場が違うからです。

さらに、

同じマカティ市の中でも、

ビジネス街。

住宅街。

商業エリア。

ホテル集積地。

夜間型の飲食エリア。

では顧客が違います。

重要なのは、

どの国が成長するのか

ではなく、

自社の商品を誰が買うのか



その顧客はどこにいるのか



その顧客はどこで消費するのか



そこにどの競合がいるのか



その場所で利益を出せるのか


です。

市場調査3日目 候補エリアを重点的に検証する


滞在3日目。

僕は、最初の2日間の調査結果をもとに、

クライアント企業様の事業モデルとの適合性が高いと考えられるエリアへ、調査対象を絞りました。

ここからは、

街を見る

という調査から、

店舗事業が成立するかを検証する調査

へ変わります。

確認する内容も具体的になります。

候補物件周辺の写真を撮る。

昼と夜の人流を確認する。

道路から店舗がどう見えるかを見る。

車で来店できるか確認する。

配車サービスの乗降がしやすいかを見る。

競合店へ実際に入る。

価格を確認する。

飲食店の混雑状況を見る。

食材配送車が進入できるか確認する。

スタッフが通勤できるかを見る。

つまり、

「この場所は良さそうだ」という感覚を、「この場所なら事業が成立する」という根拠へ変えていきます。

飲食店の物件調査では、表側だけを見てはいけない


飲食店の物件を見ると、

まず、

立地。

外観。

間口。

人通り。

家賃。

に目が行きます。

しかし、

海外飲食店では、

店舗の裏側

を確認することも非常に重要です。

例えば、

必要な電力容量を確保できるか

給排水に問題はないか

厨房排気を設置できるか

排水・グリストラップ等をどう設計するか

厨房設備を搬入できるか

食材配送車が停車できるか

冷蔵・冷凍食材を保管できるか

従業員の出入口を確保できるか

ゴミ処理はどのように行うか

営業に必要な許認可を取得できる物件か

災害・浸水等のリスクはどうか


といった条件があります。

飲食店の場合、

集客できる場所

であっても、

厨房を作れない。

排気ができない。

電力が足りない。

物流が入れない。

という物件であれば、

出店できません。

良い飲食物件とは、「お客様が来る物件」であると同時に、「店舗を継続運営できる物件」です。

物件を見る前に、「誰を顧客にするか」を決めておく


物件を見てから、

「ここなら、どんな店ができるだろう。」

と考える方法もあります。

しかし、

海外進出では、大きな投資が伴います。

僕は、

この順番をおすすめしません。

まず、

Who?
誰に売るのか。

What?
何を売るのか。

How much?
いくら払ってもらうのか。

を考えます。

そして、

その顧客が存在する、

Where?
どの商圏なのか。

を探します。

最後に、

その条件を満たす物件

を探します。

物件から事業を考えるのではありません。

事業戦略から物件を探します。


これは、国内でも海外でも同じです。

「人が多い場所」が、必ずしも良い物件ではない


特に高価格帯の飲食業では、

歩行者数が多いほど良い

とは限りません。

例えば、

予約中心。

個室中心。

接待。

記念日利用。

高所得者層。

を対象にする店であれば、

顧客は徒歩ではなく、

自家用車。

運転手付きの車。

配車サービス。

などで来店する可能性があります。

その場合、

通行量が多い駅前型立地より、

車の乗降がしやすい。

プライバシーがある。

治安がよい。

高所得者層の生活圏に近い。

という条件の方が重要になる場合があります。

したがって、

立地の良し悪しは、「人通り」ではなく、「自社の顧客にとって利用しやすいか」で判断します。

市場調査では、「売れるか」だけでなく「儲かるか」を確認する


市場調査というと、

「この商品は売れそうだ。」

という需要調査で終わってしまうことがあります。

しかし、

経営者にとって必要なのは、

売れるか

だけではありません。

利益を出せるか。

さらに、

投資した資金を回収できるか。

です。

例えば、

高い客単価が期待できても、

家賃。

人件費。

輸入食材。

物流。

広告。

税金。

設備。

などが高ければ、

利益は残りません。

そこで、

市場調査結果を、

Vol.2で説明した投資回収計画へつなげます。

想定客単価

×

想定客数

×

