ベトナム・ホーチミン市場視察レポート Vol.3|日系駐在員依存から「ローカル市場・現地人材」へ転換する海外進出戦略

松本尚典

松本尚典

テーマ:海外進出 コンサル


※本稿は、2025年6月23日に実施したベトナム・ホーチミン市での市場視察記録をもとに、2026年時点の市場環境を踏まえて再編集したものです。

ホーチミン視察3日目 現地で得た情報を「経営判断」に変える


2025年6月23日。

ホーチミン市での市場視察も、残すところわずかとなりました。

Vol.1では、

市場。

人材。

現地パートナー。

事業インフラ。

を、海外進出を検討する経営者がどのように確認すべきかを考えました。

Vol.2では、

現地企業との事業提携。

レタントン周辺の日本人街。

M&A・資本提携。

高価格帯の日本食市場。

を見てきました。

そして今回のVol.3では、

このホーチミン視察を、

単なる出張記録

で終わらせず、

「これから日本企業は、ベトナムでどのような海外事業をつくるべきなのか」

という経営戦略へつなげていきます。

僕が今回、特に重要だと感じたのは、

日本人駐在員や日系企業だけを顧客にする事業から、

ベトナムの現地顧客。

現地企業。

現地人材。

へ市場を広げることです。

海外進出で本当に強い事業とは、「日本企業が海外にある状態」ではありません。

現地の顧客から選ばれ、現地の人材によって運営できる事業です。


海外出張は、「行ってから考える」のではなく、事前に設計する


短期間の海外出張では、

時間そのものが経営資源です。

現地企業との商談。

市場視察。

専門家との情報交換。

候補物件。

人材会社。

不動産会社。

会計・法務関係者。

そして、

日本側のクライアントへの対応。

これらを短期間で並行して進めます。

したがって、

海外視察は、

航空券とホテルを予約すれば準備完了

ではありません。

誰に会うのか

何を聞くのか

どのエリアを見るのか

どの時間帯に見るのか

どこを商談拠点にするのか

どのように移動するのか

空いた時間に何を調査するのか

緊急時にどう対応するのか


まで、出発前に設計します。

海外市場視察では、現地へ着いてから情報収集を始めるのではありません。

日本にいる段階から仮説を作り、その仮説を現地で検証します。


海外出張のホテルは、「宿泊施設」ではなく仕事の拠点


僕は、国内出張と海外出張では、

ホテルの選び方を変えています。

海外出張の場合、

ホテルは、

寝るためだけの場所

ではありません。

商談。

オンライン会議。

資料作成。

メール対応。

次の商談準備。

来客対応。

そして、

緊急時の拠点

にもなります。

そのため、

交通の便

治安

通信環境

ロビー等で商談できるか

タクシー・配車サービスが利用しやすいか

現地の相手が場所を理解しやすいか

空港・商談先への移動効率

セキュリティ

緊急時の対応


を確認します。

必ずしも、

高級ホテルでなければ仕事ができない

という意味ではありません。

大切なのは、

そのホテルが、自分の出張目的に合った「仕事の拠点」として機能するか

です。

ホテル代の節約より、出張全体の生産性を見る


海外出張では、

宿泊費だけを見てホテルを選ぶと、

結果的に高くつく場合があります。

例えば、

商談先から遠い。

車が入りにくい。

渋滞の激しい場所にある。

来客が場所を見つけにくい。

通信環境が弱い。

夜間に周囲を歩きにくい。

というホテルであれば、

移動時間。

交通費。

商談機会。

安全管理。

に追加コストが発生します。

経営者が見るべきなのは、

ホテル一泊の価格

ではありません。

海外出張では、「宿泊費」ではなく、「限られた現地滞在時間からどれだけ成果を生み出せるか」で宿泊拠点を選びます。

ホーチミンで20年以上事業を行う日本人経営者から話を聞く


この日の夜は、

ホーチミンで20年以上にわたり不動産事業を行っている日本人経営者と会食しました。

長年、

日系企業。

日本人駐在員。

ホーチミンの不動産市場。

を現場から見てきた経営者です。

このような方から話を聞くことは、

海外市場調査では非常に重要です。

統計資料では、

現在の市場規模

は分かります。

しかし、

10年前と比較して何が変わったのか。

顧客はどこへ移ったのか。

日本企業は何を求めるようになったのか。

駐在員の住むエリアはどう変わったのか。

