ベトナム・ホーチミン市場視察レポート Vol.3|日系駐在員市場の縮小と、ローカル市場に根づく海外進出戦略

松本尚典

松本尚典

テーマ:海外進出 コンサル


見知らぬ国での海外出張での仕事の仕方


2025年6月23日。

ベトナム ホーチミンシティ視察レポートのVol.1では、深夜のタンソンニヤット国際空港に降り立ち、ホーチミンの街が放つ成長市場の熱気をお伝えしました。

Vol.2では、現地で活動するM&Aアドバイザリーの方との情報交換、レタントン通りで見た成長市場の光と影、そして高級寿司店に見るベトナム富裕層市場の可能性について書きました。

そして今回のVol.3では、このホーチミン視察の総括として、短期間の海外出張で最大の成果を出すための実務、ホーチミンで20年以上活動する日系不動産業者の社長から聞いた現地の構造変化、そして今後の日本企業の海外進出がどこに向かうべきかについて書いていきます。

明日、帰国日という短いホーチミンシティの滞在の中で、この日は、本業の仕事に朝から夕方まで没頭し、ホテルに帰っての業務と、ホテルのロビーにお越しいただく来客の方々と会う予定が続きます。

海外視察は、観光とはまったく違います。限られた滞在時間の中で、商談を行い、現地関係者と会い、情報を整理し、日本のクライアントへの対応も続けなければなりません。

異国の湿気をまとった空気の中で、朝から商談に向かい、昼は現地関係者と情報交換をし、夜はさらに別の経営者と会う。そしてホテルに戻れば、日本の仕事が待っています。海外出張とは、華やかな移動ではなく、限られた時間の中で判断を積み重ねる、経営者にとっての実戦の場です。

海外出張で成果を出す経営者には、移動、宿泊、面談、デスクワークを一体で設計する力が求められます。

海外出張で、土地勘があまりない地域では、仕事関係の方と約束をする場合、その約束の場所にたどり着くのが難しかったり、約束の場所で立っていると、ローカルのあまり質のよくないヒトに絡まれたりすることが多々あります。海外では、日本のような待ち合わせスポットというものが、あまりないのです。

従って、相手の会社を訪問する以外に、安全にヒトに会う方法は、自分が泊っているホテルのロビーにヒトにお越しいただき、ロビーやホテルのレストランで商談をすることです。

僕は、日本でのビジネス出張では、ほぼ、3つ星のビジネスホテルに泊まり、ホテルは、寝るだけの場所として動き回ります。一方、海外出張では、5つ星の有名なホテルを、URVグローバルグループが海外出張手配で提携するHISの法人事業部さんにとっていただくようにしています。

これは、贅沢のためではありません。海外出張におけるホテルは、単なる宿泊場所ではなく、仕事の拠点であり、商談場所であり、危機管理の拠点でもあります。

見知らぬ国では、ホテルのロビーが、自分にとっての仮設オフィスになります。ホテルの部屋が、資料を読み込み、メールを返し、次の商談の準備をする作戦室になります。そして有名ホテルの名前そのものが、現地の相手にとっての目印であり、こちらの信用を支える一つの看板にもなります。

海外出張のビジネスでは、必ず、ホテルが仕事の拠点になります。自分のオフィスがない海外出張先では、デスクワークは、ホテルの部屋や空港のラウンジで行います。そして、仕事の相手は、ホテルのロビーにお越しいただき、ホテルで商談をこなすようにしています。相手も、外のレストランなどで待ち合わせをすると、迷われる場合もあり、有名ホテルに来ていただくのが、相手にとっても、好都合なことが多いのです。

海外進出を検討する経営者にとって、現地視察時のホテル選びは、事業判断の精度にも関わります。治安、移動効率、通信環境、商談のしやすさ、来客対応、緊急時の対応力。これらが整っていないと、限られた出張時間の中で、本来得られるはずの情報や商談機会を失ってしまいます。

相手にホテルまで来ていただくためには、その土地にいる方が誰でも知っているホテルに宿泊する必要があります。

これ、ビジネス出張では、絶対に欠かすことができない条件だと僕は思っています。

昔、シンガポールで、URVグローバルグループで会社を創る前のことです。あるクライアント企業様の社長と一緒に行くシンガポール出張で、そのクライアント企業様の総務の方が、ホテルを手配されたことがあります。