営業日数



売上計画



食材原価

人件費

家賃

物流費

販売促進費

管理費

その他経費



利益・キャッシュフロー



初期投資



投資回収期間


まで落とします。

海外市場調査は、「売れそうな市場を見つける仕事」ではありません。

「投資に対して十分なキャッシュを生み出せる市場か」を確認する仕事です。


現地調査は、Goを決めるためだけに行うものではない


もう一つ重要なことがあります。

市場調査へ行くと、

せっかく現地まで来たのだから。

ここまで調査費をかけたのだから。

社内でも海外進出を発表しているから。

という理由で、

進出する方向の情報ばかりを集めてしまうことがあります。

これは危険です。

現地調査では、

「進出しない方がよい。」

という結論も、正しい成果です。

例えば、

想定顧客が少ない。

客単価を設定できない。

適切な物件がない。

必要な食材を輸入できない。

人材を採用できない。

投資額が大きすぎる。

回収期間が長すぎる。

法規制リスクが高い。

ということが分かれば、

進出を見送る。

別の都市を探す。

業態を変更する。

小規模なテストから始める。

という判断ができます。

市場調査の価値は、「進出する理由」を集めることではありません。

会社が大きなおカネを失う前に、「進出しない理由」まで発見できることです。


現地調査では、「五感」と「数字」の両方を使う


僕自身は、

新しい市場に入ると、

かなりの距離を歩きます。

街を見る。

店へ入る。

料理を食べる。

商品を手に取る。

音を聞く。

人の流れを見る。

昼と夜を比較する。

という調査を行います。

これは、

数字だけでは見えない情報を得るためです。

しかし、

五感だけで投資判断するわけでもありません。

経験者の「勘」は、

仮説を立てるためには役立ちます。

しかし、

最終投資判断では、

客数。

客単価。

競合価格。

家賃。

人件費。

原価。

設備費。

投資総額。

キャッシュフロー。

などの数字に落とします。

海外市場調査では、「現場感覚」と「定量分析」のどちらか一方では足りません。

現地で仮説を作り、数字で検証する。

数字で立てた仮説を、現地で再検証する。

この往復が重要です。


「一人で歩く」は僕の方法であって、すべての企業の正解ではない


僕自身は、

初期のマーケット調査では、

一人で街を歩くことを好みます。

自分の判断で、

立ち止まる。

店へ入る。

予定を変更する。

気になった場所へ移動する。

ことができるからです。

しかし、

海外市場調査は、

必ず一人で行うべき

という意味ではありません。

候補物件を本格的に評価する段階では、

建築。

店舗設計。

飲食運営。

法務。

物流。

財務。

など、

複数の専門家の目が必要になります。

実際、

海外飲食店の物件を最終判断する場合、

経営者だけでは確認できない問題があります。

初期調査では広く市場を見て、候補が絞れた段階で専門家を投入する。

これが合理的です。

市場調査の成果は、「写真」ではなく経営判断資料にする


海外市場調査を終えたら、

現地で撮影した写真を並べただけの視察報告書

で終わらせてはいけません。

経営陣が知りたいのは、

「マカティは活気がありました。」

という感想ではありません。

必要なのは、

なぜ、この市場なのか

誰を顧客とするのか

どの商圏なのか

競合は誰か

どの価格で売るのか

必要投資はいくらか

利益はいくら見込めるのか

投資を何年で回収するのか

どのようなリスクがあるのか

何を追加調査すべきか

進出すべきか、見送るべきか


です。

つまり、

市場調査報告書とは、

情報を集めた資料

ではなく、

経営者が投資意思決定をするための資料

です。

現地市場調査から、海外事業計画へ


市場調査で候補市場が見えてきたら、

次の段階へ進みます。

そこで、

海外事業計画

を作ります。

例えば、

事業コンセプト

ターゲット顧客

商品・サービス

価格

売上計画

店舗・立地

現地法人・進出方式

資金調達

初期投資

運転資金

人材採用・教育

食材・物流

マーケティング

法務・税務・許認可

開業スケジュール

投資回収

撤退基準


を、一つの計画として統合します。

海外進出支援というと、

現地法人設立。

ビザ。

物件。

輸出。