どのサービスが伸び、何が衰退しているのか。

という長期的な変化は、

長く現場で商売をしている経営者から聞くことで見えてくる場合があります。

海外市場では、「現在の数字」と同じくらい、「市場がどちらへ動いているのか」を理解することが重要です。

「日本人駐在員向けだけでは伸びにくい」という現場の問題意識


その経営者との会話の中で、

非常に印象に残った話がありました。

長年、

日本人駐在員向けの住宅を中心に扱ってきたものの、

顧客構造の変化を踏まえ、

今後は別の市場へ事業を広げる必要がある

と考えている、という話です。

この話は、

「ベトナムから日本人駐在員がいなくなっている。」

という単純な意味ではありません。

現在もベトナムには、

多数の日系企業と日本人が存在しています。

むしろ僕が重要だと感じたのは、

日系企業や日本人だけを顧客とするビジネスには、成長の上限がある

ということです。

市場全体が成長しているのであれば、

日本人市場だけを見るのではなく、

ベトナム人顧客。

外国企業。

現地企業。

新しい所得層。

へ顧客を広げる必要があります。

海外進出では、「日本人がいる市場」を探すことから、「自社の商品を必要とする現地顧客がいる市場」を探すことへ発想を変える必要があります。

ベトナムの日系企業は「終わった」のではない


ここは、重要な点です。

ベトナムには現在も、

非常に多くの日系企業が進出しています。

そして、

今後も事業を拡大したいと考えている企業が多くあります。

つまり、

日本企業のベトナム進出が終わった

わけではありません。

一方で、

進出の目的は変化しています。

かつて、

製造コスト。

低い人件費。

日本向け輸出。

日本人駐在員向けサービス。

などを中心に成立していた事業でも、

現在では、

現地市場への販売。

ベトナム企業との協業。

高度人材の活用。

デジタル事業。

小売。

サービス。

外食。

など、

より多様な市場を取り込む必要があります。

これからのベトナム進出は、「日本企業の海外拠点を作る」だけでは足りません。

ベトナム市場の中に、自社の事業をどう組み込むかが問われます。


現地化とは、日本人を減らすことではない


海外事業で、

「現地化」

という言葉がよく使われます。

しかし、

日本人駐在員を減らして、

現地スタッフに仕事を任せれば、

現地化が完了する

わけではありません。

本当の現地化には、

現地管理職を育てる

権限と責任を明確にする

評価制度を作る

本社との報告体制を整える

経営理念・品質基準を共有する

現地市場に合わせて意思決定できるようにする

不正・コンプライアンスを管理する

日本本社が必要な部分だけを統制する


といった仕組みが必要です。

日本人がいなくても回る

だけでは十分ではありません。

現地の人材が、自ら顧客を理解し、判断し、利益を生み出せる組織をつくることが現地化です。

現地人材への権限移譲には、同時にガバナンスが必要


現地人材を活用するというと、

「任せればよい。」

という話になりがちです。

しかし、

海外事業では、

権限移譲

と、

経営管理

をセットで考える必要があります。

例えば、

誰がいくらまで決裁できるか

銀行口座を誰が管理するか

契約権限をどこまで持たせるか

本社へ何を報告するか

財務数値をどの頻度で確認するか

採用・解雇を誰が決定するか

取引先選定をどう管理するか

情報セキュリティをどう担保するか


を決めます。

海外事業の現地化とは、本社が管理を放棄することではありません。

「現地で意思決定できる仕組み」と「本社が統制できる仕組み」を同時につくることです。


ベトナムでは、人材を「安く採る」発想から離れる


ベトナム進出のメリットとして、

人件費の安さ

が挙げられることがあります。

確かに、

日本と比較した賃金差はあります。

しかし、

優秀な人材については、

日系企業だけではなく、

ベトナム企業。

中国系。

韓国系。

台湾系。

欧米系。

などとの獲得競争があります。

特に、

エンジニア。

営業。

専門職。

管理職。

など、

事業を成長させる人材ほど、

採用競争は激しくなります。

したがって、

海外人材戦略で重要なのは、「日本よりいくら安く採用できるか」ではなく、「優秀な人材に選ばれる会社になれるか」です。

給与だけではありません。

キャリア。

教育。

権限。

仕事の面白さ。

経営者との距離。

評価。