手配をされた総務の方が、おそらく予算と空き情報だけで、ホテルを予約してしまったのでしょう。いざ、現地に行ってみると、そのホテルの前面道路は、車が駐停車できないエリアで、しかも、かなり辺鄙な場所にあるホテルでした。

食事がついていないホテルで、Grabもタクシーも呼ぶことができず、仕事も立ち往生してしまうはめに陥り、動きが全くとれなくなりました。

海外出張では、たった一つのホテル選びの失敗が、商談、移動、食事、情報収集のすべてを狂わせます。現地での一日は、日本での数日分に匹敵するほど貴重です。その一日を失うことは、単なる不便ではなく、経営機会の損失です。

シンガポールには、当時も、僕の配下のパートナーや、リサーチャーがいましたので、車で迎えにきてもらい、仕事の行動はなんとかできましたが、非常に、仕事上、難儀をした経験があります。

ふんだんに時間があるバックパッカーや、学生の卒業旅行などは別として、短時間の滞在で、最大のパフォーマンスをあげなければならないビジネスの出張では、ホテル選びは、非常に重要です。繁華街に近すぎて、治安が悪い場所のホテルや、現地のヒトも知らないできたばかりの新しいホテルは、避けるべきです。

海外進出の初期段階では、現地の商談先、弁護士、会計士、不動産業者、人材会社、提携候補先と短期間で会う必要があります。そのため、ホテルの立地と知名度は、単なる快適性ではなく、商談効率と安全性を左右する経営インフラなのです。

世界中の支店網があり、現地支店が手配できる体制の旅行社と契約を結び、会社に与信枠を設定して貰って、支払いを後払いにして、航空機を機動的に予約し、有名ホテルを手配してもらって、損害保険の付保も自動的に行える体制を作ることが、機動的な海外出張には欠かせません。

海外出張は、行ってから頑張るものではありません。出発前の手配段階で、成果の半分は決まっています。海外進出を本気で考える経営者は、現地視察の前に、出張手配、宿泊拠点、商談動線、現地移動、保険、緊急連絡体制まで設計しておく必要があります。

ホーチミンで20年以上活動する、日系の不動産業者の社長と会食をする


夕方に仕事の予定が予定通り、終了。

今日の夜は、ホーチミンで20年以上活動する、日系の不動産業者の社長と会食をすることになっていました。

ホテルのロビーで待ち合わせをさせていただき、ドンコイ通りをサイゴン川方面に行ったところにある、ベトナム料理のお店に連れて行っていただきます。

野菜のザウ・ムオン・サオ・トイと、お肉のボー・ザオ・ボー・ソイをとり、ベトナムに来たら欠かせないココナッツジュース(ココナッツの実をたち割って、中の果汁をそのまま飲む)を呑みながら、彼の話をお聞きします。

夜のホーチミンの喧騒の中で、20年以上この街を見続けてきた方の話を聞く。こういう時間こそ、海外視察の本当の価値です。現地で長く商売をしてきた人の言葉には、数字では拾えない変化が滲みます。街の賃料、人の流れ、駐在員の数、企業の勢い、撤退の気配。そのすべてを、現場で見続けてきた人だけが語れる重みがあります。

彼は、2000年代のはじめ、僕がPwCニューヨークに在職していたころに、ベトナムにやってこられました。以来、ホーチミンに基盤を置き、日系の大企業の駐在員の方々の住居などをご案内する不動産業を20年続けてこられた方です。

ベトナムの成長と、日系企業の進出状況を、ずっと見てこられた方のお話は、非常に興味があります。現地で20年以上、日系企業と日本人駐在員の動きを見てきた方の言葉には、統計資料やニュース記事では掴めない重みがあります。