などを個別に支援する仕事だと思われる場合があります。

もちろん、それらも必要です。

しかし、

海外進出で最も重要なのは、個別の手続きを完了することではありません。

それらを一つの「利益を生む事業モデル」へ統合することです。


海外進出は「総合戦」で考える


海外事業では、

一つの専門分野だけでは解決できない問題が発生します。

例えば、

良い物件を見つけても、

輸入したい食材を持ち込めなければ、

商品戦略を変更する必要があります。

良い商品があっても、

十分な価格で売れなければ、

事業計画を変更します。

高い売上が期待できても、

初期投資が大きすぎれば、

投資回収期間が長くなります。

スタッフを採用できても、

教育できなければ、

サービス品質を維持できません。

つまり、

経営戦略

マーケティング

財務

人材

法務・税務

不動産

物流

貿易

店舗運営


が相互に影響します。

だからこそ、

海外進出は、

部分最適

ではなく、

総合戦

として設計する必要があります。

「昔の商社マン」の話より、今の中小企業経営者に必要な能力を考える


かつて、

日本企業が海外へ大きく進出していった時代には、

総合商社をはじめ、

現地へ入り、

市場を調べ。

取引先を探し。

行政と交渉し。

物流を作り。

事業そのものを立ち上げる。

という仕事をする人材が数多くいました。

現在は、

情報そのものは、

インターネット。

データベース。

AI。

オンライン会議。

などによって、日本にいても大量に入手できます。

しかし、

情報が増えたから、

海外進出が簡単になった

わけではありません。

むしろ、

情報が大量にあるからこそ、

「どの情報を信じ、どの情報を捨て、最後に自社として何を決めるのか」

という経営判断力が重要になっています。

現地へ行く意味も、

「情報が日本では手に入らないから。」

だけではありません。

現地で、

自分たちの仮説が本当に成立するのか

を確認するためです。

フィリピン市場を「高成長だから有望」と単純には考えない


2024年12月に僕がこの市場を調査した当時、

フィリピンは成長市場として強い注目を集めていました。

しかし、

経済成長率は毎年変わります。

為替。

インフレ。

金利。

政策。

世界経済。

によって、経済環境も変化します。

したがって、

「フィリピンは成長国だから進出する。」

という判断はしません。

重要なのは、

マクロ経済が変化しても、

自社が狙う顧客はいるのか。

必要な客単価は維持できるのか。

競争優位はあるのか。

利益を生み出せるのか。

です。

成長国に投資することと、成長する事業へ投資することは、同じではありません。

今回のマカティ調査から、その後の事業化へ


今回の調査では、

日本で作った事業仮説を持ってフィリピンへ入り、

マカティの、

街。

商圏。

顧客。

価格。

競合。

交通。

人材。

物件条件。

を確認しました。

そして、

初期段階で想定していた事業モデルについて、

さらに詳細な調査を進める価値がある

と判断しました。

その後、

追加市場調査。

物件調査。

事業計画。

関係者による現地視察。

物件選定。

契約交渉。

店舗設計。

施工。

メニュー開発。

食材調達。

人材採用・教育。

などの段階へ進んでいきました。

つまり、

2024年12月の市場調査は、

最終目的

ではありません。

その後の事業化へ進むための、

最初の投資判断

でした。

良い市場調査とは、「市場について詳しくなること」ではありません。

次に、何をすべきかを経営者が決められる市場調査です。


マニラ市

フィリピン進出の成否を決める7つの条件


今回の市場調査と、その後の事業化を振り返ると、

フィリピン進出に限らず、

海外進出では次の7つが重要だと考えています。

  1. 国ではなく、ターゲット顧客がいる都市・商圏を選ぶ
  2. GDPや人口ではなく、自社商品の実際の需要を確認する
  3. 物件契約より先に、顧客・商品・価格・事業計画を決める
  4. 売上ではなく、利益・キャッシュ・投資回収まで計算する
  5. 現地法人設立だけでなく、人材・物流・法務・税務・許認可まで統合して考える
  6. 計画通りにいかなかった場合の追加資金と修正策を準備する
  7. 進出する条件だけでなく、見送る条件・撤退する条件も決めておく