会社の将来性。

などを含めて、人材戦略を作る必要があります。

ドンコイ通りの変化を、「インバウンド衰退」とは決めつけない


今回のホーチミン滞在では、

ドンコイ通り周辺の店舗構成が、

以前訪問した時とは変わっていることも印象に残りました。

過去に外国人観光客向けの店舗があった場所に、

高価格帯のブランド店舗。

飲食店。

商業施設。

などが増えている場所があります。

ただし、

これを見て、

「外国人観光客が戻っていないから、観光客向け店舗が消えた。」

と判断することはできません。

街の店舗構成は、

観光客。

現地消費。

家賃。

再開発。

ブランド戦略。

商業施設の開発。

など、さまざまな要因で変わります。

重要なのは、

街の変化を見て結論を出すことではなく、「なぜ変わったのか」という調査仮説を立てることです。

海外事業は、一つの顧客層に依存しすぎない


この話から、

海外進出を考える経営者に、

ぜひ考えていただきたいことがあります。

それは、

顧客集中リスク

です。

例えば、

日本人駐在員だけ。

日系企業だけ。

外国人観光客だけ。

米国向け輸出だけ。

一社の現地代理店だけ。

に依存する事業です。

市場環境が変われば、

売上全体が一度に影響を受けます。

そこで、

現地顧客

日系企業

その他の外資企業

輸出市場

複数の販売チャネル


を組み合わせるなど、

顧客・販路の分散を検討します。

海外事業で重要なのは、「一番売れる顧客を見つけること」だけではありません。

一つの市場環境が変わっても、会社全体が止まらない収益構造をつくることです。


米国の通商政策も、ベトナム事業の外部環境になる


ベトナムで事業を行っていても、

影響を受けるのは、

ベトナム国内の政策

だけではありません。

例えば、

ベトナムで製造して、

米国へ輸出する企業であれば、

米国の関税政策。

原産地規則。

貿易ルール。

によって、

事業採算が変わる可能性があります。

逆に、

ベトナム国内の現地顧客を対象にした事業であれば、

影響の受け方は異なります。

ここから分かるのは、

進出国だけを見て海外事業リスクを判断してはいけない、ということです。

「どこで作り、どこから仕入れ、誰に売るか」まで含めたサプライチェーン全体でリスクを見ます。


「現地市場を狙う」ことにもリスクがある


一方、

現地顧客を狙えば安全

というわけでもありません。

現地市場では、

ベトナム企業。

中国企業。

韓国企業。

欧米企業。

日系企業。

などが競争しています。

また、

経済成長によって、

人件費。

家賃。

広告費。

顧客獲得費。

も上昇します。

だからこそ、

「ローカル市場が伸びている。」

だけでは進出理由になりません。

確認するのは、

どの顧客層が伸びているのか

何に支出しているのか

競合は誰か

自社の商品は何が違うのか

いくらで販売できるのか

必要投資はいくらか

何年で投資回収できるのか


です。

ベトナム進出で目指すべきは、「日本の会社の海外支店」ではない


僕が今回のホーチミン視察を通じて改めて感じたのは、

海外事業を、

日本本社のコピー

として作ってはいけない

ということです。

日本の商品。

日本のブランド。

日本の技術。

日本の品質管理。

という強みは活かします。

一方で、

顧客。

人材。

価格。

営業方法。

マーケティング。

商品仕様。

組織。

は、

現地市場に合わせる必要があります。

海外進出で持っていくべきなのは、「日本のやり方」そのものではありません。

日本企業が持つ強みです。


強みを残し、

方法は現地市場に合わせる。

これが、

長期的に現地市場へ根づくための基本だと考えています。

ローカル市場へ根づく海外事業の7つの条件


今回のホーチミン視察を整理すると、

長期的に現地市場へ根づく海外事業には、

少なくとも次の7つの条件が必要だと考えます。

  1. 日本人・日系企業だけでなく、現地顧客まで市場を広げる
  2. 「安い人件費」ではなく、現地人材の能力を競争力に変える
  3. 日本人駐在員に依存せず、現地管理職を育成する
  4. 現地へ権限を移しながら、本社のガバナンスを維持する
  5. 一つの顧客・国・輸出先に売上を依存しすぎない
  6. 日本の強みを残しながら、商品・サービス・組織を現地化する
  7. 市場・人材・競争・通商政策の変化に合わせ、事業モデルを継続的に修正する