中でも、今の傾向の話に非常に興味がわきました。

今、日系企業の駐在員の数が、大きく減ってきているというのです。

この一言を聞いた瞬間、僕は、ホーチミンにおける日本企業の進出モデルが、一つの時代を終えつつあることを感じました。

既に、日系の大企業のベトナム進出は、ピークを通り過ぎました。もう、進出する企業は、すべて進出が終わっているそうです。大企業の新規の進出案件は、ほぼなくなり、中小企業の案件があるも、既に市場は飽和を迎えて、資金力のない中小企業は事業が安定的に続かない状態にあるようです。

加えて、大企業では、現地従業員のレベルがあがり、日本人駐在員を日本から派遣する必要性が少なくなった、ということです。

その結果、日本人ビジネスマンの数は、既にベトナムでは大きく減っている状態にあると言います。

これは、海外進出を考える日本企業にとって、極めて重要な示唆です。かつてのように、日本人駐在員が現地に常駐し、日本本社のやり方をそのまま現地に移植する時代は、終わりに近づいています。これからの海外事業は、現地の優秀なローカル人材を中心に据え、現地市場に合わせて運営する段階に入っています。

なるほど、僕が考えても、今、日本では、人手不足が深刻化しており、一方、若者の内向き志向が強くなり、海外駐在の転勤を、大企業がさせにくくなっている事情もからんでいるのでしょう。

彼の、
「日系を対象とした不動産業から、別の不動産事業への転換を考えています。」
という台詞は、非常にショッキングでした。

20年以上、日系駐在員を支えてきた不動産業者が、日系向け事業からの転換を考えている。この言葉は、単なる一企業の事業転換ではありません。ホーチミンにおける日系ビジネスの地殻変動を示す言葉でした。

日本人が来て、日本人が住み、日本人向けのサービスが広がる。そんな時代が、少しずつ終わろうとしている。代わって主役になりつつあるのは、ベトナムのローカル人材であり、ローカル企業であり、ローカルの富裕層・中間層です。

この一言は、ホーチミンにおける日系ビジネスの構造変化を象徴していました。日本人駐在員向け市場が縮小し、日系企業向けサービスだけでは成長が難しくなっている。つまり、ベトナム市場は、もはや「日本人が日本人向けに商売をする場所」ではなくなっているのです。

海外進出支援事業を大きな事業の柱にする僕が、日系人ではなく、現地のローカルの人材を中心に海外事業を進めるべきと、考えていることに、彼の話は、大きく一致していました。

今後、日本企業がベトナムで成功するには、日本人駐在員を大量に送り込む発想ではなく、現地の経営人材、営業人材、技術人材、管理人材をどう採用し、育成し、権限移譲していくかが重要になります。海外進出の成否は、現地人材戦略によって大きく左右される時代に入っています。

同時に、ベトナムは、相互関税を主張するアメリカから、ASEAN内でも厳しい関税を突き付けられました。その結果、対米輸出ビジネスに絡む企業は、大きな打撃を受けていると言います。

海外進出には、現地市場だけでなく、米国、中国、ASEAN全体の政策変化が影響します。ベトナムに拠点を置いても、対米輸出に依存する事業モデルであれば、アメリカの通商政策の変更によって収益構造が大きく揺らぐ可能性があります。

成長市場は、常に追い風だけを吹かせてくれるわけではありません。外資が流れ込み、街が豊かになり、人材が育つ一方で、通商政策、為替、関税、地政学リスクが、ある日突然、事業の前提を変えてしまうことがあります。海外進出とは、その変化の中で、自社の軸を失わずに立ち続ける経営そのものなのです。

ベトナムの成長性と、日本からの進出


ホーチミンで最もにぎやかなドンコイ通りには、2010年代は、外国人向けの土産物屋がたくさんありました。

コロナ禍を通り越した今、その土産物屋が消えていたことが印象的でした。今は、ベトナムのローカルの富裕層向けのブランドショップが軒を連ねています。

この変化は、ホーチミンの市場構造が変わったことを物語っています。外国人観光客を相手にしたインバウンド消費から、現地の富裕層・中間層を相手にしたローカル消費へ、街の主役が移りつつあるのです。

かつて土産物を買う外国人で賑わっていた通りに、今はローカル富裕層を狙うブランドショップが並ぶ。街の看板が変わるとき、市場の主役も変わります。ドンコイ通りの変化は、ベトナムという国が、外から来る消費を待つ段階から、自国の内側に生まれた消費力で動く段階へ移りつつあることを示していました。