これらを事前に整理できている企業ほど、

海外進出を、

期待や勢い

ではなく、

経営戦略

として進められます。

Vol.1からVol.3までのマカティ市場調査を振り返る


この3回のシリーズをまとめます。

Vol.1では、

街・物価・交通・商圏を見る。

Vol.2では、

顧客・消費・夜間商圏・人材を見る。

そしてVol.3では、

それらの情報から、出店エリア・物件・事業計画・投資判断を組み立てる。

という流れです。

Vol.1

「この市場は、どのような場所なのか」

Vol.2

「誰が消費し、誰が働いているのか」

Vol.3

「では、会社として投資すべきなのか」


ここまで来て初めて、

海外市場調査が、

経営判断

になります。

URVグローバルグループのフィリピン進出支援実績事例
株式会社Cホールディングス 海外進出市場調査・不動産物件調査


フィリピン進出・海外飲食出店を検討している経営者の方へ


「フィリピンへ進出すべきか判断したい」

「マカティとBGCのどちらが自社に合うのか分からない」

「現地視察へ行く前に、調査項目を整理したい」

「候補エリアや物件があるが、本当に契約してよいか判断したい」

「海外飲食店の売上・利益・投資回収を検証したい」

「現地法人・人材・食材輸出・物件を一体として考えたい」

「自社だけでは海外事業計画を作るノウハウが不足している」

という段階では、

いきなり物件を契約したり、

現地法人を設立したりする必要はありません。

まず、

なぜ海外へ進出するのか。

誰に売るのか。

何を売るのか。

どの市場へ進むのか。

いくら投資するのか。

どの程度の利益を求めるのか。

何年で回収するのか。

誰が現地事業を経営するのか。

どこまでリスクを許容できるのか。

を整理します。

初回120分海外事業カンファレンスでは、

海外進出ありきではなく、

御社の現在の国内事業と海外事業構想を確認し、

次に調査すべきこと。

現在の構想で不足していること。

優先して判断すべきこと。

を整理します。

進出国がまだ決まっていなくても構いません。

候補国や候補都市が複数あっても構いません。

場合によっては、

現在は海外へ進出しない。

国内事業を先に強化する。

輸出から小さく検証する。

別の市場を調査する。

という判断になることもあります。

海外進出で大切なのは、「海外へ出ること」ではありません。

自社の経営資源を投資する価値のある海外事業を見つけることです。


海外進出・貿易を検討する中小企業経営者向け|初回120分海外事業カンファレンス

現在、会社・事業を経営しており、原則として年商1億円以上、国内事業が一定程度確立したうえで、海外を次の成長市場として検討しているオーナー経営者を対象に、

海外進出の目的。

商品・サービス。

ターゲット顧客。

候補国・候補都市。

市場調査。

進出方法。

初期投資・運転資金。

投資回収。

現地人材。

事業パートナー。

リスク。

まで、海外事業を経営全体から整理します。

単発で海外の一般情報や手続きだけをお伝えする相談ではなく、

「本当に今、海外へ進むべきなのか。」

という段階から検討する、契約前の初回海外事業カンファレンスです。

https://direct.mbp-japan.com/menu/detail/1587

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専門家

松本尚典(経営コンサルタント)

URVグローバルグループ 

年商3,000万円から4億円程度のオーナー社長を対象に、次の成長ステージへの経営を伴走支援。現役オーナーCEOとして、経営者の意思決定を継続的に支え、年商5億円の壁の突破を目指します。

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