海外事業は、

一度進出方法を決めれば、

10年間同じ方法で運営できる

ものではありません。

成長市場へ進出するということは、「変化する市場へ進出する」ということです。

海外市場調査では、一人の話を「市場全体の事実」にしない


今回、

ホーチミンで20年以上事業を行う経営者から、

非常に貴重な話を聞くことができました。

ただし、

その方が感じている市場変化を、

そのまま、

ベトナム全体の事実

として扱ってはいけません。

これは海外市場調査で重要な点です。

例えば、

「日本人駐在員が減っている。」

という話を聞いたのであれば、

在留邦人数。

日系企業数。

不動産需要。

企業の駐在方針。

人材会社。

商工会議所。

など、

複数の情報で確認します。

海外市場調査では、「現地に詳しい人の話」は非常に重要です。

しかし、それは答えではなく、次に検証すべき仮説です。


Vol.1からVol.3までのホーチミン市場視察を振り返る


今回の3回のシリーズを整理します。

Vol.1では、

市場・人材・パートナーをどう見るか。

を考えました。

Vol.2では、

誰と組み、誰に何を売るのか。

を考えました。

そしてVol.3では、

どうすれば現地市場へ長期的に根づく事業になるのか。

を考えました。

Vol.1

海外へ行って、何を確認するのか

Vol.2

現地で、誰と組み、どの市場を狙うのか

Vol.3

現地市場で、どう継続的に利益を生み出すのか


つまり、

海外進出の目的は、

現地法人を設立することでも、

海外へ出張することでも、

海外企業と契約することでもありません。

海外進出の目的は、海外市場の経営資源を活用し、自社が長期的に利益と企業価値を生み出せる事業をつくることです。

現地視察を終えたら、次は「海外事業計画」へ落とし込む


海外市場視察を終えたあと、

僕なら、

視察報告書だけを作って終わりにはしません。

現地で得た情報を、

進出目的

ターゲット顧客

商品・サービス

候補市場

進出方法

現地パートナー

人材計画

組織体制

投資額

売上・利益計画

資金調達

投資回収

リスク

撤退基準


へ落とします。

そして、

Go。

修正してGo。

追加調査。

No-Go。

を判断します。

海外市場視察の成果物は、「海外へ行ってきた報告書」ではありません。

会社として次に何をするかという意思決定です。


ベトナム進出・海外事業を検討している中小企業経営者の方へ


「ベトナムへ進出すべきか判断したい」

「日系企業向けだけではなく、現地顧客を開拓したい」

「現地スタッフへ、どこまで経営を任せるべきか分からない」

「現地管理職を育成して、日本人駐在員への依存を減らしたい」

「ベトナム企業との事業提携・M&Aを検討している」

「ITオフショアや海外人材活用を検討している」

「ベトナムとフィリピンなど、複数の候補国を比較したい」

「現地視察で得た情報を、事業計画へ落とし込みたい」

という段階では、

海外進出の方法を先に決める必要はありません。

まず、

なぜ海外なのか。

なぜベトナムなのか。

誰を顧客にするのか。

何を売るのか。

自社のどの強みを海外へ持っていくのか。

現地企業と組むのか。

誰が現地事業を経営するのか。

いくら投資するのか。

何年で投資を回収するのか。

どのような環境変化まで耐えられるのか。

を整理します。

場合によっては、

現地法人を作らず事業提携から始める。

小規模なオフショアから検証する。

輸出から始める。

別の国を検討する。

現在は海外へ進出しない。

という結論になることもあります。

それも、正しい海外事業戦略です。

海外進出は、「海外へ出ること」が成功ではありません。

現地市場に根づき、現地顧客から選ばれ、現地人材とともに利益を生み続けられる事業をつくることが成功です。


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現在、会社・事業を経営しており、原則として年商1億円以上、国内事業が一定程度確立したうえで、海外を次の成長市場として検討しているオーナー経営者を対象に、

海外進出の目的。商品・サービス。ターゲット顧客。候補国・候補市場。現地企業との事業提携。M&A・資本提携。海外オフショア。現地人材・現地化。現地法人。初期投資・運転資金。投資回収。国内事業とのシナジー。事業リスク。

までを、経営全体から整理します。

一般的な海外情報や手続きだけをお伝えする相談ではなく、

「本当に今、海外へ進むべきなのか。」

「ベトナムは、本当に御社の次の成長市場なのか。」

「日本人駐在員に依存せず、現地市場へ根づく事業をどう作るのか。」

という段階から検討する、契約前の初回海外事業カンファレンスです。

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松本尚典
専門家

松本尚典(経営コンサルタント)

URVグローバルグループ 

年商3,000万円から4億円程度のオーナー社長を対象に、次の成長ステージへの経営を伴走支援。現役オーナーCEOとして、経営者の意思決定を継続的に支え、年商5億円の壁の突破を目指します。

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