これは、コロナ禍で消失した外国人の数が、いまもって、戻っていないことを示しています。

ベトナムほどの外資誘致に積極的な国でさえ、インバウンドを当て込んだビジネスというものが、いかに継続しないかを物語っていると、僕は感じました。

サプライチェーンの多角化を当て込んだ進出も、世界最大の市場であるアメリカの政策の変更で、大きな逆風に見舞われます。

今後の海外進出では、インバウンドやサプライチェーンを目当てにする進出ではなく、現地のローカルの経済的成長と、高所得者層・中間層の需要を取り込む、その国と一緒に成長する、息の長い進出でなければ、事業の継続性にかけるのではないかという思いを、ベトナムで強く感じました。

海外進出を検討する経営者は、「どの国に進出するか」だけでなく、「その国の誰を顧客にするのか」を明確にしなければなりません。外国人観光客なのか、日系企業なのか、日本人駐在員なのか、現地富裕層なのか、成長する中間層なのか。顧客設定を誤れば、どれほど成長市場に進出しても、事業は長続きしません。

ベトナム進出、フィリピン進出、東南アジア展開において重要なのは、その国のローカル市場の中に、自社の提供価値をどう根づかせるかです。現地の所得水準、消費行動、教育水準、採用市場、商習慣、法規制を見ながら、長期的に続く事業モデルをつくる必要があります。

短期間に、多くの人と会い、今のベトナムを観た、有意義な視察でした。

Vol.1では、ホーチミンの熱気を見ました。
Vol.2では、成長市場の光と影を見ました。
そして、このVol.3では、ベトナム市場の構造変化と、日本企業が進出する際の本質的な課題を確認しました。

3日間のホーチミン視察で見えたものは、単純な成長物語ではありませんでした。そこには、外資流入の勢いがあり、インフレの影があり、ローカル富裕層の台頭があり、日本人駐在員市場の縮小がありました。成長する国は、常に姿を変え続けます。その変化を読み違えた企業から、市場から退場していくのです。

今回の視察を通じて、僕が強く感じた結論は一つです。

海外進出は、安い人件費や一時的なブームを追うものではありません。その国のローカル市場の成長とともに、自社の事業をどう成長させるかを設計するものです。現地の人材を活かし、現地の顧客に価値を提供し、現地社会の変化に合わせて事業を進化させる。その覚悟がなければ、海外進出は長続きしません。

明日、羽田空港に向けて、帰国します。明日からは、日本で、たくさんのクライアントの企業経営者の方が、僕を待っておられます。

ホーチミンの湿った夜気、ドンコイ通りの変化、レタントン通りの光と影、現地で20年戦ってきた経営者の言葉。それらを胸に、僕は日本へ戻ります。海外で見た現実を、日本企業の次の成長戦略に変えていくためです。

海外進出を検討している経営者・事業責任者の方にとって、現地視察はゴールではありません。視察で得た情報を、事業戦略、投資判断、人材戦略、現地パートナー選定、収益モデルに落とし込んではじめて、海外進出は実行可能な計画になります。

ベトナム進出、フィリピン進出、海外オフショア開発、海外飲食事業、現地企業とのM&Aや業務提携を検討している方は、初期段階で専門家に相談することで、不要な失敗を避け、勝ち筋のある海外展開を設計しやすくなります。

年商48億円の企業グループのオーナーCEOの経営コンサルタントが、2時間無料で個別コンサル!ベトナム進出・フィリピン進出・海外オフショア開発・海外事業展開・現地企業とのM&Aや業務提携・現地人材戦略に関する初期相談も可能です。松本尚典の無料相談 https://direct.mbp-japan.com/menu/detail/936


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松本尚典(経営コンサルタント)

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経営者の弱みを補強して売上を伸ばし、強みをさらに伸ばして新規事業を立ち上げるなど、相談者一人一人の個性を大切にしたコンサルティングで中小企業を成長させる。副業から始めて、独立で成功したい人も相談可能。

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